《東京・池袋で平成31年4月、乗用車が暴走して通行人を次々とはね、松永真菜(まな)さん=当時(31)=と長女、莉子(りこ)ちゃん=同(3)=が死亡した事故で、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われた旧通産省工業技術院の元院長、飯塚幸三被告(90)の公判は、真菜さんの夫、拓也さん(34)に続いて、真菜さんの父、上原義教さん(63)による被告人質問が行われた》
《上原さんは飯塚被告に訴えかけるように、次々と言葉を投げかけていく。飯塚被告はうつむいたままじっと耳を傾けている》
上原さん「『申し訳ない』と繰り返しているが、そういう問題ではない。将来、(真菜さん親子が)沖縄に帰ってくるなど、いろんな楽しみを私も待っていた。あなたによって奪われた。人間は誰でも過ちを犯すことがある。車に乗っていればなおさらだ。あなたが反省しても娘は戻ってこないが、せめて謝って認めてほしい。(私は)沖縄の地から毎日、莉子と真菜の写真を見て、『今日は認めてくれたらうれしいね』と独り言を言っている」
《次第に上原さんは声を詰まらせるように。傍聴席からも、はなをすする音が聞こえ始めた》
上原さん「どうしてこんなに苦しまないといけないんでしょう。私は一生この苦しみと悲しみを背負う。飯塚さんにも家族があり、家族も苦しんでいると思う。あなたは家族のことを考えたことがないのか」
飯塚被告「私の家族はとても心配しています。2人の命が亡くなったこと、親御さんが悲しんでおられるだろうと申しております。私としては私の車が起こした事故で、家族になるべく影響が及ばないようにしたいと。私自身で決着したいと思っています」
上原さん「最後に一言、言わせてください。裁判が終わった後、もう一度よく考えて、自分が悪くなかったか反省していただいて、心の底からの『ごめんなさい』を聞けるのを楽しみにしています」
《飯塚被告に心からの反省を切望し、上原さんは被告人質問を終えた。すぐ横で聞いていた真菜さんの夫、松永拓也さんは静かにハンカチで目元をぬぐった》
《続いて事故でけがをした、ごみ清掃車の運転手の代理人弁護士が質問に立つ。飯塚被告は「誰の責任で起きた事故かはわからない」「厳罰を求める署名を重く受け止めている」などと回答。飯塚被告の弁護人からの再質問も終わり、最後に裁判官が質問を始めた》
裁判官「(きょうの公判で)警察の取り調べの際に『(アクセルとブレーキの)踏み間違えがあったと認めた方が刑が軽くなる』といわれたとの発言がありましたが、その発言をしたのはどなたですか」
飯塚被告「私を取り調べた人です。刑が軽くなると言ったかどうかは定かではないが、『心証が良くなる』と言われました」
《裁判官からの質問が終わり、飯塚被告は弁護人に車いすを押されて被告人席に戻った。その後、事故に巻き込まれて重傷を負い、今も後遺症がある被害者3人の意見陳述書を裁判長が代読した。「今からでもアクセルとブレーキを踏み間違えたと認めるべきだ」「(事故を)車のせいにせず、被害者のことをもっと受け止めて」「厳重に処罰してほしい」。被害者の声に、飯塚被告は裁判長の方を向き、じっと耳を傾けていた》
《この日の公判は、開始から1時間40分が経過した午後3時10分ごろに終了した。飯塚被告は裁判官に向かって軽く会釈をして車いすで退廷。松永さんは飯塚被告の方を見ることなく、法廷を後にした。7月15日の次回公判では、松永さんが意見陳述する予定だ》