42歳茨城・城里町長ワクチン接種 町民「優先順位おかしい」

茨城県城里町の上遠野(かとうの)修町長(42)が町内の高齢者に先駆け、新型コロナウイルスワクチンの接種を受けていたことが明らかになった。町長は4月28日に接種を受けたが、報道陣の取材を受けるまで公表していなかった。5月13日の記者会見で「接種は(町の)保健センターで行われるため、その開設者である私も医療従事者。キャンセルが発生し、廃棄を避けるため接種した」と説明した。
上遠野町長らの説明によると、町側で接種を受けたのは町長と副町長、教育長、町職員の計29人。このうち町長ら12人は町内の医療従事者向けのワクチン接種でキャンセルが発生したため接種を受けたという。町長は「管理責任者として、接種を受ける高齢者と接することもある」と述べ、自身を医療従事者と位置づけたことの正当性を主張した。
接種を受けた町関係者の大部分は、実際に接種業務に当たる医療従事者だという。一方で教育長への接種については「(キャンセルが出た場合)学校の教職員や保育士にも接種できる」とする県の指針に基づくとしている。
優先接種の対象となる医療従事者について、厚生労働省は「検体採取や移送など患者と接する業務を行う者」「接種業務に従事し、感染者と頻繁に接すると接種会場を設ける自治体が判断した者」などと例示。優先接種が必要な理由を「患者や多くの疑い患者と頻繁に接する業務を行うことから、ウイルスへの曝露(ばくろ)の機会が極めて多い」と説明する。
一方でキャンセルなどで余ったワクチンの扱いについて、河野太郎行政改革担当相は「廃棄されないように現場対応で打ってほしい」と、4月中旬の記者会見で述べている。
町民はどう受け止めたのか。町内でそば店を経営する下野信一さん(69)は「優先順位がおかしい。自分が医療従事者というなら、こそこそせずに了解を得ればいい。町民の多くはワクチンが届いていることすら知らない」と批判した。城里町の高齢者接種は5月31日の開始を予定している。現在は85歳以上の高齢者に順次「接種券」を配布している段階だ。70代の無職女性は「私たちはまだ接種券を待っている状態。高齢者には切実な問題で、説明を聞いても言い訳としか思えなかった」と話した。
新藤宗幸・千葉大名誉教授(行政学)は「ワクチンが希少だからこういう話が次々と出てくる」と前置きし「自治体の最高責任者は市民の命や健康を最優先に行動すべきで、言語道断と言わざるを得ない」と非難した。その上で「接種を受けてすぐに堂々と説明しなかったのは、首長や政治家としての倫理を逸脱しているとの後ろめたさや『役得』批判を恐れたからではないか」と指摘した。【川島一輝、森永亨、小林杏花、松浦吉剛】