富士山の閉山期間中の遭難救助について、山梨県が県防災ヘリによる救助の有料化に向けた検討を始めた。氷点下での厳しい登山などを強いられることも多い危険な救助作業だけに、麓自治体などからは「安易な登山を防ぐ一手になる」との期待の声があがる一方で、県警ヘリなどは無償で救助にあたっているため、「公平性に問題が起きるのでは」といった懸念も聞こえる。(大野琳華、涌井統矢)
県によると、すでに有料化を導入している埼玉県などの情報を収集しており、富士山以外の山にも適用させるか、閉山中に限るかどうかも含めて検討している。
この動きに対し、13日にいち早く有料化を訴えていた富士吉田市の堀内茂市長は「議論が大きく前進するので感謝したい」としたうえで、「静岡県と共に進めることでより大きな議論となり、安易な考えで登る登山者への警告や国への働きかけになる」として、両県で連携しての取り組みを求めていく考えを示した。
国内有数の観光地でもある富士山には、海外から多くの人が訪れており、軽装で遭難するケースもある。外国人観光客からは有料化に好意的な意見が聞かれた。
21日に台湾から同市内を訪れていたリッキー・シーさん(48)は「冬の富士山が危険だということはあまり知らなかったが、リスクのある山に登るのであれば、救助の自己負担は当然だ」と有料化に賛同し、スペインから訪れたマリナ・ロペスさん(31)は「ヨーロッパでは山岳遭難の救助が有料のところもある。日本が無償なことには驚いた」と話していた。
富士山の救助有料化が検討されるのは、これが初めてではない。
県では、2016年に山岳遭難が多発したことから、翌17年に県警や山岳関係者らで構成される安全登山対策検討委員会を設置。この際に県防災ヘリによる救助の有料化も議論されたが、救助が無償である県警ヘリとの公平性が保たれないなどの理由から、「課題整理や先行県での実効性の見極めが必要である」として見送られた経緯がある。
県消防保安課の長坂寿彦課長は今回の有料化の議論について「無謀な登山を抑止する効果が期待できる」とする一方、「山岳救助のみを有料化した場合、水難救助との公平性も保たれなくなる。引き続き課題を洗い出し、検討していく」と話した。
遭難者が有償の救助を嫌がったり、救助が必要な遭難者らが要請控えをしたりすることを懸念する関係者もいる。
ある県警幹部は「県防災ヘリを有料化すると、遭難者が(無償の)県警ヘリの出動を要望することも想定されるのではないか」と懸念し、「そもそも警察活動は無償で行われるべきもので、県警ヘリの有料化は難しいだろうし、県警のみでは判断できない事案だ」としている。
富士山での遭難救助活動に協力してきた御坂山岳会の内山章会長(61)は効果に期待を寄せる一方、「救助の自己負担額によっては、本当に必要な遭難者らの要請控えが起き、症状の悪化につながる可能性があるのでは」と推察し、「明確で納得感のあるルール作りが必要だ」と注文した。