菅義偉首相との電話会談(11月12日)で、米大統領選で当選確実と報じられた民主党のジョー・バイデン前副大統領は、尖閣諸島について、日本防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用範囲であるとの見解を示したが、これは「リップサービス」だ。本気で米国が日本を守るだろうか?
日本の政・財界は、バイデン氏が「中道派」と錯覚している。「中国敵視は緩む」と一方的な期待を寄せ、外務省も米民主党とのコネが強いから「日米関係は良好になる」と誤断している。
しかし、すでに「円高」が始まったうえ、東芝機械ココム違反事件(1987年)のような、何かを仕掛けてくるだろう。米国は現に、三菱重工業が1兆円規模の資金を投入した新鋭ジェット旅客機「三菱スペースジェット」に型式証明を出していない。
日本の財界主流の意見を代表するのは経団連と経済同友会、日本商工会議所だが、これらは、ほとんどが「親中派」である。世論調査で、日本国民は約90%が中国を「好ましくない」と答えており、明らかな世論との乖離(かいり)現象がある。
これが日本の問題である。
大企業のトップには、穏健な人生一丁上がりの人が多い。中国をいかに認識し、どのような対応を考えているか。米紙ウォールストリート・ジャーナル(日本語版、9月18日)によると、経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は、次のように語ったという。
「目下の政治状況が数十年に及ぶビジネス・パートナーシップ構築による成功を覆すのを許すべきではない」「この国を敵対視し、そして無視して経済活動を続けていくというのは、ある意味では日本にとっての自殺行為になりかねないというリスクがむしろ大きくなる」「隣国とうまくできるだけやって行こうじゃないか」
この中西氏の中国観が、日本のビジネスマンの多数の意見を代弁しているのは明らかである。
「中国対峙(たいじ)」の立場を鮮明にしている財界人は、JR東海の葛西敬之名誉会長くらいだ。
日本の政策は「日米同盟」が基軸だが、心情的に日米同盟を快く思っていないから中国をバランスする考え方が背景にある。
日本の奇妙な立ち位置を、前出のウォールストリート・ジャーナルの記事は以下のようなタイトルで示した。
「日本の新リーダー、米中緊張で難しいかじ取りに」「同盟国の米国と経済的利害がからむ中国との間で」
政治的に中国とは距離を置きながらも、経済的には密着したパートナーを続けるという姿勢は、米国でも、巨大IT企業GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)や、電気自動車(EV)大手テスラ、航空機大手ボーイング、自動車大手GMなどに顕著であり、EU(欧州連合)でも親中政策推進派のドイツは、ますます中国にのめり込んでいる。
商人とはそういうもの、偽善が優先し、欺瞞(ぎまん)を愛し、国益とか国民の精神は避けて通る傾向が強い。この両天秤(てんびん)路線は、バイデン政権の下で機能し続けるか?
■宮崎正弘(みやざき・まさひろ) 評論家、ジャーナリスト。1946年、金沢市生まれ。早大中退。「日本学生新聞」編集長、貿易会社社長を経て、論壇へ。国際政治、経済の舞台裏を独自の情報で解析する評論やルポルタージュに定評があり、同時に中国ウォッチャーの第一人者として健筆を振るう。著書に『戦後支配の正体 1945-2020』(ビジネス社)、『「コロナ以後」中国は世界最終戦争を仕掛けて自滅する』(徳間書店)など多数。