菅義偉首相(72)がこのほど、首相官邸でスポーツ報知の単独インタビューに応じ、23日に開幕する東京五輪・パラリンピックに向け意気込みを語った。首相就任後、スポーツ紙のインタビューに登場するのは初めて。見どころについて、バスケットボール男子日本代表の八村塁(23)=ウィザーズ=や、自身が学生時代に打ち込んだ空手を挙げ「全部、金を取ってほしい」と期待を込めた。
新型コロナウイルスの流行により、1年延期となった東京五輪・パラリンピックが目前に迫った。100年に1度と言われるパンデミックの中、菅首相は大会成功に向けた強い決意を示した。
「1年間の延期、新型コロナの感染拡大による緊急事態宣言の発令や、まん延防止等重点措置が適用される中ですが、日本は誘致に手を挙げ、大会を開催する責任があります。そのために、国民の皆様の安全と安心を最優先にしなければなりません」
首都圏などの競技会場は無観客で行われる異例の大会となるが、大会直前まで有観客が可能かどうかの調整を続けた。海外メディアでは中止と報じられたこともあったが、その選択肢はなかったという。
「緊急事態宣言が発令されれば、無観客も辞さないと考えていました。結果的には、宮城県と静岡県以外は無観客でやらざるを得なくなりましたが、安全・安心を優先させていただいた」
インタビューが中盤にさしかかった頃、大会の見どころについて聞くと、それまでのやや硬い表情が急に和らぎ、迷わず、八村の名前を挙げた。
「今、バスケットがすごいんでしょ? 米国からは今回、八村選手が出場され、旗手を務めますよね」
76年モントリオール大会以来の五輪出場となるバスケ男子・日本の世界ランクは42位だが、18日の強化試合で同7位の強豪フランスに勝利。自国開催のアドバンテージを生かし、躍進が期待される。大会4連覇を目指す米国など、強豪国との試合でも、日本代表の奮闘を心待ちにしている。
「いろいろな記録を持った最強軍団が来ると聞いています。日本では普段、なかなか見られないですし、充分試合を楽しめるのではないでしょうか。バスケットボールの他にも、ゴルフの松山英樹選手は官邸で表彰(総理大臣顕彰)させてもらいましたし、(白血病を克服して出場権を得た)競泳の池江璃花子選手もそうですが、注目選手が多くいますよね。1年延期による苦労もあった中で練習を重ねてきた成果や、世界一流のパフォーマンスを発揮して悔いのない戦いをしてほしいです」
家族が大学のアメリカンフットボール部に所属していたこともあり、実は「アメスポ」がお気に入り。“侍ジャパン”野球日本代表にも注目しているという。少年時代は野球、法大進学後は空手に打ち込んだ。今大会で正式競技に採用された空手の日本代表選手への期待はより高く、「全員、金メダル獲得指令」を出した。
「(自民党議員で作る)空手道推進議員連盟の会長もしていましたから、『全部、金メダルをとってほしい』と思っています」
多忙だが、大会は可能な限り公邸などのテレビで観戦し、声援を送る。多くの困難の中、多くの関係者が尽力し、作り上げた晴れ舞台。そこで、選手たちが躍動する姿を願っている。
「厳しい状況ですが、人類の努力と英知を結集し、困難を乗り越えた大会になるでしょう。今大会は世界で40億人が視聴しますが、そういう日本の姿を世界に発信できれば、と思います。結果的に『やって良かった』と言われるような大会にしたいですね」
64年の東京大会の記憶はいまだに鮮明で、特にバレーボール女子日本代表の活躍が印象に残っているという。
「『東洋の魔女』と言われた女子バレーボールの回転レシーブはみんなマネしたんですから。私も昔やってましたね(笑い)。それくらい、感動していたんだろうと思いますね。やはり、子供たちには夢や希望、躍動感などを大会を通して感じてほしいです」
五輪閉幕後に行われるパラリンピック(8月24日~9月5日)は、64年以来、東京で開催される2度目の大会となる。同一都市で2度の開催は“史上初”であり、今大会は22競技539種目が21会場で実施される。
「大会準備の中で会場や周辺のバリアフリー化など対応してきました。障害のある方もない方も、若者も高齢者もお互い助け合っていく『共生社会』『心のバリアフリー』はとても大事なことで、日本から世界へ発信したいと考えています」
パラリンピックの観客数判断は、五輪閉幕後に政府やIOCなどとの5者協議で決定する方針となっている。「安全安心が最優先」とした上で、感染状況を見極めながら有観客に意欲を示す。
「その時の状況次第ではありますが、パラリンピックは少し先ですから、ある程度(感染を)収束をさせて、有観客で開催できればいいと思っています」
大会の行く末を大きく左右する新型コロナ感染状況を巡っては、都内で連日1000人超の感染者が報告され、全国的に再拡大の兆候がみられる。陣頭指揮に当たる立場とあり「心休まる日はない」と語るが、大会期間中も厳しいかじ取りが予想される。
「大会では、多くの選手やコーチが海外から来られます。水際対策を最大限厳しくするなど感染防止対策での封じ込めと同時に、ワクチンで収束させるという二方面作戦で『安全・安心』な大会を何とかやり遂げたいと思っています」
欧米などと比べスタートで後れを取ったワクチン接種だが、19日現在で接種回数は世界7位に浮上。“総理肝いり”の計画として供給や接種が急ピッチで進められているだけに、接種率なども「これから一気に高まる」と語気を強めた。
「結局はワクチンが切り札であり、私自身もまさに全力をかけています。はじめ『(ワクチン接種)1日100万回やるぞ』と言った時に、『できないだろう』と言われましたが、現場の皆さんの協力のおかげで接種も順調に進み、高齢者の感染者も東京でも大幅に減ってきています。7月中に3600万人いる65歳以上の接種は完了したいと考えています」
64歳以下の一般向けの接種も進む中、各自治体などへのワクチン供給不足が問題化。進捗の遅れに懸念も生じているが、大会閉幕後の今秋にも希望する全国民の接種を完了させるべく、計画の前倒しを図っている。
「ワクチンが無いということでご迷惑をお掛けしておりますけれども、とにかく早く一人でも多くの方が打つことが大事です。希望される方への接種は、10月から11月の早い時期で終えたいと思っています。これまでの日常を一日でも早く国民の皆さんに取り戻して頂くために『ワクチン接種最優先』で取り組んでいきます」
パラリンピック閉幕後の9月16日には菅政権発足から1年を迎える。秋にも衆院選を控える中で政権にとって東京大会は大きなターニングポイントにもなる。コロナ禍で打撃を受けているものの、大会を通じて世界中から再び注目が集まることが予想される飲食などの分野への対策も喫緊の課題という。
「やはり、どうしても感染源のキー(鍵)を握るのは飲食で、そこから感染する方が多い。飲食関係の皆様には色々な制約をお願いして本当に申し訳ない限りです。そうした人に対しての対策というのは、できる限りの事をしなくてはならないと考えています。そうするのが当然だと思っていますし、それも“早く”ですね。協力金支給などについても、窓口である東京都と政府が協力しながら、しっかり対応していきたいと思います」(聞き手・高木 恵、久保 阿礼、奥津友希乃)
<菅義偉>(すが・よしひで)1948年12月6日、秋田県秋ノ宮村(現・湯沢市)生まれ。72歳。高校卒業後、集団就職で上京。段ボール工場勤務後、法政大進学。法大時代は報知新聞社でアルバイトもしていた。会社員を経て、小此木彦三郎衆院議員の秘書に。87年、横浜市議初当選。96年、衆院初当選。06年、第1次安倍政権で総務相として初入閣。12年からの官房長官としての在任期間は歴代最長。19年の新元号発表で「令和おじさん」のニックネームも。20年の自民党総裁選に勝利し、第99代内閣総理大臣に就任。家族は妻と3男。
■首相の名刺に…取材後記
首相官邸に足を踏み入れるのは、2018年7月の羽生結弦の国民栄誉賞表彰式以来のことだった。普段スポーツの現場を主戦場とする私にとって、場違い感は相変わらず。セキュリティーチェックを済ませ、番記者たちの視線を感じながら階段を上がり、4階の特別応接室に向かった。
目に飛び込んできたのは国旗と鮮やかなひまわりの花。記者3人分のソファーがすでに用意されていた。予定時刻3分前。「総理が向かっております」のアナウンスを機に一気に緊張に包まれた一室に「どうも~」と菅総理が現れた。「名刺を渡すべきなのか」。しゅん巡している間に、総理が胸元から名刺ケースを取り出した。「内閣総理大臣 菅義偉」とだけ書かれた迫力の一枚にしばらく見入った。
約20分のインタビューを終え、立ち上がった総理は「私、前に報知新聞でアルバイトをしていたんですよ。50年近く前の話だよね」と懐かしそうに切り出した。法大時代に当時千代田区平河町にあった社屋で、原稿の受け渡しなどをしていたという。「先輩の代わりに夜に行ったりね。涙が出るくらい思い出しました」。青春の1ページの感慨に浸ったのはほんの一瞬。SPに囲まれ部屋を出ると、再び分刻みの日常に戻っていった。(五輪キャップ・高木 恵)