移動手段など解明進める 2019年の茨城一家殺傷、容疑者逮捕

茨城県境町の住宅で2019年9月、住人の会社員、小林光則さん(当時48歳)と妻のパート従業員、美和さん(同50歳)が殺害され、子ども2人が重軽傷を負った事件で、茨城県警境署捜査本部は7日、埼玉県三郷市鷹野4、無職、岡庭由征容疑者(26)を夫婦に対する殺人容疑で逮捕した。
容疑を否認
捜査本部は岡庭容疑者の認否を明らかにしていないが、捜査関係者によると、容疑を否認しているという。
逮捕容疑は19年9月23日午前0時40分ごろ、境町若林の小林さん方で、小林さんの胸や美和さんの首を刃物で数回刺し殺害したとしている。死因はいずれも失血死だった。2階の子ども部屋で寝ていた中学生の14歳の長男も刃物で刺されて重傷、小学生だった13歳の次女は催涙スプレーのようなものを噴射されて軽傷を負った。1階の自室にいた22歳の長女は無事だった。
捜査本部は長男と次女を襲ったのも岡庭容疑者とみて、殺人未遂容疑などでも調べる方針。
県警捜査1課によると、岡庭容疑者と小林さん一家との接点は確認されていない。長男や次女の証言などから1人で襲ったとみている。一方、岡庭容疑者は車の運転免許を持っておらず、移動手段などの解明を進める。同容疑者の自宅から小林さん方まで直線距離で約30キロ離れているという。
捜査関係者によると、岡庭容疑者が事件前に、クマよけのスプレーを購入したことが分かっている。県警は次女に使われたスプレーと同一の可能性もあるとみて確認を急いでいる。【森永亨、長屋美乃里】
被害者夫婦は「子ども思い」「優しい人」
殺人事件の現場となった民家は田んぼや畑が連なる農業地帯の一角にある。殺害された夫婦を知る人たちは容疑者逮捕の知らせに安堵(あんど)するとともに、改めて2人を失った悲しみにくれた。
現場近くで農業を営む60代男性は「逮捕されて良かった」とほっとした表情をみせた。事件後、不安で自宅の防犯カメラを増やしていたという。一方、70代の妻は「恨まれるような人たちではなかった。人殺し(に遭う)なんて考えられない」と語気を強めた。
殺害された小林光則さんが勤めていたゴミ処理会社の同僚男性は「子ども思いで仕事に一生懸命だった」と振り返る。長男の野球を熱心に指導し、送り迎えにも励んでいたという。
一家が引っ越してきたのは2005年ごろ。近所づき合いは活発ではなかったが、当番制で小林さんの妻美和さんが自治会の班長役になると公民館の掃除などに積極的に取り組んだ。
美和さんは周囲の住民にお中元とお歳暮を欠かさなかった。近所の女性は「『そこまでしなくていいんだよ』と伝えても、『こういうことしかできないから』と言われて。優しい人だった」と話した。
事件前日は日曜日。千葉県と埼玉県の病院には小林さんの父と美和さんの母が入院しており、一家でそれぞれの病院に見舞いに行っていたという。知人男性は残された家族について「今は元気だが、本人にしかわからない恐怖もあるようだ」とおもんぱかった。【安味伸一、韮澤琴音、森永亨】
容疑者、「小さい頃は普通の子」
岡庭由征容疑者(26)が殺人容疑で逮捕され、自宅近くの住民からは驚きや動揺の声が聞かれた。
岡庭容疑者は埼玉県三郷市南部の住宅街で生まれ育った。近隣住民によると、地元の小中学校を卒業。2020年11月に埼玉県警に逮捕された時も、自宅で両親と同居していたという。
近くの70代男性は「小さい頃は近所の子とみんなで遊んでいた。当時は素直で普通の子という印象だった」と話す。別の男性は「一家は最近、生活感がないというか、ひっそり暮らしている感じだった」と語った。【平本絢子、成澤隼人】
異例の展開 物証乏しく「調べを尽くす」
岡庭由征容疑者(26)は2020年11月以降、別事件で2回にわたり逮捕、起訴されていた。小林光則さん、美和さん夫妻に対する殺人容疑で逮捕されるまで、勾留期間は半年近くに及ぶ。決定的な物証が乏しい中、捜査は異例の展開で進んだ。
「殺人に使用できる薬品や刃物などの危険物を所持している疑いがある」。20年11月、埼玉県三郷市で暮らしていた岡庭容疑者について、茨城県警から埼玉県警に情報提供があり、両県警は合同捜査班を設置した。
同19日には岡庭容疑者宅を殺人予備容疑で家宅捜索。殺人にかかわる直接の証拠はなかったものの、自宅倉庫から硫黄約45キロが見つかったため、市火災予防条例違反容疑で翌20日に逮捕した。
岡庭容疑者は消防法違反で起訴されたが、その後も勾留が続き、21年2月16日にさいたま地裁で初公判の期日が指定された。
しかし、その前日の15日、今度は茨城県警が警察手帳に付ける記章を偽造したとして公記号偽造容疑で再逮捕した。逮捕に伴い、公判期日は取り消された。
公判が始まれば保釈が認められる可能性が高くなるため、このタイミングで再逮捕したとみられる。
身柄が茨城県警に移されると、県警は同容疑の調べをしながら、殺人についても捜査を進め、状況証拠を積み重ねた。
公記号偽造罪で起訴された後も勾留を続けていたが、消防法違反などの公判が改めて5月11日に設定されたため、殺人容疑での立件を急いだとみられる。
昨年11月に行われた家宅捜索では、凶器や指紋など、小林さん一家殺傷事件と岡庭容疑者を結びつける決定的な証拠は発見されなかった。茨城県警幹部は「当初から捜査は難航していたが、今後も調べを尽くしていく」と話す。【川島一輝、成澤隼人】