「飲酒する医師だと知っていれば預けなかった」 乳児の父親会見

愛知県豊橋市の産婦人科・小児科医院「マミーローズクリニック」の男性院長(68)が飲酒後に出産手術をしていた問題で、生まれた乳児の40代の父親が5日、名古屋市内で記者会見し、「当日勤務すると分かっていながら飲酒する医師だと知っていれば、妻や子どもは預けなかった」と怒りの声を上げた。
同院長は当日勤務に入ることがあらかじめ決まっていながら飲酒したことが分かっている。医師には正当な理由なく診療を拒否できない「応召義務」が医師法で定められている。日本医療安全学会理事の辰巳陽一・近畿大教授(医療安全・血液内科)は「医師が少ない地域や緊急事態などの状況次第では、飲酒下であっても医療行為が要請されている」と説明。だが、今回のケースは「状況が違う」とし、「昼休みにビールを飲んで仕事をする感覚で、医療倫理として許容できない」と批判する。
父親によると、生まれた乳児は頭部に血がたまり、肺や心機能が低下。近隣の別の病院に緊急搬送され、一時生命の危機があった。飲酒が手術に影響を与えたかは不明だが、20代の母親は院長の対応などにショックを受け、一時幻聴や不眠などに悩まされたという。父親は「院長は大事な出産があることが分かった上で飲酒し、悪びれもせず、謝罪すらしていない」と憤った。
同院ホームページによると、同院の医師は非常勤も含め6人。同院は勤務態勢を明らかにしていないが、父親への説明では院長1人が毎日夜間対応する状況ではないという。今回出産のあった夜はシフト上、あらかじめ院長が対応すると決まっていたが、「勤務前に酒を飲むのは当たり前か」と問う父親に、院長は「いつも飲んでいた。酔っ払うほど飲んでいない」と答えていた。
市保健所は「今回のケースはお産が予定されている中で飲酒したのが特徴。安全な医療は飲酒した状態ではできない」と問題視し、改善を求めるとともに医療法に基づき調査している。
飲酒後の医療行為について、市保健所健康政策課の中野浩二課長は「道路交通法のように規制されておらず、グレーなまま来ていたというのが実情」と指摘。厚生労働省医事課によると、法規制の議論はされていないといい「職業倫理に近いもので、業界の中でどう考えるかの問題。他の職業や資格でも、勤務が分かっていて飲酒することをわざわざ禁止していない」との見解を示す。
こうした現状に、父親は会見で「医師倫理に任せるのではあまりにずさん。法律で規制できないなら、条例など他の方法で子どもや母親が安心できる枠組みを作ってほしい」と訴えた。同席した父親の妹も「個々の医師の倫理観に委ねる以上、誰の身にも起こりうること。政治家や医師会にも考えてほしい。こんなつらい思いをする人をもう作ってほしくない」と涙を流した。
同院の男性事務長は5日午後、報道陣の取材に「今日はコメントを控えたい。院長からはそれだけだ」と話した。【川瀬慎一朗、藤顕一郎、森田采花】