政府が21日に公表した日本海溝と千島海溝の巨大地震の被害想定は、北海道と東北地方の北部に甚大な被害が及ぶ過酷な数字となった。最大級の地震を想定したため津波が巨大化したほか、寒冷地の厳しさや避難意識が低い条件を設定したことが背景にあり、防災上の課題を浮き彫りにした。
北海道沖の千島海溝と東北沖の日本海溝は、海底の太平洋プレート(岩板)が陸側プレートの下に沈み込んでいる。プレート境界部の断層に蓄積したひずみが限界に達すると、断層がずれて陸側が跳ね上がり、津波を伴う巨大地震が発生する。東日本大震災もこの仕組みで日本海溝で起きた。
今回想定した地震は、日本海溝型は大震災より大きいマグニチュード(M)9・1、千島海溝型は南海トラフの想定を超えるM9・3に及ぶ。
沿岸に残る過去の津波の痕跡から、12~13世紀と17世紀に北海道と東北北部を襲った最大級の津波を再現する震源域を想定。断層は大震災と同等以上の大きなずれが生じると仮定した。
日本海溝型は岩手県中部より北の地域で大震災より高い津波が押し寄せ、死者は最悪のケースで大震災の犠牲者の約10倍に達する。断層が大きくずれる場所に近い北海道西部、青森県、岩手県は津波が特に大きく、この3道県で死者の9割を占めた。
北国特有の事情も被害を拡大させる。積雪によって避難の際に歩く速度が遅くなったり、雪の重さで全壊する建物が増えたりする懸念がある。千島海溝型の津波による死者は、避難の条件が悪い冬の深夜に発生した場合、夏の昼と比べて1万人以上も多い。
北海道と東北の全域が凍結した場合の死者数の増加や、北海道に流氷が漂着した際の全壊建物の増加も推定した。津波から避難した後、寒さで体温が下がる低体温症で対処が必要な人の数も初めて示した。
北海道大の高橋浩晃教授(地震学)は「国の想定で寒冷地の地域特性と対策が盛り込まれたことは評価する。北海道の対策の伸びしろは非常にあり、今後考えていかなくては」と話す。
想定された被害は防災対策を目的とした最大級のケースで、これが次に起きる大震災とは限らない。だが政府の地震調査委員会は、千島海溝でM8・8程度以上の巨大地震が30年以内に7~40%の確率で発生するとし、「切迫している可能性が高い」と評価しており、十分な注意が必要だ。
地震調査委委員長で、今回の被害想定の策定にも関わった平田直(なおし)東京大名誉教授は「生きているうちに大きな地震が起きる可能性が高く、注意すべきは南海トラフだけではない。きちんと備えなければいけない」と訴えた。