「開催に道を開く決定だ」。企画展「表現の不自由展かんさい」の会場に予定されていた大阪府立施設の利用承認が取り消された問題で、会場の利用を認めた9日の大阪地裁決定。名古屋市で同様の展示会が中止に追い込まれたばかりで、大阪の実行委員会側は「表現の自由を守るため、行政は暴力に屈してはならない」と訴えた。予定通り16日からの開催に向けて準備を進めていくという。
実行委側の代理人弁護士は決定後、大阪市内で記者会見。「表現の自由を正面からとらえて判断したことを高く評価したい」と述べ、主張を認めた決定を歓迎した。
名古屋市の企画展では8日、会場宛てに郵便物が届き、職員が開封すると爆竹のようなものが破裂。施設を所有する市は「安全を確保する」として施設を臨時休館し、企画展は事実上の閉幕に追い込まれた。代理人弁護士は「卑劣な行為は糾弾されるべきだ」と非難し、「決定は名古屋の事件を踏まえ、明白な危険は認められないと認定している。表現の自由という憲法の重要性に鑑みて判断したと思っている」と指摘した。
府立労働センターの指定管理者に対しては「表現の自由を守るため『行政側は暴力に屈してはならない』という裁判所の強いメッセージだ。決定を真摯(しんし)に受け止めて対応してほしい」と述べ、開催に向けて協議に応じるよう求めた。
実行委のメンバーの一人は取材に「勝てるという確信はあったが、名古屋の事件があったのでどうなるか心配だった。決定を聞き、ほっとした」と表情を緩ませた。企画展を巡っては、東京でも街宣や脅迫メールによって延期に追い込まれるなど、暴力的な抗議活動が相次いでいる。メンバーは「大阪での決定を受け、他の場所でも改めて開催していこうというプラスの影響を与えられればいい」と期待した。
施設を所有する大阪府の吉村洋文知事は記者団に「施設内には保育施設もある。(開催されたら)非常に危険なことが起きる可能性だってある。子供たちをリスクにさらすのはおかしい」と述べ、指定管理者は大阪高裁に即時抗告すべきだとの考えを示した。さらに「施設を安全に管理・運営する観点から(利用承認を)取り消すのは当然のことだ。指定管理者には府の考え、僕の考えを伝える」と語った。
府警は今後、会場の警備体制について施設側と協議を行うという。【宮川佐知子、矢追健介、石川将来】
裁判所は過去にも過剰な利用制限に警鐘
地方自治法で原則自由な利用が認められている公共施設。裁判所は自治体側の過剰な利用制限に警鐘を鳴らし、憲法21条が保障する表現や集会の自由を尊重するよう求めてきた。
大阪府泉佐野市では過去に、関西国際空港の建設に反対した団体メンバーが市民会館の集会使用を市側に拒否されたケースがある。この問題を巡る1995年の最高裁判決は、施設の使用拒否は「明らかな差し迫った危険の発生」が具体的に予想される場合に限って認められるとの判断基準を明示。具体的な危険があったとして団体側の訴えは退けたが、正当な理由がない公共施設の使用制限は憲法21条に反するとした指針を初めて示した。
東京都が在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の関係団体が集会を予定した都立日比谷公園の使用を認めなかった問題では、東京地裁が2007年、一転して使用を認める決定を出した。集会は在日朝鮮人への人権侵害がテーマで、公園の管理者側は「(抗議活動など)大きな混乱が予想される」と強調したが、地裁は「警察の警備でも混乱防止できないなどの特別な事情は認められない」と退けた。
武蔵野美術大の志田陽子教授(憲法学)は、9日の大阪地裁決定について「泉佐野訴訟で示された最高裁の判断基準を踏襲し、表現の自由を尊重した妥当な内容だ」と評価。「今回の決定は憲法を無視して公共施設の利用を拒む自治体側の『事なかれ主義』に対し、大きなけん制になるのではないか」と語った。【芝村侑美】