日本で育ったのに、大人になると突然理由なき「収容」。「人間扱いして」と訴えるクルド人女性

◆6歳から日本の学校に通ってきた少女が、大人になったとたんに収容される

最近は入管関連のニュースが日々、取り上げられるようになってきた。収容施設での外国人に対する非人道的な扱いも表に出るようになり、人々の注目を集めるようになった。しかしほんの2年前までは、日本でこの問題を知る人はほとんどいなかったと言える。この状況を大きく変えたのが、トルコから来たクルド人女性のメルバンさんである。

難民として日本へ逃れてきた父親のもとへ、6歳の時にやってきたメルバンさん。彼女もビザがないままの「仮放免」という、住民票も保険証もない不自由な状態だったが、義務教育はすべて日本で終えた。

しかし2017年11月、22歳になったメルバンさんは理由も告げられず強制収容された。パニック障害を患っていたが、収容施設内では自分で服用していた薬も使わせてはもらえなかった。

彼女は施設内でたびたびパニックを起こしては苦しみ、血を吐き、泣き叫び続けた。精神状態はギリギリの状態だったが、それでも持ち前の気の強さで職員たちに抵抗していった。

◆入管の非道を訴えた、メルバンさんを救出するムーブメントが起きる

メルバンさんはメディアに名前や顔を出すことを決心し、入管内部の非道を訴えていった。たいていの被収容者は名前や顔を出すことを恐れる。入管からの報復が怖いし、難民の場合は母国に居場所がバレれば困る人も少なくない。

しかしメルバンさんは躊躇することなく、薬が飲めないこと、職員に虐められること、劣悪な環境などについて訴え続けた。この訴えは功を奏し、さまざまなメディアに取り上げられるようになっていった。

「6歳から日本で育ってきた女の子が、大人になったら収容される」。この日本で起きている現実に衝撃を受けた人々は次々と行動を起こすようになり、メルバンさん救出のためにネット署名や解放をアピールするスタンディングが行われるなど、一つのムーブメントが起きた。そしてついに、2018年4月に彼女は解放されることとなった。

今まで日本社会の裏に隠されていた外国人への人権侵害にやっと人々が気づき、目を向けられるようになったのだ。

あれから2年後、現在のメルバンさんはどうしているのか。インタビューを行った。

◆収容の辛い体験によって、持病のパニック障害が悪化

24歳になったメルバンさんは現在も仮放免の立場で、2か月に1度、東京入管へ仮放免手続きのために通っている。入管1階にある部屋で、職員に「早くトルコへ帰りなさい」「帰らないとまた収容するわよ」と毎回脅されるのが苦痛でたまらない。男性職員にも女性職員にも言われるという。

かつて、東京入管の1階で捕まって10階の収容施設まで連れて行かれた経験があるので、その時のことを思い出していつも怖い思いをしている。時には「頭おかしいんじゃない?」といった侮辱を受けることもあるが、「知ってるでしょ、私は(病気で)頭がおかしいの!」と気丈に返す。

来るたびにそう言われ続けるので、言われても無視をするようになり、黙ってその場をやり過ごすようになった。

解放されてもしばらくは、悪夢を見ては飛び起きるという繰り返しだった。毎日のように入管職員に暴力をふるわれる夢を見ては、夜中に飛び起きていた。次第に眠れなくなってしまい、持病のパニック障害は収容のため悪化。収容されたことによるトラウマや、やり場のない苦しみにひたすら耐え続けた。

◆「税金払っていてもいつかはビザを切られる。バカみたいだよ」

ある日、激しい目の痛みに襲われ、耐えられず叫んだ。目が飛び出すのではないかと思うくらいの激痛が襲う。片目が絵の具をグチャっと塗りたくられたような感じになり、気持ちが悪くなって吐いた。

大騒ぎをして救急車で運ばれ、医者に診てもらうと「ストレスが原因」だと言われた。今は回復しているが、その時は急激に視力が落ちてしまっていた。一方、持病のほうの回復の兆しは見られず、医者には入院を勧められた。しかし「保険がないので、とても無理だ」と諦めてしまった。

入管に「保険証がほしい」と頼んでも、「ビザがないからダメ」と断られてしまう。「保険がなければ大金がかかってしまう。どうか人間扱いしてほしい」といくら嘆願しても、職員は「ルールだから」と、とりあってもらえない。

彼女の夫もクルド難民であり、6か月の特定活動ビザを持っているため税金もしっかり払っている。メルバンさんは夫に、いつもこう言っている。

「税金払っていても意味ないよ。真面目に生活していたって、いつかはビザを切られるんだし。バカみたいだよ」

しかし夫は、メルバンさんのために「税金を払い続ける」と言う。

◆「どうか、仮放免者も人間扱いしてください」

彼らは、夫婦とはいっても入籍はしていない。メルバンさんは「自分と入籍したことで、もしかしたら夫のビザも取り上げられてしまうのではないか」と不安を感じている。子供も早くほしいが、今の体の状態ではとうてい叶わない。

メルバンさんは、今は専業主婦として家にいる。高校を2年で辞めたことをすごく後悔している。努力してせっかく受かった高校だったが、入管職員に「ビザのないあなたが高校に行ったところで意味がない」と言われ、そのショックで辞めてしまった。「今からでもいいから、行けるものなら学校に行って通訳になりたい」という。

「人に助けを求めたり、お願いしたりするのにもう疲れた。ビザを取得して、自分で何でもできるようになりたい。自分で働いて何とかしたい。いま住んでいる埼玉県から出られない(仮放免者が県境を越えるには許可が必要)のが辛い。これでは生きている意味がない……」とメルバンさんは言う。ビザがないと銀行のカードですら作れないのだ。

「自分の弟や、他のクルドの子供たちには、私のようになってほしくない。大人になり、収容されて人間扱いされないなんて酷すぎる。

自分がいちばん言いたかったのは、10万円の給付金を仮放免の人にもあげてはもらえないものだろうかということ。私の場合は、まだ夫にビザがあり生活は何とかなっているけど、私の周りにいる親戚や友人、その子供たちは、どうしても生活が苦しい。

仮放免者も人間です。日本で生きているんです。どうか同じように扱ってください。どうか人間扱いをしてください」(メルバンさん)

◆これは彼女たちの問題ではなく、日本の問題

今回のインタビューでは、何度も「人間扱いしてほしい」と言う言葉が繰り返された。

収容は地獄だが、解放されてもビザがないかぎり問題は後を絶たない。メルバンさんの苦難はいつ終わるのか。

同じくビザのない子供たちも同じように残酷な未来が待っているのだろうか。日本に生きる我々がさらなる問題意識を持ち、変えて行かなければいけないのではないだろうか。彼女たちではなく、これは彼女らを追い詰める日本の問題ではないだろうか。

「『トルコに帰りなさい』と言われますが、私は帰りません。日本が自分の国だと思っています」(同)

メルバンさんの意思は固い。

<文/織田朝日>

【織田朝日】

おだあさひ●Twitter ID:@freeasahi。外国人支援団体「編む夢企画」主宰。『となりの難民――日本が認めない99%の人たちのSOS』(旬報社)を11月1日に上梓