11月16日の早朝、渋谷区のバス停で1人のホームレス女性が頭を殴られて死亡した。現場となったのは渋谷区幡ヶ谷の幡ヶ谷原町バス停。被害者の住所不定、大林三佐子さんは近所に住む吉田和人容疑者によって頭を殴打され死亡。事件から5日後に吉田容疑者は近くの交番に出頭し、逮捕された。
吉田容疑者は現場から400m程離れた場所で酒店を営む母親と2人暮らしで、地域の清掃ボランティアに参加していたと言うが、引きこもりがちでクレーマー的な行動を起こしていたことも報道されている。取材をした週刊誌記者に話を聞いた。
「警察は事件直後から吉田に目を付けていたようです。事件現場近くのコンビニの防犯カメラには、白いビニル袋を持って平然と歩く吉田の姿がバッチリ映っていたため、すぐに特定されたようです。警察は連休明けに逮捕しようとしていたようですが、その前に母親と共に自首をして逮捕されました」
◆地元住民が見た吉田容疑者
では、この吉田容疑者は一体どんな人物なのだろうか。話を聞いたのは、吉田容疑者が母親と経営していた酒店から近いマンションに住む会社員の女性(30歳)だ。
「(容疑者が働く)酒屋さんの前を毎日通っているのですが、昔からある街の酒屋さんといった感じですね。ちょっと暗い雰囲気で、友達が家に来るときに『甲州街道の酒屋さんを通り過ぎて~』って説明して、わからなかったことがあるくらい。1、2度買い物をしたことがあるんですが、近くにコンビニもあって、そっちの方が入りやすいのであまり使ったことはないですね」
実際、吉田容疑者の酒店近くで何人かに聞いたが、「入ったことはない」や「酒屋があったことは事件の後に知って驚いている」という話を何人かの住民から聞くことができた。ひっそりとした町の酒屋の倅が起こした凶行とあって、住民たちの驚きは大変なものがあったという。また別の住民女性(41歳)はこんなことを話してくれた。
「逮捕されたニュースを見たときに、あっ!って思いました。私は、深夜や早朝にジョギングをしているんですが、何度か似たような男性を見かけたことがあったんです。散歩という、タダ歩いているというか……何やってんだろう、ちょっと怖いなぁって思ったことがあって印象に残っています。事件をニュースで知って、ひょっとしたら……と思ったくらいです」
実際、吉田容疑者は地域のボランティアに参加して清掃を行っていたと話しているようだが、ジョギング中に見かけたと話すこの住民は「特にゴミ拾いなどはしていなかったように見えた」という。
◆ホームレスによるゴミのトラブルも起きていたが……
被害者の大林さんが幡ヶ谷にやって来たのは、今年の春先だったとされている。先述の住民女性(41歳)もたびたび見かけたという。
「朝早い時間にバス停の辺りで何度か見かけたことがあります。たぶんホームレスの方なんだろうなとは思いましたが、屋根のある場所で夜を過ごしているんだろうな……くらいに思っていました。この辺り(笹塚、幡ヶ谷)は公園がたくさんあるんですが、ホームレスの方が居着いているのは、ほとんど見たことがないんです。だから、大林さんのように同じ場所によくいるのは珍しくて、印象に残っているんですよ」
新宿から環状七号線まで、水道道路を行くと、新宿中央公園を皮切りに大小10箇所以上の公園がある。実際、記者も幡ヶ谷から笹塚にかけての公園を何カ所か回ったが、ホームレスの姿はなかった。
吉田容疑者は調べに対して「痛い思いをさせれば、女性がバス停からいなくなると思った」と供述しているというが、吉田容疑者とホームレスによるトラブルなどがあったのだろうか。更に聞き込みを続けるとこんな話を聞くことができた。幡ヶ谷駅近くに住む男性会社員(42歳)はこう話す。
「甲州街道を挟んで南側はホームレスによるゴミのトラブルが数年前から起きていたんです。ちょうど、事件があった場所から甲州街道を渡ったところにある幡ヶ谷第一公園に抜ける高架下は、ホームレスがマットレスなどを持ち込んで、住み着いてしまい、今でも片側の歩道が封鎖されています。
2年ほど前まで、幡ヶ谷第一公園には使えそうなゴミを拾ってきたホームレスが集まり、それを買い取る業者がやって来て“朝市”のような状態になっていたこともあります。警察が早朝に来て、業者に注意していたのを見たこともありますね」
粗大ゴミを買い取るだけならいいのだが、買い取ってもらえなかったものを公園付近や高架下に放置したり、空き缶などのゴミを散らかすなどトラブルになっていたという。こうしたことから「ホームレスに対してよくない感情を抱く住民は少なからずいたのでは……」とこの男性は語ってくれた。
だが、このゴミトラブルはもちろんのことながら大林さんは関与していない。むしろ、大林さんを気遣って声を掛ける住民がいたほどなのだ。
◆オレが地域のために……と思っての凶行!?
笹塚で飲食店を営む男性はこんなことを話してくれた。
「あそこの店はまぁ、そんなに明るい感じのお店でもないから、近くのコンビニに客は取られちゃってるでしょう。おまけにコロナでお得意さんからの注文も減っちゃった。清掃のボランティアを頑張ってて、ホームレスがバス停にいたらオレがなんとかしてやる、オレが地元のために……みたいな気持ちが強かったのかも。
仕事辞めたり引きこもったりっていろいろ聞いたことはあるけど、まぁ、真面目というか内気な感じの人だね。お父さんの後を継いで酒屋を頑張ってたみたいだけど、なんかこう、いろいろ溜まったものがあったんじゃない。
新宿とかと違って、この辺りはホームレスがほとんどいなし、商店街でもホームレスのトラブルもない。だから、意識過剰というか排他的な気持ちになっちゃったのかもね。コロナでいろいろうまくいかないし、ちょっと神経質で引きこもりっぽいところもあったみたいで、気持ちが変な方向にいっちゃったのかなぁ……」
住民に聞く限り、大林さんがゴミを漁って散らかしたなどという声はなかった。吉田容疑者は何を思い、バス停から大林さんを排除しようとしたのかは、まだわかってはいない。いずれにせよ、バス停からどいてくれなかったからという理由で暴力に訴えていいはずはない。前出の週刊誌記者はこう語る。
「吉田は調べに対して『あんな大事になるとは思わなかった』や『まさか死ぬとは思わなかった』と話しているようですが、袋に石を入れて老婆を殴ればどうなるかわかるはずです。『お金をあげるからどいてほしいと頼んだが応じてもらえず、腹が立った』とも言っているようですが、そもそも大林さんがいたバス停は吉田の家から500m以上も離れていますし、大林さんは吉田と何のトラブルもありませんでした。地域のために大林さんを排他しようと考えたのなら、その思い上がった気持ちは狂気でしかありません」
バス停で立ち止まり、手を合わせる住民の姿も多い。多くの花だけでなく、パンや飲み物も供えられている。無抵抗な路上生活者に暴力を加えた吉田容疑者の行動はあまりにも理不尽で、許されるものではない。
【谷川一球】
愛知県出身。スポーツからグルメ、医療、ギャンブルまで幅広い分野の記事を執筆する40代半ばのフリーライター。