大阪市北区曽根崎新地のビル4階のクリニックで起きた放火殺人事件で犠牲になった女性(21)=大阪府門真市=は、クリニックで働くかたわら、大阪市内の居酒屋でもアルバイトに励んでいた。「医療事務の資格を取りたい」と周囲に将来の目標を語っていたといい、突然の悲劇に居酒屋の仕事仲間も悲しみにくれている。
「50年以上生きていて、こんな悲しい花束を贈ったことはただの一度もなかった」
店のカウンターの片隅に置かれた花束とグラス入りのビール。居酒屋の男性経営者(54)は「彼女はあまりお酒は強くなかったけど、好きだったので。僕にはこれぐらいしかできないから」と言って、そっとグラスを合わせた。
女性と初めて会ったのは今年の9月ごろ。応募してきた女性を面接した印象は「ハキハキと目を見て話をするし、時折見せる笑顔もすてきだった」。働き始めてからもその評価は変わらず、「お酒をつくったり、料理を提供したり、人一倍仕事を覚えるのが早かった。明るい性格で年配の客ともすぐに打ち解け、評判も良かった」と振り返る。
女性は昼間はクリニックで受付業務のアルバイトに入り、夜は週2~3日、居酒屋で接客を担当していた。営業終了後は同世代のアルバイト仲間と鍋などを囲み、お酒を飲みながら恋人の話や好きだったアニメの会話で盛り上がった。「医療事務の資格を取りたい。試験が近いので勉強している」と夢を語っていたという。
同僚の20代女性従業員は接客で困っていたとき、「大丈夫ですか? 私が行きますよ」と声をかけてくれたことを覚えている。「それが今でも忘れられない」と話す。別の女性(21)も「もっと仲良くなれると思っていた。犯人が許せない」と憤る。
女性は、火災当日の夜も出勤予定だった。しかし前日の夜、男性経営者にLINE(ライン)で「明日のシフト、仕事が入って厳しいかもしれません」とメッセージが入った。翌朝に「何とかなるさ」と返信すると、「すみません」という言葉と「ありがとう」というスタンプが返ってきた。時刻は午前9時半ごろ。事件の約50分前のこのやり取りが最後の交信となった。
男性経営者は「出会いからわずか3カ月だったが、一緒に飲みに行ったり、鍋を囲んだりした思い出がよみがえる。なんで死んじゃったんだ。つらくて悔しくて容疑者が腹立たしい」と声を震わせた。(田中一毅)