神戸の山間に人工サーフィン場 「造波装置」を独自開発

2020年東京五輪の追加種目に選ばれ、注目度が高まっているサーフィン。
始めるには気後れしがちだが、初心者でも手軽に楽しめる国内唯一の人工サーフィン場が神戸市北区の山あいにある。さまざまな形や大きさの波を造る特殊な装置を備え、スタッフの無料レッスンも受けられるとあって、幅広い世代に人気を呼んでいる。(木下未希)
プールで波乗り
神戸・三宮から車を走らせること約20分。神戸市北区の「みのたにグリーンスポーツホテル」内にある「KOBE-REYES(コウベレイーズ)」に到着した。奥行き約100メートル、幅約60メートル、水深約1メートルのプール奧に造波装置が16台並び、照りつける太陽の下、親子連れや中年男性が波乗りを楽しんでいた。
親子で初めてサーフィンに挑戦したという奈良市の主婦、尾崎かおりさん(47)は「難しそうなイメージが強かったけど、スタッフの丁寧な指導があったので何回か立つことができた」と笑顔。長女で大学2年の亜衣さん(19)は「海と違って同じ大きさの波が規則的に来るので、コツがつかみやすい。溺れる心配もないので、ここで上達してから海で挑戦したい」と意気込んでいた。
2人とも初心者ながら何度もボードに立っていた。本当に波乗りを習得できるのか。実際に無料レッスンを受けてみた。
鼻に水…涙の末
水着とウエットスーツに着替え、30代の男性スタッフとともにボードに立ち上がる動作を5分ほど練習。そこからプール中央付近に移動し、たわいない話で盛り上がっていた直後、「ゴゴゴゴゴ…」と地鳴りのような音が響いた。
「さあ波が来ますよ」とスタッフ。装置が動き出した音を合図にボードに乗り、手で必死に波をかきながら前へ進んだ。「立ち上がって!」。波が到達し、スタッフの声を合図に立ち上がろうとした瞬間、バランスを崩した。あっけなく波にのまれてしまった。
利用時間は1回100分で、波は2分間隔で発生する。50回は体験できる計算だ。めげずに挑戦したが、何度も水面にたたきつけられ、約10分で完全にメークも剥がれてしまった。
鼻に大量の水が入り、涙目になる記者を尻目に、スタッフは「大丈夫。初心者の参加者のうち9割は1回のレッスン中に立ち上がれる」と自信をみせた。
「立ち上がる際に左足がボードの真ん中にくるように」「両手をもっと体の近くに持っていくとバランスが取りやすいから」。丁寧な指導を受け、浅瀬でフォームを入念に確認してから再び波乗りに挑戦した。
すると8回目の波で何とか立ち上がることに成功した。不格好な立ち姿だったが、波の上から見る景色の美しさと爽快感、そして波と一体化したような優越感に、数秒だが浸ることができた。レッスンが終わる頃には、完全にサーフィンのとりこになっていた。
初心者も気軽に
「なかなかうまいやん」と声をかけてくれたのは、人工サーフィン場を運営する「レスポンスエンジニア」の社長、押部宣広さん(47)。同社は国内外でスノーボードなどの練習施設を運営しており、押部さんはスノボのジャンプ台設計などを手がけるエンジニアでもある。
それにしても、なぜ都心近くに人工サーフィン場を作ったのか。
押部さんはこれまで、マウンテンバイクやフリースタイルスキーなどアクションスポーツをたしなんできたが、サーフィンだけは未経験だった。
しかし、神戸の海は波が小さく、サーフィンに適していない。「初心者でも気軽に楽しめる人工サーフィン場を、波のない神戸から全国に発信したい」と、平成28年夏に施設をオープンさせた。
初心者から上級者まで幅広く楽しんでもらおうと、波の大きさや形を自由に調整できる「キャリー式造波装置」を独自で開発。何度も改良を重ねた結果、数百種の波を造り出すことが可能になった。現在はレベルに合わせ、5パターンの波を使用している。
夏場は全国から月に千人ほどが訪れ、中年男性を中心にリピーターも多いという。押部さんは「予約制の午前は小人数なので練習にも集中しやすい。これからもより多くの人に気軽にサーフィンを楽しんでもらえれば」と話している。

コウベレイーズ 神戸市北区山田町原野1の1。今シーズンの営業は10月27日までの午前7時~午後10時。料金は100分で1人1万円(午前のみ要予約、午前の当日受け付けは1万2000円)。対象は10歳以上。予約はホームページ(http://www.kobe-reyes.com/)から。問い合わせは078・595・7081。

木下未希(きのした・みき) 東京都出身の25歳。大学時代は体育会系ラクロス部に所属。4年間鍛えた体に自信はあったが、水面では全く歯が立たないことを思い知った。今年は明石の海を堪能。日焼け止め対策を怠ったため、入浴時などに体がヒリヒリと痛む日々を送っている。