治療薬候補「アビガン」、医師判断で軽症者にも早期投与可能に 福岡県医師会

福岡県医師会は11日、新型コロナウイルス感染症の治療薬として期待される抗ウイルス薬「アビガン」を、現場の医師の判断で軽症者も含め早期に投与できる独自の仕組みをつくり、同日から県内47医療機関で運用を始めたと発表した。安倍晋三首相は4日の記者会見でアビガンについて「今月中の薬事承認を目指す」と表明したが、全国に先駆けて投与しやすくした。
アビガンは新型コロナの治療薬としては承認されておらず、現在は一部の大学病院などが医療改善のために進める「観察研究」の一環として投与されている。投与するには、各病院が倫理審査委員会を設置し承認を得る必要があるなど高いハードルがあり、現場の医師からは柔軟に投与できるよう望む声が出ていた。
県医師会は今回、事前に登録した県内の医療機関が、アビガンの臨床研究を進める藤田医科大(愛知県)の「観察研究」に一括して参加できる仕組みを厚生労働省などに提案し認められた。新型コロナ患者に対応可能な県内100余りの医療機関のうち、参加を希望したのが47機関だった。
「福岡県方式」と名付けた新たな仕組みでは、投与できる基準に「主治医などが重症化の可能性を憂慮する患者」を独自に加え、現在は投与しづらい軽症者も対象にした。また、各医療機関に代わって県医師会に置いた倫理審査委員会がまとめて審査し、事後審査でもよくすることで早期投与を可能にした。患者には副作用を説明して同意書を得る他、対象は入院患者に限定した。
11日に記者会見した県医師会の上野道雄副会長は「現場で闘っている医師や看護師のため、一刻も早く実現したかった」と話した。【平塚雄太】
有効性や副作用の検討、求める声も
「アビガン」は既に新型コロナウイルスの患者約3000人に投与されているが、医療現場には有効性や副作用について慎重な検討を求める声もある。
新型コロナウイルスの院内感染が起きた福岡記念病院(福岡市)の舛元章浩副院長によると、これまで同病院では約40人に投与し、8割で症状が改善した。ただ、非投与の患者らと比較しておらず、症状の改善がアビガンの効果かどうかは判断できないという。また、ある30代の女性患者はアビガン投与後にPCR検査で2度陰性となった後に肺炎が悪化し、投与をやめると改善した。
舛元副院長は、女性患者の肺炎の悪化はアビガンの副作用だったとみており「副作用が新型コロナによる肺炎と似ていれば気付かれない恐れもある」と指摘。「投与で救われる命がある」と早期承認に理解を示す一方で「薬害の歴史を踏まえて有効性や副作用を慎重に検討し、副作用が分かれば十分に周知することが重要だ」と警鐘を鳴らす。
厚生労働省によると、新薬の承認には通常1年程度かかるが、安倍晋三首相が表明した「5月中の承認」は緊急性を踏まえた上での判断としている。同省の担当者は「安全性がおろそかになってはならないと考えている」と話した。【平川昌範】