「自分は反社だけどスマホを買えるのか?」暴力団幹部が事前に携帯販売店に問い合わせた理由

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NTTドコモの「ahamo」やKDDI(au)の「povo」など、携帯電話各社が今年3月から値下げした新サービスをスタートさせたことで、スマートフォンのシェア争いが激化している。
スマホ以前は通話のみの携帯電話が主流だったが、今やガラパゴス携帯(ガラケー)と呼ばれている。さらにそれ以前は、現代の若者にとっては、「いったい何それ?」と言われそうなポケットベルが連絡を取り合う手段だった。
1980年代後半にポケベルが認知され始めたが、もっとも利用しているのは、警察官、それに事件取材担当の記者、そして暴力団員とも言われていた。暴力団員は、対立抗争など組からの急な呼び出しに対応しなくてはいけないためだ。
そんな暴力団員が、いまや生活必需品となっているスマホの新規契約ができない状態となっている。(全3回の2回目。 #1 から読む)
スマホの新規契約はダメ
国内を代表する通信事業者であるNTTドコモには、暴力団など反社会的勢力を排除するため、利用規約の中に、どのような人を排除するのかを示す以下のような規定がある。
「暴力団員、暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋、社会運動等標ぼうゴロ又は特殊知能暴力集団等その他これらに準じる者(以下総称して「暴力団員等」といいます)」(一部略)。
暴力団排除条例が全国で整備されて以降、このように規定され、契約者は反社会的勢力に属していないことを保証しなければならない。要するに、「暴力団員等」の場合はドコモの規約に反するため、スマホを利用できないことになる。
同様の規約はKDDI(au)やソフトバンクにもあり、ある特定の会社のスマホなら暴力団組員が利用できるということはなく、実質的に締め出されている。
しかし、多くの暴力団組員たちはスマホを利用し、LINEやメールで日常的に多くの連絡や情報のやり取りをしている。さらに重要事項については、警察による通信傍受対策のため暗号化アプリを使って連絡しているのが実態だ。
「ヤクザを辞めて買ってくれ」
関西地方に活動拠点を構える指定暴力団の幹部は、「自分はかなり前から、複数のスマホを使い続けている。自分名義のスマホではなくいろいろとうまくやっている」と打ち明ける。
そのうえで、さらに説明を続ける。
「新規に契約しようと思い、ある携帯電話会社に『自分は反社(会的勢力)だけど買えるか』と電話で問い合わせた。すると『どの店舗でもどうぞ。お近くの店でお買い上げ可能です』という回答だったので驚いた」
しかし、実際は事情が違った。
「そこで、契約の際に交わす書面に必ずある『反社に所属しているか?』というチェック項目を外してくれと頼んだところ、『削除は無理です』と言って来た。“ヤクザを辞めて新しいスマホを買ってくれ”という意味のようだった。反社に所属したまま契約を交わしたら、こっちが逮捕される。携帯電話会社としては新規契約を取りたいということなのかもしれないが……」
暴力団幹部が名義問題で逮捕された例も
携帯電話の契約をめぐって事件となったケースもある。2017年6月、神戸山口組最高幹部が自分で使う携帯電話を他人名義で契約したとして、詐欺の疑いで兵庫県警に逮捕されている。
上記のやり取りは、申込者が暴力団などの反社会的勢力に所属していようが、契約後に逮捕されようが、とにかく1件でも新規契約を取り営業成績を上げたいという携帯販売会社の都合が生んだトラブルと言えそうだ。
ヤクザの携帯番号「ゴロがよい理由」
携帯電話に対する規制が強くなる前には、こんなエピソードもあった。
現在の携帯電話の頭の番号は、「090」や「080」などで始まり、その後ろに8桁の番号が続き、計11桁となっているが、普及し始めたころは「030」で始まり、以下は7桁で計10桁だった。爆発的に普及したことで、またたく間に電話番号が不足してしまったため、「090」の後に8桁という現在の形となった。
携帯電話が普及し始めたころには、次のようなやり取りがあったという。指定暴力団幹部が振り返る。
「自分が携帯電話を使い始めたのは、平成の時代に入った1990年代のはじめのころ。できれば番号は同じ数字が並んでいるような、ゴロが良い番号にしたいと思うのは、誰もが同じだろう。携帯電話を購入する際に事前に連絡しておいたら、電話会社の担当者から、『こんな並びのよい電話番号でいかがでしょうか』と提案してきた。そこで、提案された番号にした」
上場企業の株式を購入して株主として株主総会に乗り込んで質問攻撃を繰り返し、経営陣に揺さぶりをかけて違法な資金の提供を受けていた元総会屋の男性も、あまり見かけないような“並びの良い番号”を取得していた。
「この番号は、携帯電話会社の方から『覚えやすいものを』と勧められた。我々のような仕事は特別扱いされるのが好きだから、電話会社の方が気を使ったのだろう」
総会屋は1980年代の終わりから90年代の初めのバブル景気のころに大きな勢力を維持していたが、その後の警視庁や東京地検特捜部の摘発が相次ぎ、現在はほぼ絶滅状態となっている。だが、今でもNTTドコモの利用規約には契約できない反社会的勢力として規定されている。
前出の元総会屋は「当時、提示された携帯電話の番号を今も使い続けている」と話している。
こうした証言の通りに、実際に一部の暴力団幹部や総会屋、右翼団体幹部たちの番号を聞くと、珍しい並びのよい番号で驚かされるケースも多い。
例をあげると、「090-◇◇〇〇―□□▽▽」といった番号だ。前出の指定暴力団幹部は「並びのよい番号にしているのは、うちの若い衆は数字を覚えるのが苦手なのが多いから。だから並びのよい番号が必要だ」と冗談めかして強調している。
しかし現在は“ヤクザとケータイ”をめぐる状況も、様変わりしているのが実情だ。
「プレー代は要りませんので、お帰り下さい」ゴルフ場支配人は、なぜヤクザにそう告げたのか? へ続く
(尾島 正洋/Webオリジナル(特集班))