【ニッポン放送・飯田浩司のそこまで言うか!】“風評被害”作り出すのは誰? 「処理水放出」メディアに騙されず、検査結果の数字を見て個人で判断を

日本政府は先週、東京電力福島第1原発の放射性物質トリチウムを含む処理水について、海洋放出を決定しました。メディアでは、この話題が大きく取り上げられましたが、その報じ方はセンセーショナルで、何か大変なことが起こったような、おどろおどろしい見出しが躍っていました。
そもそも、処理水の保管場所が早晩いっぱいになるのは以前から指摘されていました。経産省のALPS処理水の取り扱いに関する小委員会は昨年1月の報告書で、水蒸気放出か海洋放出が現実的選択肢で、モニタリングなどを考えると、海洋放出が技術的にも妥当としました。
国内外の原子力施設で、トリチウムを含む処理水が海洋放出されていること、人体への影響は非常に小さく、十分に希釈して放出すればリスクは限りなく低減できることも明記されています。
私は、福島の農林水産業と風評被害については、現場の農業者や漁業者、さらに県の水産試験場や農林試験場、東大農学部の研究者の方々に取材を続けてきました。その模様は、拙著『反権力は正義ですか ラジオニュースの現場から』(新潮新書)にも詳しく記しました。
このトリチウムを含む処理水についても、早い段階で取り沙汰されていましたから、4年前から取材しています。トリチウムは、雨水にも含まれるもので、本来、健康被害を心配するようなものではない。科学的には安全だというのは、当時から、漁業者や県、研究者といった関係者共通の理解になっていました。
そして、問題になるとすれば、ただ一点、「風評被害」だろうということでも一致していました。
科学的に「安全」であるということは言える一方、「安心」については個々人の信条に深く依存しますから、これを強制することは自由主義国家である日本ではできません。
そんななか、個々人の判断のよりどころとなるのがメディアです。ところが、このメディアが科学的根拠に基づいた論を展開するよりも、「反対を押し切って強引に決めた」というイメージを先行で伝え、「何となく心配」という街の声を取り上げ、「風評が心配されます」と締める。
結果として、福島の農林水産物に対する、何となく暗いイメージだけが残る。「風評被害を作り出しているのは誰だ?」という話です。
福島の農林水産業はこの10年、風評被害を払拭しようと、徹底したモニタリング調査と情報開示を続けてきました。「ふくしまの恵み」ホームページ(fukumegu.org)を、ぜひ一度、ご覧になってください。放射性物質の検査結果を詳細に公開しています。関係者は口をそろえて言っていました。
「特別扱いしてほしいんじゃありません。ただただ、数字を見てご自身で判断してもらいたいんです」と。
■飯田浩司(いいだ・こうじ) 1981年、神奈川県生まれ。2004年、横浜国立大学卒業後、ニッポン放送にアナウンサーとして入社。ニュース番組のパーソナリティーとして、政治・経済から国際問題まで取材する。現在、「飯田浩司のOK!COZY UP!」(月~金曜朝6-8時)を担当。趣味は野球観戦(阪神ファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書など。