新型コロナウイルスの緊急事態宣言が延長され、人々のストレスも限界を迎えているのか。ネット上では感染者の個人情報を暴露するなどつるし上げが横行、リアルでは他県ナンバーの車や営業を続ける飲食店に嫌がらせする「自粛警察」も出没している。正義感で“取り締まり”している人も多いとみられるだけに厄介だ。
「クズすぎる!」「バカすぎ」などとネット上で怒りの矛先となっているのは、山梨県で感染が確認された東京都内に住む20代女性だ。女性は4月26日に味覚や嗅覚に異常があったが28日まで勤務先に出勤。今月1日に検査を受け、陽性だったにもかかわらず、2日に高速バスを乗車し、乗車日を虚偽申告していた。
女性の友人男性も感染が確認されたことから、女性の行動に問題があったことは否めない。だがネット上では、女性への罵詈(ばり)雑言だけでなく、顔写真や本名、プライベートなど真偽不明の情報がさらされ、「公開処刑」の様相だ。
配慮を欠く言動はネット上だけではない。感染拡大の防止策として、都道府県をまたぐ移動の自粛が呼び掛けられていることから、他の都道府県ナンバーの車両に傷を付けたり、幅寄せするなどといった迷惑行為が相次いでいる。「他県ナンバー狩り」なる言葉まで生まれている状況だ。
自治体からの要請を守って時短営業をしている飲食店でも、店舗の貼り紙に「バカ」「潰れろ」などと落書されている。自治体の休業要請にもかかわらず営業を続けるパチンコ店に抗議し、怒号が飛び交う動画も投稿されている。
行き過ぎた注意をしてしまう人の心理について、新潟青陵大学の碓井真史教授(社会心理学)は、「基本的に欲求不満が高まることで攻撃性が増してしまうが、理性がないわけではないので、攻撃されない人に対して暴力的になる」と分析する。「自粛が続き内向きになると、よそ者を受け入れようとしなくなる。個人情報をさらす“ネット自警団”も自分の行動が正義であると信じている」のが特徴だという。
言語道断なのが、コロナ対策の最前線に立つ医療従事者やその家族への嫌がらせだ。保育園への出入り禁止やタクシーの乗車拒否などの被害が出ている。日本看護倫理学会は4月2日に「新型コロナウイルスと闘う医療従事者に敬意を」と声明を出した。
碓井氏は、正しい知識を身につければ、こうした行動は減るとみる一方、新型コロナウイルスに対する人々の恐れが無くなるまではすぐに解決できないとも予測する。
少し冷静になって行動したい。