時代を映し出す「名前」 キラキラはほどほどに 鹿間孝一

作家の山口瞳さんが「名前のことでは苦労させられた」と書いていた。瞳(ひとみ)は女性のようで、「正直に言って恥ずかしい」。
「困ったのは軍隊時代で、思いだすと総毛立ってくる。そもそも彼等はヤマグチヒトミなんていう名の存在を認めようとしない。しかも軍隊というのは常に名を名告(の)らないといけない。便所へ行くのにも名告る。『ヤマグチヒトミ厠(かわや)へ行ってまいります』。ああ気持が悪い。これには参ったなあ」(「江分利満氏の優雅なサヨナラ」から)
現代では名前も性差がないジェンダーレスである。
出産、育児の情報メディア「たまひよ」を展開するベネッセが今年1月~9月に生まれた赤ちゃんの名前を調査した結果、男の子の3位から5位に入った蒼(あおい)、樹(いつき)、湊(みなと)は女の子でもおかしくない。
ちなみに1位と2位は蓮(れん)、陽翔(はると)、女の子は陽葵(ひまり)と結菜(ゆいな)だった。
戸籍法50条には「子の名には常用平易な文字を用いなければならない」とあり、名前に使える漢字は常用漢字2136字と人名用漢字863字、合わせて2999字と定められている。人名用漢字は昭和26年に92字が指定されて以降、順次追加されてきた。
もとより名前は子供の健やかな成長と幸福を願ってつけるが、流行があって時代が映し出される。
明るさやおおらかさを感じさせる陽や翔が人気なのはうなずける。今年は男女とも凪(なぎ)が急上昇したが、「コロナ禍で平穏を求める人に選ばれたのでは」という。
それはよかろう。だが、どう読んだらいいかわからない名前が多いのは困りものだ。かつて流行したキラキラネームほどではないが、先に呼び名を決めて適当に漢字を当てはめたとしか思えないものもある。
小学校の先生は生徒の名を呼ぶのに苦労するだろうな。新聞記者だって、いちいち「どんな漢字で?」「どうお読みしますか」と尋ねなければならない。いや最近は個人情報にうるさいから、そもそも名前を教えてもらえないかも。
いつまでも可愛いだけの赤ちゃんではない。大人になってからもふさわしいかを考えたい。
歌人の俵万智さんがわが子の命名を詠んだ一首。
とりかえしつかないことの第一歩名付ければその名になるおまえ

しかま・こういち 昭和26年生まれ。社会部遊軍記者が長く、社会部長、編集長、日本工業新聞社専務などを歴任。特別記者兼論説委員として8年7カ月にわたって大阪本社発行の夕刊1面コラム「湊町365」(産経ニュースは「浪速風」で配信)を執筆した。