奇策だが悪い話でない・受診控えに拍車…知事の診療報酬引き上げ提言に波紋

新型コロナウイルスの影響で受診控えが広がり、悪化した医療機関の経営状況を改善するため、奈良県の荒井知事が県内の医療機関の診療報酬の引き上げを提言し、波紋を呼んでいる。県医師会は、2年前に知事が報酬引き下げを主張したことを警戒しており、「全国共通の問題であり、患者の窓口負担も増える」と反対。両者の溝が深まるなか、知事は28日までに厚生労働相に導入の検討を求める意見書を提出する。(小林元)
診療報酬は全国一律となっている。知事案では、都道府県ごとに医療機関の状況を判断し、診療報酬の単価を一時的に1点10円から11円に引き上げ、医療機関の経営改善を図る。荒井知事は「(コロナ終息後は)1点10円に戻す」とする。
知事は26日の記者会見で、「県内の医療体制の維持のため」と説明し、「個別の診療機関の減収

補填
( ほてん ) は技術的に大変難しい。診療報酬引き上げで効果的に減収補填ができる」と訴えた。
知事は全国知事会にも同様の提案を行い、8日の緊急提言には、地方の意見に配慮して診療報酬を引き上げることが盛り込まれた。
知事が主張する背景には、県が県内の医療機関を対象に実施した5月の経営状況を聞くアンケート結果がある。58病院、50診療所などから回答があり、医業収入は前年比で病院が14・9%減、診療所(有床)が20・8%減と落ち込んだ。支出にあたる医業費用は、感染防止対策で高止まりしており、経営状況は急速に悪化していた。
一方、県医師会は反発している。受診控えによる経営悪化は県内だけの現象ではなく、全国一律に診療報酬を上げることが望ましいとする。また、報酬を上げれば、経済的に困窮する患者の負担となり、受診控えに拍車がかかると反論する。
24日に橿原市内で非公開で開催された保険者協議会には、知事も出席。関係者によると、知事案に対し、一部で容認する声も出たが、県医師会などからは「医療機関にとっても、患者にとっても不利益しかない」などと反対意見が相次いだ。
恩恵を得られる医療機関側が反対するのは、2年前に知事が医療費抑制を目的に、診療報酬の単価を引き下げることを提唱したことも背景にあり、コロナ終息後の診療報酬引き下げを警戒している。
知事も将来的な報酬引き下げを「床の間の刀」と表現し、「よっぽどのことがない限り刀は抜かないが、特異な動向があればありうる」と否定はしない。
県医師会の安東範明副会長(60)は「病院はコロナ以外の診療を制限し、多くの空床を抱えている。検討すべきなのは、医療の提供体制の見直し。国の2次補正予算の執行が県内でも遅れており、速やかに交付すべきだ」と求めた。
佐藤

主光
( もとひろ ) ・一橋大教授(財政学)は、知事案を「奇策に出たが悪い話ではない」と一定評価する。「国民負担の明確化という点では、税金による病院の赤字補填よりはましだ。全国一律の診療報酬のあり方にも一石を投じるのではないか」と述べた。