中国湖北省武漢市が発生源である新型コロナウイルスは、世界全体で感染者が370万人以上、死者も26万人を超えた(=米ジョンズ・ホプキンズ大学、6日集計)。感染拡大の勢いは、収束する気配はない。
厚労省は7日にも、治療薬候補「レムデシビル」を薬事承認する方針だが、ワクチンの実用化には1年半程度かかるとされており、半年後、1年後の状況を予測することは困難だろう。
日本人は「災害」というと、身体に感じないものも含めて年間1000回以上発生している地震や、大雨・台風による社会経済活動の停滞などは、ある程度は想定できた。
だが、今回のような感染症による甚大な社会経済活動の自粛・破壊は、あまり想定してこなかった。日本の国土面積は約37万8000平方キロしかない。どこに住んでいても、ウイルスに感染するリスクがある。
日本は、国内外にさまざまなリスクを抱えている。
北朝鮮の核・ミサイル開発や、北朝鮮や中国による国家的サイバー攻撃、中国の東シナ海での軍事挑発、海外でテロに巻き込まれる可能性、甚大な被害を出す自然災害などだ。
自然災害は「気象災害」「地質災害」「生物災害」の3つに分類されるが、今回の新型コロナウイルスのような感染症は、病虫害などとともに「生物災害」に含まれる。
これらのリスクに対応する法律としては、ミサイル攻撃やテロに対しては「国民保護法」、サイバー攻撃には「サイバーセキュリティ基本法」、自然災害には「災害対策基本法」、感染症には「感染症予防法」などで対応する。
国民保護法は、総務省の外局である消防庁が主に対応する。感染症予防法は、主に厚労省が対応する。災害対策基本法は、複数の省庁がまたいで対応する。リスクの発生当初、情報が錯綜(さくそう)し、官庁間の調整に時間がかかる場合もある。
新型コロナウイルスに関しては、武漢市で発生当初、色々な憶測が飛び交った。感染症ならば厚労省、生物テロなら警察庁、生物兵器なら防衛省といった具合だ。省庁の縦割り行政は、初動の遅れにもつながる。
さらに言えば、新型コロナウイルスで混乱している日本に、中国が東シナ海で攻勢をかけてきた場合、日本政府は二正面作戦に同時に対応できる危機管理体制を整えていない。
新型コロナウイルスの問題が収束しないまま、梅雨の時期の大雨や台風による住民避難が生じた場合の、行動計画を策定している地方自治体も皆無に等しい。日本は目に見えない敵と戦っている。まさに「戦時防災体制」なのだ。
■濱口和久(はまぐち・かずひさ) 1968年、熊本県生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒、日本大学大学院総合社会情報研究科修了(国際情報修士)。陸上自衛隊、栃木市首席政策監などを経て、拓殖大学大学院特任教授、同大学防災教育研究センター長。著書・共著に『戦国の城と59人の姫たち』(並木書房)、『日本版民間防衛』(青林堂)など。