地方自治体の判断は、安全保障やエネルギー政策など国益に関わる問題に影響を及ぼすこともある。住民投票の権利を外国人に与えることを安易に考えるべきではない。
東京都武蔵野市が、市議会定例会に住民投票条例案を提出した。日本人と外国人を区別せず、市内に3か月以上住んでいる18歳以上に投票権を認める内容だ。採決は21日に行われる予定だが、市議の間で賛否は割れているという。
条例が成立すると、市政の重要テーマについて、投票資格者の4分の1以上の署名があれば、投票の実施が可能になる。留学生や技能実習生といった在留資格を持つ外国人も対象になる。
日本で暮らす外国人は増えている。自治体が、在住外国人の意向を行政サービスに反映させることは、当然必要である。
しかし、外国人に住民投票への参加資格を与えるかどうかは別の問題だ。憲法は、参政権を日本国民固有の権利と明記している。
1995年の最高裁判決は、国政だけでなく、地方の選挙も外国人に選挙権は保障されていないと結論づけた。外国人に地方選挙権を認めることの是非を巡る議論も近年は盛り上がっていない。
こうした中で住民投票権を付与することは、広い意味で参政権を認めることになりかねない。
長く日本に居住しているわけではない人が、日本人の考え方や習慣を十分に理解せず、政治的な運動を展開したり、票を投じたりする事態につながらないか。
沖縄県の住民投票では、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設や日米地位協定の見直しなど、国益に絡むテーマが対象となっていた。他の地域では、原子力発電所の誘致が焦点になった。
投票結果に法的拘束力がないとはいえ、拙速は禁物だ。
武蔵野市の条例案が住民に理解されているとも思えない。市が3月と8月に開いた意見交換会への参加者は計13人にとどまった。
すでに外国人も投票できる住民投票条例を持つ自治体は全国に40を超えるという。多くは永住外国人や、自治体に3年以上在住するといった要件を設けているが、この傾向を放置して良いのか。
大阪府豊中市と神奈川県逗子市は、武蔵野市と同様に日本人と外国人を区別していない。
武蔵野市に今なぜ、外国人の住民投票権が必要なのか。付与すれば、なぜ地域の利益につながることになるのか。市議会はよく考えて結論を出す必要がある。