Gゼロサミットでの岸田首相の発言全文は次の通り。
内閣総理大臣の岸田文雄です。「Gゼロサミット」が、オンライン形式とはいえ、今年も盛大に開催されることを嬉(うれ)しく思います。十倉経団連会長、桜田経済同友会代表幹事、そしてイアン・ブレマー氏のもとで、今後の世界の展望を開く活発な議論が交わされることを期待します。
人類が生み出した資本主義は、効率性や、起業家精神、活力を生み、長きにわたり、世界経済の繁栄をもたらしてきました。歴史を振り返ると、資本主義は、そのメリットとデメリットの間の微妙なバランスを取りながら、進化してきました。20世紀半ばに行われた、福祉国家建設に向けた取り組み、その後の新自由主義の広まりは、いずれも、そうした資本主義の進化の過程でした。
今、資本主義は、更なる進化を求められています。
1980年代以降、世界の主流となった新自由主義的な考えは、世界経済の成長の原動力となった反面、多くの弊害も生みました。市場に依存し過ぎたことで、格差や貧困が拡大し、また、自然に負荷をかけ過ぎたことで、気候変動問題が深刻化しました。
世界では、米中関係をはじめ、地政学的緊張が高まる局面にあり、ドクター・ブレマーが指摘するGゼロの度合いが強まっています。この緊張のひとつの本質は、経済社会そのもののバージョンアップの立ち遅れにあります。
これまでの市場偏重・株主偏重の資本主義がもたらしたゆがみが、選挙ポピュリズムや偏狭なナショナリズムの形で、健全な民主主義にシワを寄せています。また、権威主義的な国も、格差拡大や権力と富の癒着というゆがみにさらされ、軍事的拡張、国民への監視強化などの形に、しわを寄せています。
これ以上、問題を放置することはできないというのが、主要先進国共通の想いではないでしょうか。米国では、「ビルド・バック・ベター(より良い再建)」、欧州では「次世代EU」という新たな資本主義モデルを模索する動きが始まっています。
これらの政策に共通するコンセプトは、資本主義が生む様々な弊害を是正しながら、力強い成長を実現し、国家を、そして、国民を豊かにするというものです。
岸田政権では、私のイニシアチブの下で、「人への分配」を強化することや、今後の成長分野でもある気候変動や、デジタル化、経済安全保障といった分野に、官と民が共に役割を果たしながら、大胆な投資を行うことで、「成長と分配の好循環」による「新しい資本主義」を実現する方針を打ち出しました。
来春には、「新しい資本主義」のグランドデザインを公表し、世に問うつもりです。世界に向けて、発信し、同じ問題意識を持つ主要国の首脳と共に、グローバルの議論を牽引(けんいん)します。
今回、Gゼロサミットでは、健康安全保障、国際ルール、気候変動問題が主な議題だと聞いています。いずれも、経済社会の持続可能性にかかわる重要な論点であり、私が掲げる「新しい資本主義」の議論と、極めて親和性が高いテーマです。
経済社会の持続可能性こそが、私の問題意識の根幹です。健康安全保障、国際ルール、気候変動など、経済社会活動の持続可能性を脅かすリスクに対応しつつ、官と民が役割分担をしながら、協働して、国家、そして国民が豊かになるための経済社会システムを作っていきます。
そのための第一歩として、私は、以下の取り組みを行います。
第一に、健康安全保障です。我々は、新型コロナの脅威を社会全体として可能な限り引き下げます。そのために、ワクチン、無料検査、飲める治療薬の普及に取り組み、予防、発見から早期治療までの一連の流れを抜本的に強化します。
今回の経験を踏まえ、我々は、国内ワクチン、治療薬の開発・製造に5000億円を投資することにしました。こうした取り組みにより我が国のレジリエンスを高めるとともに、新たな成長の種を生むことを狙います。
第二に国際ルールについてです。新しい資本主義の時代に求められる重要な国際ルールは、デジタル分野におけるルールです。信頼性のある自由なデータ流通、「DFFT(Data Free Flow with Trust=信頼ある自由なデータ流通)」の実現に向けた国際的なルール作りを主導し、自由で公正な経済秩序を構築し、世界経済の回復、新たな成長を後押しします。国内的には、新しく設立した、デジタル庁を司令塔として、早急にデジタル原則を定め、社会全体のデジタルトランスフォーメーションを進めます。
第三に、気候変動の問題です。気候変動問題など人類共通の社会課題を新たな市場を生む、成長分野へと大きく転換していきます。2050年カーボンニュートラル及び2030年の46%排出削減の実現に向け、再エネ最大限導入のための規制の見直し、及び、クリーンエネルギー分野への大胆な投資を進めます。火力発電のゼロエミッション化に向け、アンモニアや、水素への燃料転換を進めます。我が国の技術や、インフラの力を高め、同じようなエネルギー事情を抱える、アジアを中心とした国々の脱炭素化に貢献していきます。
世界において、Gゼロの傾向が強まる中で、日本は米国、ASEAN(東南アジア諸国連合)、豪州、インドなどとともに、FOIP(自由で開かれたインド太平洋)を実現し、また、QUAD(日米豪印の枠組み)を、さらに実りあるものにしていく責任を強く背負っています。我が国は、堅固な日米関係を基軸としながら、地政学的な緊張や気候変動をはじめとする地球規模の課題を、イノベーションとダイナミックな活力、そして、フリー・フェア・オープンな価値観の浸透によって解決していくソリューション・パワーとして、地域のリーダーシップをとることで、全力を尽くしてまいります。
改めて、このように、盛大にGゼロサミット2021が行われることを心からおよろこび申し上げ、開会にあたってのごあいさつとさせていただきます。