民間企業ではコロナ禍で普及が進んだテレワークだが、国家公務員の場合、出勤をやめられず、勤務時間も長い「ブラック労働」が常態化している。政治家への説明など国会対応も大きな要因だというが、永田町や霞が関の長時間労働が民間企業にも悪影響を与えているとの指摘もあり、テレワーク導入を求める運動も始まった。
「議員への説明のためだけに出勤せざるを得ない状況だった」
「オンラインだと音声が途切れたりそもそも聞こえないなどトラブルが多く、結局そういったトラブルを回避するために、『失礼のないよう、できるだけ対面で』と役所側も気を使ってしまう傾向にある」
企業の働き方改革を手助けするワーク・ライフバランス社が、国家公務員480人を対象に、今年3~5月の働き方の変化を聞き取った調査では、テレワークできない事情を吐露する回答が寄せられた。
回答者の約4割が「最も忙しかった月の残業時間は100時間を超えた」という。
「議員とのやり取りで、官僚の働き方の質を高めるための配慮を感じる変化が起きたか」という質問には、約9割が「そうは思わない」と回答。「議員への説明が電話やオンラインに移行したか」という質問には8割以上が「対面のままだった」と答えている。
ワーク・ライフバランスの小室淑恵代表は「民間企業の働き方改革を手助けするなかで、行政とのやり取りが深夜に及ぶなど、省庁が長時間労働の震源地になっていることが多かった。そこで霞が関の働き方の実態を調査すると、今度は国会議員による深夜にも及ぶ質問通告への対応が長時間労働を引き起こしていた」と説明する。
国会議員との関連で負担が大きいのが国会対応だ。議員は質問内容を事前に通告して官僚に答弁の準備をさせるが、官僚側は長時間の待機を余儀なくされたり、資料作成が深夜に及んだりすることが問題視されている。
質問通告の実態について前出の小室氏は、「1行程度の短い内容のこともあり、詳細が分からない場合、幅広い関連部署に答弁作成に備えた待機がかかる。結局答弁に関係がないと分かったころには終電がなくなっていてタクシーで帰宅する。こうした構造を国民にも周知する必要がある」と強調した。
元経済産業省官僚で、政策コンサルタントの宇佐美典也氏は「遅いときは国会前日の午後6時以降に質問通告が来ることもある。議員とのやり取りはファクスか対面がほとんどなのでテレワークでは難しい。中にはメールのやり取りを嫌う議員もいる」と指摘する。
内閣人事局のテレワーク担当者によると、緊急事態宣言下では国家公務員全体の5割から7割がテレワークまたは時差出勤を導入していたというが、「緊急事態宣言解除後は、混雑を避けるという意識で対応していた」とする。国会答弁を担当する部署でもテレワークを働きかける動きはあったが、結果は明らかになっていないという。
前出の小室氏やサイボウズの青野慶久社長、Zホールディングスの川邊健太郎社長ら19人が発起人となり、省庁の午後10時から翌朝5時までの完全閉庁と、緊急の業務をテレワークで行う態勢作りを呼び掛ける署名活動を始めた。署名サイト「Change.org」には26日朝の時点で賛同者が約2500人に達した。署名は11月下旬まで集められ、河野太郎行政改革担当相ら閣僚に送付されるという。
河野担当相は、国家公務員の働き方改革を進める意向を示しているが、状況は変わるのか。