【衝撃事件の核心】コロナ下で史上最高値を更新する「金」の密輸に強まる警戒感

金塊約120キロを中国から密輸しようとしたとして、大阪府警が10月、関税法違反などの疑いで中国人5人を摘発した。金の密輸は近年、水際対策が強化される一方で、犯行グループの手口も巧妙化。さらに新型コロナウイルスの感染拡大で経済不安が広がる中、世界情勢の影響を受けにくい「現物資産」として金の価値は高まっており、警察当局や税関は警戒を強めている。(北野裕子)
通関士も関与
昨年6月、関西国際空港で航空貨物の検査に当たっていた税関職員が、中国・上海から送られてきた9箱の段ボール箱に目を留めた。
税関への申告内容では中身はバッグだが、持ち上げると明らかに重い。不審に思った職員が開封したところ、うち6箱に入っていたのは金塊。木箱に入れられたり、カムフラージュのためか一部は銅板で巻かれたりしていた。
総重量は計約120キロ、価格は約5億5千万円に相当し、関西空港では平成27年の金塊130キロの密輸に次いで2番目の規模の摘発だった。税金を支払わずに国内に金塊を持ち込み、販売時に消費税分を上乗せして売る「利ざや」を稼ぐことが狙いとみられる。
大阪府警国際捜査課は10月、関税法違反容疑などで、一連の犯行に関わった貿易会社の役員など中国人ら男5人を逮捕。大阪地検は同月、うち中国人の男3人を同法違反などの罪で起訴した。
起訴された1人は、貿易取引で税関に輸出入申告を行うなど通関手続きに携わる「通関士」。複雑な業務で専門知識が必要とされる国家資格だが、今回は荷物の送り主からの任務を遂行すべく、この男が税関に嘘の申告をしていた。
男らは関西空港に近い大阪府泉佐野市の住宅街にある民家をアジトにしていたとみられる。近くに住む女性は「深夜でもこうこうと電気がついていて、不審に思っていた。静かな住宅街なのに、まさか犯罪グループが出入りしているとは」と話した。
1グラム7769円にも
財務省によると、金密輸の統計を取り始めた20年は摘発件数が4件、押収量は94キロだったが、26年ごろから急増。27年に465件、2032キロになると、29年には1347件、6277キロと過去最多となった。摘発の増加に比例して脱税額も増え、この年は過去最高の15億円にも上ったという。
背景には、金に対する人気の高まりがある。金は実体がある現物資産ゆえ、株式や債券に比べて世界情勢が変化しても影響を受けにくい。短期的な売買による利益は得にくい半面、価値が破綻する心配がなく、金融危機などの経済不安があるとかえって人気が高くなる。
新型コロナの影響でその傾向は強まっており、金を販売する三菱マテリアルによると、今年8月の1グラム当たりの小売価格は7769円で、同社が昭和58年に価格を公表して以来、過去最高の値がついたという。その後も6~7千円台の高値で安定して推移。店舗に金取引に訪れる客も多く、担当者は「新型コロナの収束が不透明な状況の中、業界内ではさらに価格が上がるとする見方もある」と明かす。
対策強化も
相次ぐ密輸を受け、国は貨物や航空機の旅客などへの検査体制を拡充するため、高性能の金属探知機などを設置したほか、国内外の関係機関とも情報共有の連携を強化。関税法の罰則も改正し、平成30年4月から罰金額を引き上げた。こうした対策もあってか、30年は1086件だった摘発件数が、昨年は61件まで激減。消費税増税後に急増する恐れもあったが、一時的な増加にとどまったという。
ただ、密輸の手口は巧妙化。航空機旅客が空港で手荷物運搬に使うカートの隙間を細工して金を紛れ込ませたり、書道のすずりのふたに金を使うなど、あらゆる手口で持ち込もうとするケースも確認されている。税関検査ですべての密輸を見破ることは難しいが、財務省や税関関係者は「より水際での対策を強化するなど、1件も見逃さず摘発につなげたい」と警戒を強化している。