熊本県南部に甚大な被害をもたらした記録的豪雨。球磨村の球磨川支流近くにある特別養護老人ホーム「千寿園」では、浸水で入所者14人が心肺停止で見つかった。災害時に避難が難しい高齢者施設で多くの被害が出た例は、4年前にもあった。2016年の台風10号では岩手県岩泉町の小本川が氾濫し、近くの高齢者グループホーム「楽ん楽ん(らんらん)」の入所者9人全員が亡くなった。遺族の一人は「立地条件のよく似た施設で、また災害に弱い高齢者が巻き込まれてしまった。教訓を生かしてほしかった」と絶句した。【小鍜冶孝志】
16年8月の台風10号豪雨災害では、岩手県と北海道で関連死を含めて33人が犠牲に。うち25人が同町で亡くなった。町は被災当日の朝、高齢者ら避難に時間のかかる人に避難行動を始めるよう促す「避難準備情報」を発令したが、施設の運営者が意味を把握できず、夜に川が氾濫。平屋建ての施設は濁流にのまれ、70~90代の男女9人が亡くなった。
この災害を受け、国は「避難準備情報」の名称を「避難準備・高齢者等避難開始」に変更。河川氾濫時の浸水想定区域にある高齢者施設などに避難計画の作成と訓練を義務付けた。今回、千寿園のある熊本県球磨村は3日午後5時に同情報を発令。避難計画の作成は、同園も対象になっていた。
同園周辺は川幅が狭くなる場所にあり、過去に何度も浸水被害に見舞われていた「常襲地帯」だった。国や地元自治体は、堤防の建設や排水ポンプの設置なども進めてきた。それでも、被害を防げなかった。
楽ん楽んで母のチヤさん(当時95歳)を亡くした八重樫信之さん(76)は「今回の避難の詳細はまだ分からないが、千寿園も川のそばに建っていて高い階がないなど立地がよく似ており、備えや早めの避難が求められたと思う。母の死を無駄にしないでほしかったのだが……」と唇をかんだ。