露の航海士逮捕に「あり得ない事故」「真実話して」 紋別沖転覆

北海道紋別市沖で起きたロシア船との衝突で、紋別漁協所属の毛ガニ漁船「第8北幸丸」(9・7トン)が転覆し乗組員3人が死亡した事故を巡り、紋別海上保安部は7日、ロシア船の航海士を業務上過失致死容疑などで逮捕した。発生から約2週間。地元関係者はなお沈痛な面持ちで、真相解明を求めた。【本多竹志】
「高校を卒業してすぐに漁師になり、子どもや家族のために頑張っていました。ギャグを言って笑わせてくれ、周りはいつも笑顔が絶えなかった」。事故で命を落とした甲板員の井上征俊さん(37)について、友人の男性会社員(37)はこう振り返った。
小学校から高校まで共に過ごし、社会人になっても酒を飲み交わすなど付き合いは続いた。約半年前、無料通信アプリ「LINE(ライン)」で「新型コロナが落ち着いたら飲もう」と連絡すると、井上さんから「いいね、集まろう」と返事が届いた。だが、その約束はもうかなわない。男性は「事故の真相も知りたいが、今は亡くなった喪失感で頭がいっぱい」と言葉を詰まらせた。
5月26日午前6時ごろ、紋別港の北東約23キロで、第8北幸丸とロシア貨物船「AMUR」(アムール、662トン)が衝突。機関長の沼端賢良さん(64)と、甲板員の今野俊介さん(39)も亡くなった。
この前日、同漁港では稚貝の放流が行われていた。地元関係者が協力し合う習わしで、第8北幸丸の乗組員も加わったという。一緒に放流を手伝った、いさり漁師の男性(56)は「前日に顔を合わせたばかり。何も分からず亡くなったかと思うとつらい」。
この男性は約40年前、同漁港沖で暴風により起きた毛ガニ漁船転覆事故で兄を亡くしている。それだけに、漁に出る際は細心の注意を払う。「うちは小型船だが、漁をしていると危険を感じることもあり、事故は人ごとではない」と話す。アムールについては「霧が出ていても、レーダーで第8北幸丸の存在が分かったはず。あり得ない事故だ」と怒りをにじませた。
紋別漁協の飯田弘明組合長は「日数はかかったが、まず1人逮捕されてほっとした。まだ第1段階だと思う。遺族のことを考えると、ロシア船には真実を話してほしい」と真相解明を求めた。
「予見可能性」が焦点に
紋別港沖で発生した漁船転覆死亡事故で、紋別海上保安部が7日、強制捜査に踏み切った。事故当時、現場海域には霧が立ちこめており、ロシア船「AMUR」(アムール)側に事故の予見可能性があったかが捜査の焦点となる。
同保安部は、アムールの3等航海士、ドブリアンスキー・パーベル容疑者(38)を業務上過失致死と業務上過失往来危険の疑いで逮捕した。同容疑者は当直責任者で、衝突回避の義務を怠り、毛ガニ漁船「第8北幸丸」と衝突し、乗組員3人を死亡させた疑いが持たれている。
第1管区海上保安本部によると、一般に業務上過失致死と業務上過失往来危険の両罪で「業務上の過失」を立証するには、衝突の危険を認知するための見張り▽危険がある場合の減速▽衝突回避の適切な操作――など必要な措置を怠った場合とされる。
事故当時、紋別市沖の海上には海上濃霧警報が出ていた。海上衝突防止法は、霧などで視界が遮られる「視界制限状態」の場合、厳重な見張り体制に加え、日中でもライトを点灯したり、汽笛を使用したりする義務を定める。当時の状況を踏まえ、必要な措置が十分なされたかが、捜査の焦点となる。
石川県珠洲市沖で2012年4月、中国籍コンテナ船と日本漁船が衝突し、転覆した日本漁船の乗組員1人が死亡し、1人が行方不明となった事故では、中国人の航海士が今回と同じ両容疑で逮捕された。金沢地裁は見張りやレーダーで衝突を防ぐ注意義務を怠ったなどと認定し、禁錮1年4月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡している。【高橋由衣】