「もっと危機感を煽るべき」それしか言わないコロナの専門家は日本社会をどうしたいのか

2021年8月8日、東京五輪が閉幕した。
開幕前は中止や延期を望む国民の声が各種調査で軒並み70%超だったが、開会式はビデオリサーチの調査によると7327万人が視聴したのだという。日本は27個の金メダルを含む58個のメダルを獲得。いずれも史上最多である。また、読売新聞社が閉幕に合わせて8月7日~9日に実施した全国世論調査では、東京五輪が開催されてよかったと「思う」が64%で、「思わない」が28%だった。終わってみたら、五輪に関する世論がガラリと変わっていたのである。
医師や感染症の専門家、コメンテーターを務める有識者や論者、タレントらは開幕前、メディアに登場しては「こんな時期に五輪をするなんて国民の命を危険に晒す!」「海外から変異株が来たらどうするのだ!」「五輪で人流が盛んになり、コロナ感染がますます拡大するに違いない!」「オリンピックならぬコロリンピックだ!」などと絶叫し、五輪開催に反対していた。朝日新聞に至っては、5月26日朝刊の社説において「夏の東京五輪 中止の決断を首相に求める」とまで言い切っていた。
ツイッターでも「#東京五輪開催に反対します」といったハッシュタグが一部で盛り上がりを見せ、大会が始まってからもSNS上でアンチ五輪運動を継続する人々がいた。開会式の折には会場の外にデモ隊が現れ、愛知県医労連は期間中も一貫して「五輪反対」を路上とツイッターで訴え続けた。閉会式にもデモ隊がやってきた。
しかしながら、国民全体のムードとしては「始まってみれば、五輪はやはり楽しい」「アスリートの頑張りに励まされた」「日本人選手のメダル獲得に感動した」と、概ね好意的だったように思う。
結果的に、東京都の新型コロナウイルス陽性者数は五輪期間中増加を続けたものの、死者数は1日に0人~7人だった。範囲を日本全体に広げても1日に5~18人である。補足しておくと、日本では1日平均で3800人ほどがさまざまな理由で毎日亡くなっている。丸川珠代・五輪相は、五輪関連で海外から入国した4万3000人のうち、陽性者が累計151人で、重症者は0人と8月10日の会見で発表。「オリンピックの開催は感染拡大の原因にはなっていないものと考えている」と述べた。
五輪では大半の競技が無観客開催だったが、結局、全国的に陽性者は激増した。「五輪を催せば人流が増え、人が死ぬ」「無観客にすれば陽性者はそこまで増えない」といった設定はどこへ行ったのか? 「無観客だから人流そのものは抑えられた。有観客よりはマシだった」みたいなロジックはナシでよろしく。当初、アンチ五輪を叫んでいた人々は「人流が増えると人が死ぬ。中止にすべきだが、最悪でも無観客」的な主張を喧伝していたではないか。なぜ、全国で陽性者が増えたのか? なぜ、東京から遠く離れた愛知県の医労連があそこまで反対をしたのか? サッカーの試合を有観客で実施した宮城県では、陽性者と死者が実際に激増したのか? 他の都道府県と有意な差異はあったのか?
五輪反対派は、これらの問いに対して明確な説明や反論はできないだろう。彼らはとにかく反政権を唱えたいだけなのだ。その都度、自分たちにとって都合のよい解釈を振り回しながら、政権批判を続けるためにコロナを利用しているにすぎない。
そうした連中の非論理的主張にはいちいち付き合っていられないので、ここからは当連載で以前、私が著した記事『「五輪開催は人命軽視」そんな空気は日本の金メダルラッシュで一変するはずだ メディアの「手のひら返し」はお約束』(2021年5月31日公開)について再検証してみたい。タイトルだけでおおよその内容は想像できるだろうが、私はこの記事のなかで、五輪開幕後に起こるさまざまな変化を予想した。要は、その“答え合わせ”をしていこうというわけだ。
答え合わせの前に、まずは東京五輪を大まかに振り返ってみる。大会初日の7月24日、柔道男子60kg級に出場した高藤直寿の金メダル獲得に始まり、翌25日には柔道男子66kg級の阿部一二三、女子52kg級の阿部詩が“兄妹金メダル”の快挙。さらには同日、競泳の女子400m個人メドレーで大橋悠依が金メダルを獲得(同種目で日本初の金)と、日本勢は開幕早々から大活躍。これで一挙に五輪ムードは高まった。
テレビを中心に、メディアはアスリートへの絶賛を開始。ツイッターでは「手のひら返し」がトレンドに入った。それを受け、中日スポーツの電子版は『東京五輪メダルラッシュで「手のひら返し」トレンド入り 民放各局の姿勢疑問視「玉川氏も嬉しそうに」』という記事を掲載するほどだった。
以後、瀬戸大也(競泳)や桃田賢斗(バドミントン)、森ひかる(トランポリン)ら金メダルを期待されていた一部選手の不調などもあったが、各種の競技で日本代表の躍進は続き、テレビはそれまでの批判的論調を一転させて、メダリストを連日称え続けた。ただし「コロナは依然として深刻ですが……」といった言葉は随所に挟まれていたし、選手たちもインタビューでは「こんな時期に開催してくれてありがたい」的なことを頻繁に口にしていたので、コロナの陰は常についてまわっていたといえる。
開会式と閉会式はどちらも不評だったが、少なくとも競技においては、日本にとってひとまず成功裏に終わったといえるだろう。無観客については、反対派の「お気持ち」を考慮し、少しでも円滑に五輪を進行させるために妥協してもらう……という意味では、ある程度の効果があったかもしれない。
ABEMA TIMESは8月10日、『「みんな終わったら“良かった、良かった”って。手のひら返しは今回も同じだった」「メディアのスポーツ部は分析を」東京オリンピックを終えて麻生財務相』という記事を掲載した。その内容は、私が当連載で5月に書いたこととほぼ同じ論調になっている。つまりはまあ、私の予想はほぼ当たっていたということだ。
それでは、私の予想記事が当てた部分、外した部分を抜き出してみる。
このように、記事内では10項目ほど五輪開催後の未来予想を挙げていたわけだが、実に9項目を的中させてしまった。さらに、これらの予測が当たったと仮定した場合の結論として、くだんの記事では以下のように綴っている。
〈高確率で期待できる日本人選手の金メダルラッシュは、「とにかく悪い材料を探す」ことに躍起になってきた「コロナ、ヤバ過ぎ」派の日常をぶち壊してくれる可能性がある。それでも世間の風が変わらなかったら、いよいよ日本人の集団ヒステリーも末期症状。閉塞感に包まれた暮らしが、これから何年も続くことになるだろう。そうなれば「一生マスク生活」なんて暗黒社会も、決して絵空事ではなくなってくる〉
実際、五輪が終わった途端、さまざまなテレビ番組は予想どおり「コロナ、やはりヤバ過ぎ」「デルタ株の恐怖」「医療崩壊の危機」「若者でも重症化する」などと煽りを再開してきた。私が上記の結論で述べた絶望的な未来図は、また当たってしまうかもしれない。
ただ、希望もなくはない。「日本一コロナ患者を診た町医者」として知られる兵庫県尼崎市の長尾和宏医師が、8月10日に「バイキング」(フジテレビ系)と「フジプライムニュース」(BSフジ)に出演。現在、感染症法で「新型インフルエンザ等感染症」に分類され、医療機関などでは同法の2類に相当する扱いになっている新型コロナウイルスを、5類へ変更するべきだと訴えたのだ。
この1年7カ月、恐怖をひたすら煽るだけだった東京の番組が長尾氏のような人物を出演させたのは、潮目が変わる予兆としてポジティブに捉えたい気持ちもある。とはいえ、コロナに怯えきった暮らしにすっかり染まってしまった大多数の日本人のなかには「このまま一生、緊急事態宣言を出しておいてもらいたい」とすら考えている人が少なくないように映る。もはや正気の沙汰ではない。彼らがこのまま変わらないとしたら、日本の未来は絶望的だ。というか、個人的にはすでに醒めきってしまった感覚があり、日本社会や日本人への期待を一切抱かなくなりつつある。正直、すべてがどうでもよくなってしまった。
さて、私は今年5月の段階で現在の状況をほぼ的中させてしまったわけだが、コロナに関してはこの1年7カ月、メディアと専門家の論調がとにかく変わらなかったため、人々の気持ちもずっと変わらないまま時間だけが過ぎてしまった。つまり、世論が変化せずに停滞しているのである。それどころか、7月の都議選で「五輪無観客」を公約にした都民ファーストの会が当初の予測よりも健闘したことから、「コロナはヤバ過ぎる」路線は引き続き大衆ウケすることが明白になった。いいのか、それで。
今回の東京五輪を軽く総括するとしたら、「手のひら返し」がキーワードになるだろう。関連する記事のタイトルをいくつか紹介する。
このように「手のひら返し」にまつわる記事は多数あるが、今回、突っ込まれまくったのはなんといっても立憲民主党の蓮舫参議院議員だろう。同氏はかつて民主党政権下でおこなわれた事業仕分けで「2位じゃダメなんですか?」と発言し、物議を醸した。それからというもの、スポーツの試合で日本人選手が優勝したりすると、「蓮舫さんは2位でもよかったんでしょ?」などとツイッターで揚げ足を取られることが定番になっていた。
今回の五輪では、7月25日にスケートボード(ストリート)の堀米雄斗選手が金メダルを獲ったときに「堀米雄斗選手、素晴らしいです! ワクワクしました!」と蓮舫氏がツイート。これに猛烈なツッコミが寄せられた。多くは揶揄するものだった。
奇遇ながら、私が翌26日に出演した「ABEMA Prime」(ABEMA)のテーマのひとつが「批判はどこへ“五輪報道一色”は手のひら返し?」だった。MCの小籔千豊氏は「中止、中止といっている人らは、ホンマにブーメラン。わかって投げているのかなと思うくらい」と述べていた。私も見解を問われたので、こう答えた。
「蓮舫さん、ようやく“こっち側”に来てくれたか、と思いました。これからの五輪を楽しんでいただきたい」
こうした手のひら返しに対するツッコミはSNSでよく見かけたが、たとえばツイッターユーザーの「マンポジMamposi」氏(@dann_swano)は「感動をありがとうチキンレース」を五輪開幕前から提唱していた。五輪に反対していた著名人たちが開幕後、どんな反応(変節)を見せるのか──誰がもっとも早く五輪競技の結果を喜んだり、「感動をありがとう!」的な発言をしたりするか、候補者を挙げてメダル獲得競争のような体裁にしたのである。五輪4日目に金・銀・銅メダルが決定し、同氏は次のようにツイートした。
このように、五輪期間中は報道や著名人の「手のひら返し」を生温かく鑑賞する余裕がネット上にも生まれ、世間も五輪ムードで明るさを少し取り戻したような気配があった。しかし、五輪が終わった途端、メディアは再び論調を「コロナ煽り」に完全に寄せてきた。そのほうが数字は取れると判断したのだろう。
8月10日、「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日系)では、神奈川県の陽性者が2000人を超えたと紹介。黒岩祐治知事が「昨年の第一回緊急事態宣言の際は、人と人との接触を7~8割は減らすと掲げ、その状態を実現していた」「今回もそのくらいの対応を考えなければ」と指摘したことを伝えた。さらに、その具体的方策として挙げられた「飛行機や自動車の自由席をなくすなどの措置を取るべき」という黒岩氏の意見にも触れた。
これらの発言を受けて、コメンテーターとして出演していた日本医科大特任教授の北村義浩氏は次のように語った。
「政府や自治体の長も『不要不急の外出を控える』というお決まりの言い方をするばかりで、なんだか四文字熟語みたいに聞こえる。また、若い方は『必要な用事がある』という言い方をして、外出をなかなか控えない。1年前は『医療機関へ行く、もしくは必要な食料品を買いに行く以外は外出しないでください』と訴えていた。あるいは黒岩知事が指摘していたように『接触機会を8割減らす』というような強いメッセージを出していた。今回も『医療機関に行く、食料品を買いに行く以外は、とにかく外に出ないでくれ』というキャンペーンを張ったほうがいい」 「東京都でも自宅療養を余儀なくされたり、なかなか入院の調整がつかなかったりする方が2万人どころか3万人に近づいている。500人に1人はコロナで行動に制限がかかっている。濃厚接触者までいれると100人に1人くらいになる。ありふれた、明日はあなたかも、私かもという状態。危機感をもっと……悪い言い方ですが煽ったほうが、私はいいと思います」
この発言を聞いたとき、私は呆れ果て、ため息すら出なかった。北村氏といえば「マスクはパンツみたいなもの。だからマスクをつけていなかったら罰則を与えてもよい」「マスクにはワクチンと同程度の効果があると考えていい」「マスクは本当にワクチンのようなよいツールで、皆さんを守ってくれる」「マスク会食の義務化に賛成です」「この1年間戦ってきて、マスクはこんなにも強力な武器なのか……ということがよくわかったはずだ」「マスク着用によって、感染を90%以上ブロックできる」などなど徹底的にマスクを礼賛する、マスク推進派の第一人者である。
そんな人物が1年以上に渡ってスポットライトを浴び、ワイドショーなどに出まくっては前述したような発言を重ねて、小遣い稼ぎを続けているのだ。北村氏だけではない。コロナの“専門家”とされる人々がメディアで危機感を煽り、知名度や出演料を手にしている(以前、当連載でも指摘したとおりだ)。
コロナを終わらせたくない人々が発言力を持ち続けるかぎり、コロナ騒動は終わらないだろう。いいかげん「いつものメンバー」が喋り続ける状況に終止符を打ってはどうか。このままでは、本当になにも変わらない。彼らは引くに引けない状態であり、北村氏のように「煽ることは正義」というスタンスでいるのだから。
今回の私の予想については「さっさと外れてほしい」というのが本音だ。とはいうものの……秋には衆議院選挙も控えているし、政治家はビビる国民に忖度した発言をこれからもテキトーに重ねていくだろうから、風向きはなかなか変わらないに違いない。
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・あれだけ反対の声が多かった東京五輪も、始まってみればなかなかの盛り上がりを見せた。「東京五輪で世間の風向きが変わる」という私の事前予想どおりになった。
・五輪会期中にポジティブなムードが醸成されたが、閉幕した途端、メディアはまた「コロナ怖い」と危機感を煽るようになった。
・メディアに登場する“専門家”など「コロナを終わらせたくない人々」が声を上げ続けるかぎり、コロナ騒動は収束しない。
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(ライター 中川 淳一郎)