「掘れば出る」世界遺産候補なのに知られず ごみ投棄被害も 北海道・千歳

国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界文化遺産登録の事前審査結果の公表を目前に控えた「北海道・北東北の縄文遺跡群」。関係者の期待が高まる一方、縄文文化への世間の関心はいま一つ。構成する17遺跡には有名な「三内丸山遺跡」(青森市)もあるが、多くは知られておらず、縄文最大級の墓「キウス周堤墓群」(北海道千歳市)ではごみを捨てにくる人がいるという。世界に誇る文化遺産の縄文遺跡はなぜマイナーなのか。(寺田理恵)
縄文最大級の墓だが
キウス周堤墓群は約3200年前、エジプトのツタンカーメン王の時代と同じ頃に造られた。ドーナツ状の土手の内側に複数の墓穴がある共同墓地9基が群集し、外径最大84メートルと地表面から分かる縄文時代の墓では最大級の規模を誇る。
しかし、付近を通る道路からは普通の林にしか見えない。広大な農地に囲まれ、案内標識もなければ公共交通手段もない。普段は静まり返っているキウス周堤墓群で4月25日、約30人がボランティアガイドの予行演習を兼ねてごみ拾いを行った。
「講演会などの周知活動を続けているが、地元でも知らない人が多い。ごみを捨てていく人がいるので、清掃活動もしている」。主催した民間団体「キウス周堤墓群を守り活かす会」の大江晃己(こうき)会長(80)は話す。
多くの縄文遺跡が発掘調査後に埋め戻される中、縄文時代の景観が地表で見られる貴重な遺跡だ。それにもかかわらず、埋め捨てられたワインの瓶60本が清掃活動で見つかったこともあるという。
「教わる機会ない」
周堤墓群は新千歳空港に近く、5月にも出される事前審査結果で登録が確実になれば、見学者の増加が見込まれる。このため、5月中旬からプレハブの解説施設を設け、ボランティアガイドが常駐する計画だ。
大江会長は「見てもらう活動が価値の理解につながれば、ごみ捨て場にされることはない」と期待する。会員からは「この辺りは掘れば遺物が出る」「学校で教わる機会がない」などの声も聞かれ、認知が広がらない状況への歯がゆさがにじむ。
周堤墓群は集落があったと推定される場所も含め、ほとんど発掘されていない。市教育委員会は「少し掘っただけでも石器などの遺物がたくさん出た。本格的に発掘すれば、それぞれの墓の向きの違いなどから社会構造を解明できる」とみる。
認知度が低い原因の一つには全容が解明されておらず、埋葬された人々の生活が謎に包まれているという事情もありそうだ。
ヒスイ玉や漆塗り
千歳市周辺は縄文時代に、日本海と太平洋を結ぶ交通拠点として物や情報が行き交った。掘れば遺物が出る“宝の山”のようだ。
発掘調査が行われた遺跡では、ヒスイ玉や赤い漆塗りの櫛などが出土。国指定重要文化財の土製仮面や動物をかたどった土製品も出ている。周辺の遺跡や地形なども含め地域の全体像を推し量れば、その地を選んで定住した縄文人の暮らしが身近になる。
縄文時代をめぐっては、「稲作が伝わる前の野蛮な時代」という見方が根強くある。そのイメージが大きく変わったのは、三内丸山遺跡の平成初期の発掘調査だった。大規模集落跡が見つかり、集落での暮らしぶりや食べ物、技術、物流などが分かり始めた。
縄文遺跡群は、約1万5千年前から1万年以上も続いた先史文化の変遷を示す。構成する17の遺跡は造られた時期によって構造が違い、世界最古級の土器が出土したところもある。多くの遺構は地中に埋め戻され、解説がなければ縄文とはどのような時代だったのかを知ることは難しい。
北海道博物館(札幌市)の学芸員、右代啓視(うしろ・ひろし)さんは「縄文は祖先が築いた文化の源流。欧州のラスコー洞窟壁画などと同等の価値があることを日本人が知るべきだ。それには、ナショナルセンター機能を持つ施設の整備や教科書で取り上げるなど学習環境をつくる必要がある」と課題を指摘している。