神戸高2刺殺 動機や経緯、元少年逮捕も残る謎

神戸市北区の路上で平成22年10月、私立神戸弘陵学園高校2年、堤将太さん=当時(16)=が刺殺された事件は、発生から10年以上を経て容疑者が逮捕されるという大きな展開を見せた。「彼女と一緒にいるのを見て腹が立った」。当時17歳だったパート従業員の元少年(28)は兵庫県警の調べにこう供述したが、堤さんやその交際相手と面識はなく、動機や経緯には不可解さが残る。11日で逮捕から1週間。事件の波紋は広がり続けている。
静まり返った深夜の住宅街。自動販売機のライトに照らされたその一角だけは、周囲の暗がりから浮かんで見える。事件当日もそうだった。
22年10月4日午後10時45分ごろ、自販機の横に座って堤さんと会話をしていた交際相手の中学3年の女子生徒=当時(15)=は、通りの向かい側にいる若い男の視線に気が付いた。気持ち悪い-。そんな違和感を覚えた直後、男が近づき、手にしたナイフで堤さんを刺した。逃げて無事だった女子生徒は「知らない男だった」と話した。
親しげな2人の様子に「腹が立った」という元少年だが、捜査関係者は突発的な犯行とはみていない。凶器となった調理用ナイフ(刃渡り約10センチ)を、元少年が近くのスーパーで購入したのは事件の8日前。護身用ではなく、人を殺すために準備していたという。
堤さんの友人によれば、堤さんは当時毎日のように女子生徒と過ごし、現場の自販機横で一緒にいるところもよく目撃されていた。
明かりに浮かぶ2人の笑顔を見かけ、一方的に恨みや殺意を募らせたのか。元少年がゆがんだ感情を抱くにいたった心理的な背景は謎に包まれたままだ。
■周囲に犯行告白
事件の捜査が難航した大きな理由の一つが、犯行後の目撃情報が一切出なかったことだった。
元少年は青森県内の高校を退学後、現場近くの祖父母宅に一時的に身を寄せていた。地域の同年代のコミュニティーには属しておらず、堤さんの交友関係を調べても捜査線上には浮かばなかった。元少年の祖父母宅の近隣住民も、「孫」の存在をほとんど記憶していない。元少年はその後、家族と愛知県豊山町に移った。捜査本部で「通り魔的犯行」という見方は、いつまでも排除されなかった。
だが昨年、県警にもたらされた情報が急転直下の逮捕劇につながる。「人を殺したことがある」と話している男が愛知にいる-。
捜査本部は元少年の周辺で慎重に内偵に着手。周囲への告白に加え、堤さんの衣服から検出されたDNA型が元少年と一致したことが〝決定打〟となった。
元少年は愛知県内の売店で勤務。パソコンを使った画像処理の技術を持ち、デザインセンスを買われて商品説明の広告作成や売り上げ管理を任されていた。店の担当者は「まじめで、あいさつもしっかりする青年だった」と話した。
■遺族「刑事に感謝」
「犯人を逮捕しました」
今月4日午前、堤さんの父親、敏(さとし)さん(62)は担当刑事から自宅で一報を受けた。信じられず、しばし呆然(ぼうぜん)とした。
自作のポスターや、駅やスーパーでのビラ配り。必ず捕まると自らに言い聞かせて活動してきた。敏さん自身は片時も忘れたことはないが、「事件が風化するという絶望が常にあった」と振り返る。
そんな苦悩の時間を共有してくれたのが、担当刑事だった。10年以上の間、犯人と似た特徴の人物には必ず声をかけ、どんな小さいことにも目を光らせ続けてくれた。敏さんは「執念を持って将太のために捜査を続けてくれた警察に感謝している」と話した。
元少年のものとみられるSNSには、劣等感を抱える人間についての記述がある。自己嫌悪や嫉妬に取り込まれないよう、現状を破壊しなければならない-といった趣旨だ。
捜査本部は元少年から詳細な経緯を聴き、事件の全容解明を進めている。