大正時代は「アマビコ」? 百科事典にアマビエに似た妖怪 栃木「足利学校」で展示

漢籍や古書を数多く所蔵する栃木県足利市の国指定史跡「足利学校」は、疫病を払うとの言い伝えがある妖怪「アマビコ」が載った大正時代の百科事典を展示している。学芸員の大沢伸啓さん(60)は「SNSで話題の『アマビエ』と共通する特徴がある。コと旧字のヱは似ており、伝播(でんぱん)の過程でアマビコがアマビヱに変わったのではないか」と話している。
展示しているのは、1916年発行の「廣(こう)文庫」の第1冊。あいうえお順に編まれた初の百科事典だという。
それによると、アマビコについて、江戸時代末期に熊本の海に現れ、病の流行を予言した「怪鳥」とし、「しかれども我が姿を書きしを見るものは、病にあわず、早々この事、諸国へ相触れ候様」と言い残して消えたと記している。挿絵は、くちばしのある3本足の姿で、見ようによってはペンギンに似ている。一方、アマビエについての記述はなかった。
民俗史に詳しい「足利民俗セミナリー」の中島太郎代表(57)=足利市月谷町=によると、病気の流行を予言したり警告したりする妖怪の存在やその絵を描き、流布することで病から逃れられるという伝承は各地にあり、特にコレラが流行した江戸時代には現代の「チェーンメール」(不幸の手紙)などのように急速に伝播したという。
アマビコも警告する妖怪の一種。一方で疫病除(よ)けの願いを背負って突発的に民衆の支持を集める「はやり神」のような存在でもあったという。中島さんは「妖怪の予言やはやり神は、民衆の不安を背景に流行した。情報伝達の手段が乏しい時代、アマビコの写し絵は病除けの護符として民衆に広がり、場合によっては病の大流行を先触れする役割を果たしていたのではないか」と指摘している。
廣文庫は同学校復元建物の「方丈」で展示中。【太田穣】