三重県朝日町で2013年8月、中学3年生の寺輪博美さん(当時15歳)が、元少年に襲われて死亡した事件の発生から25日で8年となる。娘を亡くし、絶望に見舞われても、博美さんの父悟さんは悲しみをこらえ、犯罪被害者らの支援充実のため県や市町村を訪ね、その必要性を訴え続けてきた。その結果、県のほか、19市町で被害者らを支える条例が制定された。悟さんは「どこに住んでいても支援が受けられるように、被害者らの痛みに寄り添ってほしい」と話す。【谷口豪】
事件直後は、娘を失ったショックから勤めていた運送関係の会社に出社できなくなり、収入がなくなった。食事も取れず、1カ月で15キロ以上痩せた。連日、自宅に詰めかける報道陣から身を隠すため、ホテル暮らしも強いられた。そして最も深く心に傷をつけたのは、死体検案書の作成費用の請求書に記された「屍(しかばね)」の一文字。「言葉が出なかった。これ以上ない悲しみの中で、とどめを刺された気分だった」
悟さんは行政や司法に、被害者遺族への理解や支援が行き届いていないことへの憤りを感じた。「犯罪がなくなるのが一番良い。それができないなら、せめて最低限の支援をするべきではないか」。18年、鈴木英敬知事に犯罪被害者や遺族を救済する条例制定を促す手紙を書いた。これを契機に見舞金制度のほか、一時的な住居の提供など金銭面以外の支援なども盛り込んだ条例が、翌19年に施行された。その後、県下の市町でそれに続き、同様の条例制定が相次いだ。
県によると現在、19市町で条例が制定され、残る10市町の多くは制定予定か、検討中という。県の担当者は「これまで条例の必要性に対する理解が進んでいなかったが、寺輪さんのご遺族が置かれている実情を聞き首長らの意識も大きく変わったのではないか」と話す。当時事件を担当していた県警OBも「これまで光が当たらなかった被害者遺族の思いに、目を向けるきっかけを作った。ご遺族の努力は並大抵のことではない」と語る。
悟さんはいつも博美さんの写真を胸にしまい、各市町を巡ってきた。そして今も「娘を守れなかった」と自分を責めているという。「正直、遺族は事件を早く忘れたい」と胸の内を明かす一方、「博美が生きた証を残したい。犯罪被害者救済の活動を続けたい」。悟さんはほほ笑む愛娘の遺影を見つめながら、決意を新たにしている。
朝日町中3女子死亡事件
2013年8月、帰宅途中だった四日市市の中学3年、寺輪博美さんが、当時高校生だった元少年に襲われ、朝日町の県道脇の空き地で遺体となって見つかった事件。所持金約6000円が奪われており、県警は強盗殺人容疑などで当時高校3年の元少年を逮捕。元少年は強制わいせつ致死と窃盗の罪で起訴され、懲役5年以上9年以下の不定期刑が確定した。