コロナワクチン国内初承認 感染抑制に期待の一方、妊婦らは複雑

新型コロナウイルスのワクチンが国内で初めて承認された。17日から医療従事者への接種が始まり、4月以降は高齢者や持病のある人も対象になる。感染抑制へ期待の声が上がるが、副反応への懸念払拭(ふっしょく)も課題となりそうだ。
特別養護老人ホーム「北砂ホーム」(東京都江東区)の和田敬子施設長(69)はワクチン接種を心待ちにしている。この施設では昨春、入所者ら44人と職員7人が感染するクラスター(感染者集団)が発生し、5人が亡くなった。「ウイルスがどこから入ったのか分からず、疑心暗鬼の毎日だった」と振り返る。
現在、職員はマスクとフェースシールドを着け、入所者約80人の食事や入浴を介助している。和田施設長は「ワクチン接種で感染対策が一歩前進する。希望する入所者らには早く打ってもらいたい」と話す。
すでに感染しながら、接種を望む人もいる。
埼玉県の会社員男性(48)は昨年末に新型コロナに感染。軽症だったが、ホテル療養を終えた1月中旬以降も激しい頭痛が続いた。いったん感染した人は抗体が維持されるとの報告があるが、その期間は明確ではない。男性は「風邪やインフルエンザと違い、コロナはとてもつらかった。二度と感染したくないので早く接種を受けたい」と強調した。
東京都新宿区の「思い出横丁」ですし店などを経営する村上健二さん(71)も「もちろん受けるよ」と歓迎する。コロナの感染が拡大する前、約80店が軒を連ねる横丁は、サラリーマンや訪日外国人客でにぎわっていた。いまは消毒を徹底して時短営業を続けるが、売り上げの落ち込みは激しい。「客足が戻るきっかけになってほしい」と期待する。
一方、接種を不安に感じている人もいる。
5月に出産予定の東北地方の女性(27)は「妊婦に関する情報が少ないのが心配。妊娠していなかったら迷わず接種を受けるのだけど……」と複雑な心境を打ち明ける。
ワクチンの臨床試験では、妊娠した女性のデータが十分に集まっておらず、接種の「努力義務」の対象外になった。ただ、危険性を上回る利益があると医師が判断した場合は接種できる。
女性は勤務先である高齢者施設からワクチン接種の意向を聞かれているという。「妊娠中の感染は怖いし、ワクチン接種を受けて自由に外出したい思いもある。産婦人科医に相談してから決めたい」
C型肝炎の治療を20年以上続ける東京都台東区の沖館隆二さん(77)は、数年前に脳梗塞(こうそく)で倒れたこともあって、複数の薬を常用している。「ワクチンが副反応を起こさないか心配。まずは医師に相談したい」と慎重だ。新宿区の関戸洋子さん(80)もがんで十二指腸や胆のうを2年前に切除し、投薬治療を受けているため「接種を終えた周囲の高齢者の様子を見て考えたい」と話した。【内橋寿明、黒川晋史、李英浩】