東京電力福島第1原発事故で2017年3月まで避難指示が出されていた福島県川俣町山木屋地区で、住民62人が事故や避難当時の思いをつづった証言集「震災の記憶 山木屋では」が完成した。発起人の山木屋公民館長、広野隆俊さん(76)は「山木屋の人たちがどんな思いで過ごしてきたのかが、この一冊に詰まっている」と話す。【磯貝映奈】
「2011年5月22日。計画的避難の第1陣90人が大粒の涙を流し、バスに乗り込んでいった姿が忘れられません」。証言集には生々しい言葉が並ぶ。広野さんも11年5月から約6年間、町内で避難生活を送り、避難指示解除とともに山木屋に戻ってきた。「戻った人たちが安心して集える場所が必要だと思った。公民館の館長として、真っ先に帰ろうと準備していた」と当時の心境を明かす。
震災翌年、広野さんは、同町の大綱木地区公民館で避難生活についての講演を頼まれた。記憶に残っている限りの出来事をノートに書き出し、それを見ながら話したという。昨年、避難指示解除から2年を迎え、このノートを見返した際、記憶が薄れていることに気づいた。「高齢化が進み、当時のことを覚えている人は減っていく一方。形にして残さなければ」と証言集の作製を思いついた。
19年7月から地区内120世帯を回り、趣旨を説明して1人約1000字での寄稿をお願いした。8月末から回収を始めたが「さまざまな思いで生きてきた10年。文字にするのは難しい。なかなか集まらなくて苦労した」。実名での寄稿を嫌がる人もいたが、「誰がどんな思いをしたのか、どんな思いで書いたのかが大事」と説得した。
証言集は公民館が編集し、町が約700部を発行。住民に配布したほか、同地区の復興拠点商業施設「とんやの郷」や町役場などで配布している。広野さんは「地区外の人にこそ読んでほしい」と願う。