世界がコロナ禍に見舞われてすでに2年近くが過ぎようとしている。日本では収束の気配が見えつつあるものの、ここへ来て再び南アフリカ由来の変異種、オミクロン株が確認され、世界は再び“禍”の渦に巻き込まれつつある。
そんなコロナ禍の最盛期、疲弊しつつも懸命に働く医療従事者によって支えられていたこの日本で、当事者たる医療関係者によるさまざまな卑劣な事件が勃発したのもまた事実だ。
今回取り上げる事件は、その最たるものだろう。人間というものが、欲に溺れ、欲にまみれたときどうなるのか。あまりにえげつない行為の詳細が関係者たちの証言から明らかになった。
◆潜伏先の宮崎で緊急逮捕された“魔性の女”
11月9日、東京・立川簡易裁判所305号法廷。まだ40代前半と思しき若手の裁判長が主文を読み上げた。
「被告人を懲役2年6月の刑に処する。ただし諸般の事情を鑑み、執行猶予期間を4年とする」
その瞬間、裁判長の正面にぴんと背筋を伸ばして座っていた矢嶋真澄こと志賀真澄(49歳)の華奢な肩は小刻みに震え出し、しんと静まり返っていた法廷内に、洟水を啜る音がこだました。傍聴席に背を向けて座る彼女の表情を伺うことはできなかったが、おそらく泣いていたのだろう。
しかし、裁判を傍聴していた彼女の元夫である美容院経営の男性(43歳)は閉廷後、怒りを露わにして、記者にこう呟いた。
「泣いてましたね。演技というよりも、感情の起伏が異常に激しい女なんです。そのせいで僕も相当な被害を被ってきました」
元夫については後にまた触れるが、事件の概要はこうだ。
「今年5月18日、矢嶋真澄は潜伏先の宮崎県の住処を捜査陣に急襲され、警視庁によって緊急逮捕された。矢嶋は当時、立川市の医療法人・Sの関連クリニックの理事で、事務方のトップだった飯島聡介(38歳・後に逮捕、現在公判中)と共謀し、在宅診療をしたと偽って診療報酬を詐取。捜査関係者によると逃亡生活をスムーズにするためか、籍を抜いて名字を矢嶋から志賀に変え、志賀真澄として生活していた。逮捕の約1年前から捜査本部の内偵が入っていたというから、警察がいかにこの事件を重大視していたかが伺えます」(全国紙社会部記者)
飯島被告の裁判の結審はまだ先だが、裁判で認定された詐取金額は146万4560円。一見、大した金額には思えない。ところが、「詐欺事件は一般に被害額認定が非常に難しい」(同記者)とされており、実際の詐取金額は「桁が違う」という指摘もある。
◆「9億円もの大金が流出した」
「今回の判決は序の口に過ぎません。矢嶋の裁判では診療報酬を詐取した件のみ裁かれ、被害者は国民健康保険連合会ということになるわけですが、最大の被害者は我々クリニック側なんです。本当に困っています」
こう憤るのは、矢嶋と飯島が逮捕前まで勤務していた訪問診療専門クリニックの現・事務局長で、上部組織である医療法人Sの理事を務める菊池拓也氏だ。
21年2月に矢嶋が、4月に飯島が突如姿を消し、クリニック側が困惑していたところ、突然逮捕の報が入り、はじめて事件を知ったのだという。
「まさに寝耳に水でした。首謀者二人のせいで、まったく事件に関係のないクリニック関係者も事情聴取を受けるなど、コロナ禍で多忙を極める中、大きな損害を被りました」(菊池氏)
大きな損害とは、捜査への対応や評判の低下だけではない。とんでもない金額が2人によって持ち出されていたことが内部監査で判明した。
二人の逮捕後、会計士に依頼してこれまでの経理を精査したところ、
「最低でも9億円という大金がクリニックの口座から流失していることが発覚。これも矢嶋こと志賀真澄の手引のもと、飯島がいろんな口座に振り込んだり、うちが保有していた不動産を抵当に入れて金を借りていたことがわかりました。現在、民事訴訟に向けて準備中です」(菊池氏)
というから驚く。判明しているだけでも9億円、最大で14億円超――いったいその金はどこに消えてしまったのか。
◆一介の事務員が主導した巨額横領事件
憔悴しきった様子で菊池氏が語る。
「クリニックの銀行口座の管理は事務方トップの飯島に一任されていた。我々の調査では、ここ3年間ほどで、国民健康保険連合会から入金されたはずの診療報酬の何割かが飯島個人の口座に流れていたことが判明しています」
こう聞くと、飯島容疑者が事件を首謀したように思える。ところが、菊池氏や他のクリニック関係者の見方は違う。
「実際に入出金の操作をしていたのは飯島ですが、真の首謀者は一介の事務員に過ぎなかった矢嶋真澄で間違いない。2人は恋仲にあり、矢嶋にそそのかされる形で飯島は不正経理に手を染めていった」
表向きは上司と部下という関係にあった二人。だが、裏ではただならぬ関係にあったという。飯島の元同僚の男性看護師の1人はこう証言する。
「矢嶋には夫が、飯島には妻と子ども3人がいましたが、二人が不倫関係にあったことは公然の秘密でした。矢嶋からのアプローチで飯島がメロメロになり、性的に堕落していく様はクリニック内の一部では噂にっていましたから。でも、だからってまさか詐欺とか横領事件を起こすとまでは……思いもよりませんでしたが」
飯島と矢嶋の“ただならぬ関係”とはどんなものだったのか。それは常軌を逸した、あまりにも異常なものだった。
◆SMプレーで洗脳、調教していく仰天手口
昨年末、コロナの第3波が日本中を覆い尽くしていた頃。
訪問医療専門クリニックの現場はまさに修羅場と化し、職員たちは疲弊し切っていた。そんな現場で陣頭指揮をとっていたのが当時の事務局長である飯島だった。
「事務所には患者様からの依頼が殺到。派遣できる医師や看護師の人数にも限界があり、まさに綱渡りのような状態でした。そんな中、飯島は気にいらない職員やドクターに冷たく当たり、平気で首を切ったりしていました。そして一番忙しい夜22時を過ぎると、突然携帯電話も繋がらなくなることが頻発に起きるようになったんです」
クリニック関係者がウイルスの恐怖と戦いながら、必死に訪問診療を続けている、まさにそんなときーー飯島は都内のラブホテルを訪れ、部下である矢嶋真澄と異様な性戯に没頭していたのだ。
その動かぬ証拠を見せられ、驚いた。全裸で大きく股を開いた男が紐で椅子にくくりつけられている。横には女がいて、男に罵詈雑言を飛ばしている。
死んだ魚のような目をした男は「やめて、映さないで~。やめて、映さないで~」と機械的に、延々と呟き続けている。男はもちろん飯島、横にいる女は矢嶋だった。
いったい、このおぞましい動画は何なのか。
「矢嶋はもともとSM愛好家で、僕も結婚中はずいぶんといたぶられました。飯島も彼女と不倫を続けているうちに調教され、肉体的にも精神的にも完全に彼女の支配下に置かれてしまったんでしょうね。診療報酬の詐取にしても、裏で操っていたのは彼女のほうだと思います」
こう語るのは、前出の矢嶋の元夫の男性である。矢嶋はSMだけでなく、スワッピング愛好者でもあり、実際、矢嶋と飯島がとあるスワッピングパーティーにたびたび参加していたという証言も得られた。
「麻布界隈で有名なラブホテルの関係者とも不倫しており、相当仕込まれたのでしょう。彼が主催する常人にはおよそ想像しがたいパーティにも出席し、性の探求に没頭していった。自分1人でやるぶんには個人の自由ですが、配偶者がいる立場でも矢嶋真澄はこうしたふるまいをする。彼女自身、前の夫との間に息子がいますが、さっさと切り捨ててしまった。飯島に3人の子供がいても浮気や横領に手を染めさせることに胸が傷まないのは、なにかが欠落しているとしか思えません。
実は一度、彼女の浮気癖に困り果て、占い師に相談したところ、こんなことを言われました。『朝顔のツルに似た人だ。隣に良い枝があればすぐそっちに巻き付いていく性質があります』。本当、その通りだと思いました」
◆私文書を偽造し、離婚届を勝手に提出
元夫は5年ほど前に矢嶋と別居生活を送るようになる。そして、矢嶋と飯島がただならぬ関係に陥っていったのはその頃からだった。
そして矢嶋にはもう一つ重大な疑惑がかけられている。元夫の男性の証言。
「元夫と言ってますが、実はつい最近まで自分が離婚していた事実すら知らなかったんです。真澄が僕の印鑑や保証人の印鑑を勝手に作り、勝手に離婚届を出していたんです」
これが事実なら、有印私文書偽造の罪に問われることになるだろう。
「これについてはまもなく彼女を訴えることで準備が整っています」
と“元夫”にされた男性は語る。矢嶋真澄として逮捕され、新聞やテレビでも報じられた女性が実は志賀真澄だったカラクリである。
11月9日に有罪判決が出た矢嶋真澄は即日釈放され、執行猶予とは言え、自由の身となった。クリニック側から横領したと見られる金はいったいどこにあるのか。
矢嶋真澄こと志賀真澄を直撃した。
◆「結婚の約束をしているから、不倫ではない」
矢嶋真澄こと志賀真澄は、時折、語気を荒めながらも直撃取材に応じた。以下は彼女との一問一答である。
ーー有罪判決が出ましたが、現在の気持ちを教えてください。
志賀 虚偽のカルテを作成するなど、裁判で認定された件は事実。深く反省しています。
ーー裁判で有罪となった件以外に、飯島と共謀し、クリニックの口座から10億円近い金を横領した疑惑も囁かれています。
志賀 少なくとも私は知りません。私たちを陥れようとしている人たちの虚言だと思います。
ーー「真澄が勝手に離婚届けを出して、自分の知らぬ間に離婚させられていた」と元旦那さんが証言しています。これは事実か。
志賀 それについては認めます。元旦那からDVを受けてきて、逃げるために虚偽の離婚届を作成し、提出しました。
ーー共犯者と目される飯島とは愛人関係にあった?
志賀 不倫ではありませんよ。真剣にお付き合いしていました。飯島は今の奥さんと別れて一緒になると言っていました。彼が出てくるのを私は待ちます。それと、私と飯島の性的な動画が流出していると聞きましたが、それは認めます。でも、プライベートなことであり、今回の事件と何の関係もないことです。
彼女は堂々とこうコメントし、最後にこう語った。
「私も飯島も、たしかに違法行為をはたらきました。でもそれは、自らすすんでやったのではなく、上の人間から無理やりやらされたんです」
前出の菊池氏が今の気持ちを語ってくれた。
「裁判で有罪が確定しているというのに、まだ誰かのせいにしたいみたいですね。まったくふざけてますよ。また、10億を超える大金が不明になっているのも事実。我々ができることは彼らを訴えて、司法の場で闘うことくらいです。2人には罪を認め、まずは誠意を持って、ぼくたちに心からの謝罪をしてほしい。今思うのはそれだけですね」
2人のエッセンシャルワーカーの犯した行状は、あまりにも罪深い。
取材・文/根本直樹