2013年12月、「餃子の王将」を全国展開する王将フードサービスの社長だった大東隆行さん(当時72歳)が射殺された事件で、殺人罪と銃刀法違反に問われた特定危険指定暴力団・工藤会系組幹部の田中幸雄被告(59)の初公判が26日、京都地裁(西川篤志裁判長)で開かれる。事件と被告とを直接結び付ける証拠は見つかっておらず、弁護側は起訴内容を全面的に否認して無罪を主張する方針で、争点は「犯人性」に絞られている。
被告は13年12月19日早朝、京都市山科区の王将本社前の駐車場で、大東さんの腹部や胸を拳銃で撃って失血死させたとされる。
捜査関係者によると、事件では現場周辺の通路からたばこの吸い殻が見つかり、検出されたDNA型が被告と一致した。
事件前日の現場周辺の防犯カメラには、被告と身体的特徴が似た人物が映っていた。現場から約2キロ離れたアパートの駐輪場では、逃走に使われたとみられるバイクも発見され、ハンドルからは銃器を使った際に残る硝煙反応が得られた。検察側はこうした状況証拠を積み上げて、起訴内容を立証したい考えだ。
弁護側は、事件の捜査で得られた状況証拠では、被告が犯人であるとは言えないと反論する方針。弁護人の一人は取材に「『この人以外あり得ない』という域にまで、たどり着かないと犯人にはできない。証拠の価値を一つ一つ確かめていく」とする。
大阪大法科大学院の水谷規男教授(刑事訴訟法)は「検察側に求められる立証のハードルは高い」とみる。その上で「(現在の)状況証拠だけでは現場にいたことは証明できても撃ったことまでは説明できないのではないか」と指摘する。
殺人事件は裁判員裁判の対象だが、京都地裁は24年9月に裁判員裁判から除外する決定をしており、公判は裁判官だけで審理される。
被告は有能な「ヒットマン」
発生から約12年。企業のトップが拳銃で射殺され、社会に衝撃を与えた事件の公判がようやく始まることになった。王将フードサービスの社長だった大東隆行さんは、なぜ狙われたのか。真相解明が期待されるが、事件は多くの謎を残したままだ。
大東さんは出勤直後、至近距離から銃撃されたとみられる。拳銃の扱いに慣れた人物が待ち伏せしていた可能性があり、大東さんを狙った計画的犯行だったとみられる。
このため事件直後から反社会的勢力の関与が取り沙汰された。王将は弁護士らによる第三者委員会に調査を依頼。2016年3月に公表された第三者委の報告書によると、王将側は福岡県が拠点の企業グループとの間で、経済的合理性がない貸し付けや不動産取引を行い、約200億円が流出していたことが判明した。
債権回収の陣頭指揮を執り、企業グループ側との関係を断ち切ろうとしていたのが大東さんだった。ただ、第三者委は「反社会的勢力との関係は認められない」と結論づけていた。
裁かれる工藤会系組幹部の田中幸雄被告は、工藤会でも有能な「ヒットマン」(検察関係者)として知られる存在。福岡市博多区で大手ゼネコンの九州支店の社員らが乗った乗用車を08年に銃撃したとして、実刑判決を受けていた。
工藤会は、王将と不適切取引をしていた企業グループと同じ福岡県を本拠地としている。これらが王将社長射殺事件の背景事情だったのではないかとして、当局が捜査していた時期もあった。田中被告の逮捕・起訴にはこぎつけたものの、田中被告は捜査段階で黙秘を貫き、組織的関与があったかどうかは解明できていないとみられる。
首相就任1か月、目立つ高市流「スピード」「独自性」…発言の率直さで危うさも
高市首相の就任から1か月余りが過ぎた。外交や経済政策などではスピード感や独自性を重視し、自らの言葉で明快にメッセージを伝える手法が目立つ。発言の率直さが裏目に出ることもあり、政府・与党内では「高市流」の危うさも今後の課題に挙がっている。(政治部 前田毅郎)
「60を超える国と国際機関が集う中で、多くの首脳と直接お会いできた。大変有意義な訪問となった」
首相は南アフリカで開かれた主要20か国・地域首脳会議(G20サミット)の全日程を終えた23日、宿泊先のホテルで記者団にそう強調した。
G20をはじめ、首相は就任直後に相次いだ国際会議も利用して各国首脳と次々面会するなど、関係構築に奔走した。政府関係者によると「参加した全首脳と握手することなどを事前に決めて、会議の場で実行に移している」という。
安倍晋三・元首相の路線継承を掲げ、特に来日したトランプ米大統領とは個人的な信頼関係を構築して、日米同盟の結束の強さを内外に示した。安全保障3文書の前倒し改定の方針を表明するなど、外交・安保面では安倍氏を意識した「官邸主導」の進め方が見受けられる。
首相は「責任ある積極財政」を掲げており、就任1か月の21日に閣議決定した総額21・3兆円の総合経済対策にも首相の意向がトップダウンで反映された。18歳以下の子どもに対する1人あたり2万円の支給など、当初案になかった政策を盛り込むよう直接の指示もあり、前年度の対策規模を大きく上回ることとなった。
閣僚の一人は「政策のキャッチフレーズなどがうまく発信できていて、国民の受け止めもいい」と語る。
ただ、台湾有事と「存立危機事態」に関する国会答弁は、歴代首相より具体論に踏み込みすぎたため、中国の反発を招いて関係が冷え込むきっかけとなった。与党からは「本音と建前を使い分けないと外交の舞台では立ち回れない」(自民党幹部)との苦言も出ている。経済政策では、金融市場を見据えた財政規律の維持が課題だ。
首相を支える自民党と日本維新の会の連立政権も、今後の動向は波乱含みとなっている。維新が強く求める衆院議員の定数削減については自民内でも慎重論が根強く、維新内には「自民が政策のスピード感についてきていない」(幹部)との不満がくすぶる。
衆参両院で少数与党となっている中、野党から理解を得ることも不可欠で、首相のリーダーシップが求められる場面もありそうだ。
公開状態のライブ映像、治療室や寝室も「のぞき見」可能なままに…認証設定「オフ」原因か
日本国内の屋内・敷地内を映した3000ものライブ映像が外部から「のぞき見」可能な状態になっていることが、読売新聞などの調査で新たに判明した。大半はカメラ側の認証設定の不備が原因とみられ、メーカー側は利用者に設定の確認を呼びかけている。(社会部ネット取材班)
「ネットワークカメラを見つけるのに、あるサイトを使っている」。日本国内のライブ映像を中心に公開している欧州系サイトの運営者は今月上旬、メールでの取材に応じ、映像の収集方法を明らかにした。
そのサイトは、海外のIT事業者が運営する検索サービス。世界中のIoT機器の情報を定期的に自動収集(クローリング)し、データベース化している。独立行政法人「情報処理推進機構」によると、IoT機器がサイバー攻撃を受けるリスクなどを調べる際に広く使われているが、欧州系サイトの運営者のように「問題のある使い方もできてしまう」という。
取材班は今回、無防備なカメラの実態を調査し、こうしたカメラを少しでも減らすため、このサービスを使い日本国内で公開状態のカメラ映像を調べた。情報セキュリティー会社「トレンドマイクロ」と共同で分析した結果、約4100件の映像がヒットし、うち7割超の約3000件が屋内・敷地内の映像だった。
屋内は約750件あり、子ども関連施設の一室、高齢者施設の広間、医療機関の治療室、住宅の居間や寝室など、本来は非公開とみられる映像が多数確認された。カメラのIPアドレス(インターネット上の住所)から割り出された大まかな設置地域や映像の背景情報などから、設置された建物が特定可能なものも少なくない。約50件あるマンションのエントランスの映像には、北海道内のマンション名も表示されていた。
トレンドマイクロの成田直翔シニアスペシャリストは、これらの映像が公開状態となっている要因について「多くはパスワードなどの認証設定が行われていない可能性が高い」とみる。
公開状態のカメラには、国内大手のパナソニック、キヤノンがそれぞれ約10年前まで生産・販売していた事業者向け機種が多く含まれていることも判明した。
パナソニックのネットワークカメラ事業を2019年に引き継いだ「i―PRO」(東京)によると、当時のカメラは初期設定の段階で、パスワード入力による認証手続きが「オフ」になっていた。同社の担当者は「IT機器に不慣れな人でもすぐに使えるよう、認証の初期設定を『オフ』にしていた」と説明する。
キヤノンの場合は、初期設定でカメラの閲覧権限を一般にも与える仕様になっていた。「観光地のライブカメラや河川カメラなど、公開して使うのが多かったため」(同社担当者)としている。
映像を無断公開する海外サイトが確認されたことや、カメラへの不正アクセスが相次いだことを受け、パナソニックは16年、キヤノンは18年、初期設定時に認証を「オン」にする仕様にそれぞれ変更した。変更前の機器の利用者には、ホームページで注意喚起を行ってきたという。
今回、読売新聞などの調査で公開状態のカメラが依然多いことが判明したのを受け、i―PROは「利用者に届いていない部分もある」として、改めてホームページで▽ログインするためのユーザー認証設定は「オン」で利用▽製品のファームウェアは定期的にアップデート――などの対応を呼びかけている。
だからクマもシカもトドも溢れかえった…日本で害獣問題が繰り返される本当の理由と解決の切り札
2025年の下半期になって「クマ問題」が顕在化している。過去にないペースで人里にクマが出現し、食害による農作物の被害が甚大なようだ。何より、人命が脅かされるような事件に発展することも度々起きている。今年度のクマ被害による死者は、11月3日時点で過去最多の12名にのぼったという。
「人災」も発生している。北海道積丹町では、自宅近くの箱罠にヒグマがかかったことで、猟友会と町議が口論に。その際に町議が暴言を吐いたとして、猟友会は「謝罪がない限り出動しない」と応答し、出動をボイコットする事態に発展した。わかりやすい悪役が登場したことで案の定ネット等では個人攻撃に移行し、町内の小中学校に「児童生徒を誘拐する」といった脅迫メールや爆破予告が届くという二次災害も起きた(なお、トラブルから約1カ月半が経った11月11日に町議が謝罪文書を差し入れ、猟友会の出動は再開している)。
冷静に考えてみると、いったい何がこれほど事態を混乱させているのだろうか。クマはたしかに危険だが、危険なことは皆知っていたはずである。COVID-19ほどには「不測の事態」というわけでもないだろう。クマが危険なことなど江戸や明治から知られていたはずで、知見の蓄積もあるはずだ。であるのに、現代社会はクマ問題に関して、クマがもつ脅威以上のエラーを起こしているようにもみえる。
今われわれが注目し、問題解決のために気を払うべき焦点は何であろうか。
まず、積丹町のケースから考えてみたい。「積丹町議会だより」には、渦中の町議が今年の3月に開催された予算審査特別委員会において発言した内容が掲載されている(注1)。クマ問題が顕在化する前に件の町議が公の場で発言していたわけで、注目に値する。
予算委員会という性質を加味して、町議は「コストカッター」の立場から発言しているように読めた。予算をかけた敬老事業に想定されていたほどの人が集まっていない、5カ年計画の「高齢者福祉施設改修工事」の残額の状況、といったテーマに質問を投げかけており、町の事業にムダ遣いがないかを気にかけている様子がくみ取れる。
そして、「積丹町の条例に定める鳥獣被害対策実施隊員」への出費に関しても言及している。興味深いのは、おととし令和5年にはクマに関する情報が53件寄せられ、これは非常に多かったとのこと。しかし去年には23件までに減っていたという。クマの出現は増え続けているわけではなく、波があるようなのだ。
町議はまた、近隣の自治体に尋ねたところ、積丹町ではシカ1頭当たりの捕獲に他の自治体の2倍相当の2万円がかかっていると訴えている。隊員がもらいすぎていると短絡的にみなすでもなく、なぜ自分たちの地域だけヨソの2倍もかかっているのか、と提起するのは至極真っ当な意見であるようには思われる。
注1:積丹町議会「積丹町 議会だより 第100号」
なお昨年のクマの出没が比較的少なかったこともあってか、本議会では主にシカによる食害が焦点になっていた。シカは人命を脅かすほどの事故にはならないこともあってニュースではあまり取り上げられていないが、数の増加と食害の蔓延については長らく農家をはじめとする人々を悩ませている。シカ対策の政策では「一斉捕獲事業」と「緊急捕獲事業」で報酬額が違うなど、シカ問題もそれほど単純ではなさそうだ。
以上、町議の声を敢えて代弁するなら、「獣害への対応は急務であり、にもかかわらず、他の自治体より高いコストをかけているようである」と言いたかったのだ。理解はできる。伝え方や時宜はおおいに誤っていただろうが、世に言われるほど無理筋の主張をしているわけでもなさそうだ。
次に考えたいのは、「積丹町の条例に定める鳥獣被害対策実施隊員」すなわち「猟友会」という存在について、である。クマ問題に際してとかく名前の挙がる猟友会とは、いったい何の組織であるのか。
猟友会は全国組織であり、かつ各都道府県に支部をもつ。おそらくは都道府県ごとの自治が認められており、ウェブサイトにおいても活動目的や理念には若干の差がある。
たとえば、京都府猟友会のウェブサイトの冒頭には、次のような記述がある(注2)。
以下は徳島県の猟友会のメッセージだ(注3)。
出発点は「個人の趣味として狩猟を行う」ことであり、ただ、銃規制の厳しい日本において猟銃を所有し用いるという点から、公益性への貢献やルール順守への目は厳しい。
参加会員の趣味としての狩猟を楽しみつつ、増えすぎた鳥獣の捕獲や、クマやシカをはじめとする獣害への対処など、社会と自然のあいだで公益に与することが組織のパーパスだといえるだろう。
注2:京都府猟友会「京都府猟友会」
注3:徳島県猟友会「猟友会とは」
クマ問題については、猟友会は特に義務をもたず、ボランティア活動が中心の団体である。有志団体であるのだから当たり前ともいえる。猟友会への参加はむろん個人の意思に基づいており、入会することによって得られる金銭的利益はない。むしろ、さまざまな講習や道具にお金を払う立場だ。
趣味でやっていることであるにもかかわらず、必要に応じて仕事に駆り出される。銃という強い武器を操ることのできる貴重な人々であるからだ。
地域でみれば、東北や北海道は特にクマ問題が日常のものになりつつある。秋田県の鈴木健太知事は、次のように述べつつ自衛隊の助力を乞うた。
今回秋田県が要請した支援は「武器の使用を伴わない罠の設置や捕獲・駆除したクマの輸送」などだそうで、「武器の使用を伴わない」が、強調されている。クマは武器が必要な程度には強い相手であるにもかかわらず、日本社会は武器の使用にかなりセンシティブなのである。
これに対し小泉進次郎防衛大臣は、概ね肯定的に要請を捉えつつも、次のように釘を刺す。
武器を用いることは、現代日本においてきわめて慎重に考えるべき問題である。警官は銃を所持するが、緊急時にしか使用することはできない。自衛隊もまた、自由に武器を用いることができようはずもない。
次のようなエピソードがあるくらいである。1959年の北海道・新冠町では、自衛隊がトドに機銃掃射を行ったという例がある。漁業の町である新冠町で、トドが網を食いちぎるなどの被害が深刻化するなか、地元の漁業組合が駆除に失敗したため自衛隊に駆除を依頼する事態となった。
むごくも射殺したわけではなく、耳の良いトドは銃声だけで逃げてしまったのだという。但し、当時の射撃の名目は「駆除でなく訓練だった」と地元の資料館には伝わるそうだ。これはあくまで訓練のために銃を撃っているのです、と「ルールの読み替え」をしていたわけである。
コンプライアンスに厳しく、すぐに批判が各所から漏れ出る現代ではちょっとできなさそうな対応である。
今年9月に「緊急銃猟」が改正法に明記され、住宅地でクマを撃つことが手続き上可能になったものの、人が密集する住宅地に来られてしまっては手の打ちようがないという間隙が存在したことを逆に示している。クマが人里に訪れるのは、危険がより身近になることだけが問題なのではない。対処する側が銃を使えなくなってしまうのだ(だから、法改正が行われた)。
クマ問題の焦点は、専任で対応できる人員が各自治体に整備されておらず、有志団体に外注するしか有効な対処法がないということにある。
少なくとも2025年までに、これほど全国的に「武器を以て獣害に対処する役割」の需要が高まったことはないのではないか。そういった部隊を公設で常置すればよいという意見も見受けられるものの、警察や自衛隊との役割分担や、公的機関にしてしまうがゆえのルールの制約や、コストの問題が浮上する。
警察や自衛隊は、職務として活動すべき局面が多く、ときに「だからこそ」自由な活動が制限されがちである。小泉防衛相の言う通り、自衛隊はなんでも屋ではない。そして、有事となれば自由に武器を使える人々でもない。むしろ、常に武器を所持できるからこそ、その使用には厳重な制限がかかっている。
だからこそ、自治体のクマ駆除係「ではない」猟友会のような組織が必要とされるのである。
先述の積丹町は今年度、年額で約720万円をエゾシカとヒグマへの対策事業に計上している。町議がムダな出費だと言う理屈はわかるものの、現実的に年額約720万円で十分な数の常勤の隊員を雇用できるわけがない。猟友会の協力を得ることは、自治体にとってもきわめてコスパが良いのだ。
降ってわいたように生じた役割のために、有志団体を含めた外部組織に「外注」するというのは、企業組織にとってごく普通の意思決定である。
そして「誰がやるべきかわからないけど、とりあえず喫緊の課題なので引き受ける」ということも、企業組織では日々当たり前に生じる。サラリーマン用語で言うところの「三遊間のゴロを拾う」というやつだ。
経営学では「バランス分化」という概念もある。分化とは組織の役割が分かれることを指し、バランス分化とは分業をしながらもフレキシブルに部署の垣根を超えて仕事をこなすような組織構造を意味する。日本企業は伝統的には、部署をはじめとして役割分担をしつつも、柔軟に行き来する調整者の存在によって仕事を最適化してきた。
経営上のホットトピックとして似た話題に、「人的資本経営」がある。コーポレートガバナンスコードの定めで、上場企業による情報開示が義務化された人的資本経営。いま企業において悩ましいのは、「その情報開示は誰がやるのか?」という問題である。
組織に情報を収集し、整理し、管理する機能は必ずしも備わっていない。少なくとも、開示が可能な程度に把握している企業ばかりではない。人事部が最もそれに近い仕事をしてきたものの、昨今の風潮からすれば採用にかなりの労力を割いており、入社した人々の情報やマネジメントは相対的に軽視されてきた。義務化してから、そういった機能がないことに気付いて、慌てている企業もどうやら少なくない。
クマ問題の要諦は、人里に出現するクマがこのように急増している原因が定かでないことや、農作物の被害や人命の危機があるだけではない。
組織論の観点からすれば、「誰がすべき問題か」決まっていないことが問題なのだ。クマ退治の専門家を各自治体が雇用しているわけでもないし、することが賢明であるともいえない。クマ問題は、人命の危機を伴うような危険性をはらむにもかかわらず、誰がどう処理すべきか定かでない空隙に生じた問題なのだ。
とはいえ、法整備や、自衛隊や猟友会など既存の組織を活用して、社会として何とかしようという強い姿勢がみられることに疑いはない。今後の対策に向けて重要なことが二つある。
まずは、変革が必要なことについてトップが毅然と指針を示すことである。これは現状、クマ問題についてはできているように思える。
そして、組織間連携によってでしか対応できない問題であることを、ステークホルダーが認識することである。町議の最大の落ち度は、議会ではコストカットを主眼に置いていたとしても、その論理は猟友会には通じないことを認識すべきだったことにある。
連携相手である取引先に「あなた達は高すぎる」と言ったところで、別にそれで生計を立てているわけでもない相手が、意見を呑むとは思えない。報酬が適正なのか、町の予算として持続可能かを考えることにはむろん意味があるが、今「三遊間に飛んだゴロ」を処理してくれるのは猟友会の他にないわけだ。「今、伝えるべきこと」ではなかっただろう。
持ちつ持たれつ、お互い様、お世話になっている同士なのだから、リスペクトをもって接したらいい。既存の組織だけでは処理しきれない仕事が生じている場合は、そうやって連携して乗り切るほかには、有効な手段はないのである。ましてや、営利の論理が成立しづらい領域ならなおさらだ。
誰がやるのかわからないが必要なことはたしかである、という「三遊間のゴロ」は、コロナ禍の頃にたくさん飛んできていたように思う。部分的には対処に失敗したし、うまくいったこともあったはずだ。少し前の教訓を思い出しながら、クマ問題には「総力戦」で取り組まなければならないだろう。
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(経営学者、東京大学大学院経済学研究科講師 舟津 昌平)
整備士不足でドクターヘリ運航危機…救急車などの代替99件「救える命が救えなくなる」
関西広域連合のドクターヘリの運航が整備士不足で一部休止され、救急車やドクターカーなどで代替したケースが7~10月に計99件に上ったことが、広域連合への取材でわかった。現在は8機を運航しているが、来年度に確保のメドがついているのは3機にとどまる。広域連合は国などと対策チームを発足させ、連携して委託先を探している。(藤岡一樹)
近畿2府4県と鳥取、徳島両県を管轄する関西広域連合は2011年からドクターヘリ事業を始めた。通常は都道府県ごとのヘリを共同で運航。複数のヘリが補完し合う「相互応援体制」を構築し、経費の削減につなげる狙いもある。
現在は、広域連合側が、航空専門学校などの事業を展開する学校法人「ヒラタ学園」(堺市)に運航を委託。ヒラタ学園所有の8機が広域連合管内の8病院にそれぞれ拠点を置き、定められた区域をカバーしている。24年度の出動件数は4412件。
ところが8機は今年7~8月に順次、最大1週間運航を休止した。9月に通常体制に戻ったが、10~11月も4~6日間ずつ運航を取りやめた。ヒラタ学園は、整備士の休職や退職が相次いだためとしている。12月も各機が6日ずつ休止するという。
国の研究班が定める運航基準では、ドクターヘリには操縦士の補佐役として整備士が同乗する必要がある。
広域連合によると、休止中のヘリの管轄区域で出動すべき事案が発生し、救急車や、医師を乗せたドクターカー、防災ヘリで代替したのは7~10月、計99件あった。
鳥取県では7月、心臓疾患の90歳代女性を搬送するのにヘリが使えず、ドクターカーが使われた。ヘリの場合は通常、30分以内に搬送しているが、このケースでは90分かかったという。
広域連合は、いずれのケースでも患者の命に別条はなかったとしているが、ヘリの拠点になっている鳥取大医学部付属病院(鳥取県米子市)の上田敬博・高度救命救急センター長は取材に対し、「運良く最悪の事態が起きていないだけで、このままでは救える命が救えなくなる」と危機感をあらわにする。
広域連合の8機のうち和歌山と奈良が拠点の2機を除く6機は、今年度末で契約期限を迎える。広域連合が9~10月、このうち4機について先行して運航会社を公募したところ、応募があったのは1社1機だけだった。ヒラタ学園は応募していない。
広域連合は10月末に各府県や病院、厚生労働省などの担当者で対策チームを設立。ドクターヘリの運航会社を個別訪問したり、各社が集う会合に出向いたりして協力を依頼している。
三日月大造・連合長(滋賀県知事)は今月20日の記者会見で、「参画の可能性のある事業者に働きかけをし、かなわなければ、どういう対策を取るのかも検討したい」と述べた。
厚労省地域医療計画課は「救急医療体制を維持できるよう支援を続ける」としている。
しかし、委託先を見つけるのは簡単ではない。ある運航会社は取材に「整備士や操縦士の余剰人員を確保しているわけではなく、急に来年度からお願いしたいと言われても対応できない」と話した。
ヒラタ学園は03年にドクターヘリ事業を開始。全国10か所の拠点で委託を受けて運航している。東京都と長崎県の運航も受託しており、今年8~11月で東京都では1機が計18日間、長崎県では1機が計19日間運休した。
ヒラタ学園は「患者や関係者に迷惑をかけ申し訳ない。整備士の採用面接は進めており、運航体制の維持に尽力したい」としている。
国土交通省によると、整備士の主要な養成機関である航空専門学校の入学者数は、航空需要が減ったコロナ禍以降、半減しており、整備士不足は全国的な課題になっている。
日本航空医療学会の猪口貞樹理事長の話「患者を速やかに搬送できなければ、後遺症のリスクも高まるため運航体制の早急な改善が望まれる。企業の経営状態や人手不足に左右されないよう、国はドクターヘリ事業の公営化や整備士育成に向けた学費助成の強化などに取り組むことが望ましい」
◆ドクターヘリ=災害や事故の発生時に医師や看護師を乗せて救急出動するヘリコプター。医療機器や医薬品を備え、搬送中も機内で初期治療ができる。1995年の阪神大震災で整備の機運が高まり、国が主導して2001年に本格運用が始まった。厚生労働省などによると、全国に57機あり、23年度の出動件数は約2万9000件。
大分火災発生1週間、鎮火の見通し立たず…山林や島部になお熱源
大分市佐賀関(さがのせき)の大規模火災は、25日で発生から1週間となる。火災は18日夕、焼損エリアの北西部で発生し、西方向から吹く強風で南東側に燃え広がった可能性がある。佐賀関半島の被災した住宅地から約1・4キロ南東の無人島・蔦島(つたしま)にも延焼。24日午後7時時点で、火が完全に消し止められる「鎮火」の見通しは住宅地を含めて立っていない。
住宅地と一部山林の焼損面積は約4万8900平方メートルに上り、焼損棟数は約170棟、被災世帯は約130世帯。これまでに、住民の稲垣清さん(76)の死亡が確認され、50歳代女性が気道のやけどの疑いで病院に搬送された。
大分市消防局は20日、被災住宅がある半島側について、更なる延焼の恐れがない「鎮圧状態」を発表。大分県警が実況見分を行い、火元や出火原因を調べている。
24日早朝の大分大などの調査では、半島内の山林で約50度の熱源が1か所確認され、消防が放水を行った。また、蔦島では西側の2か所で約50度と約70度の熱源がそれぞれ確認された。ヘリコプターによる上空からの放水しかできず、鎮圧状態には至っていない。
埼玉・八潮の道路陥没で発生の硫化水素、専門家「直接的な健康被害ない」…住民から心配の声相次ぐ
埼玉県八潮市の県道陥没事故を巡り、下水道管内で発生しているとされる硫化水素について専門家が解説する講演会が23日、同市内で開かれた。近隣住民ら89人が参加し、人体への影響を心配する声が相次いだ。専門家からは「直接的な健康被害はない」との見解が示された。
県は事故後、現場周辺での大気測定を続けている。硫化水素のセンサーが反応することがあっても低濃度(10ppm未満)で、1日を通しては計測されない日が多いとしている。だが、近隣住民からは「臭気などに悩まされている」との声が出ている。住民の不安を和らげようと、県がこの日の講演会を企画した。
解説したのは、埼玉医科大病院の上條吉人・臨床中毒センター長。代謝の過程で人体の内部でも硫化水素は発生しており、人体には解毒機能があると説明した。温泉地での濃度を示し、低濃度の硫化水素で健康被害が起きた報告はないとした。その上で、現場周辺での低濃度では「直接的な健康被害はない。多少の硫化水素が体に入っても、きちんと解毒される」と解説した。
「事故後に頭痛が起こることが増えている」という参加者に対して、上條センター長は、臭気による不快感やストレスで、自律神経が乱れている可能性があると説明した。
破損した下水道管に別の管を敷設する工事は、年内に終わる見通しとなっている。大野知事は21日の定例記者会見で、「完了すると、硫化水素や臭気が一定程度、収まるのではないかと考えている」と語った。
松本人志さん巡るフライデーの記事で名誉毀損認定 後輩芸人が勝訴
お笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志さんに女性を紹介したなどとする週刊誌「フライデー」の記事で名誉を毀損(きそん)されたとして、吉本興業に所属するお笑い芸人の渡辺センスさんが、発行元の講談社と編集責任者に1100万円の損害賠償などを求めた訴訟の判決で、東京地裁は25日、名誉毀損の成立を認めて、講談社側に220万円の賠償を命じた。
訴状によると、フライデーは2024年1~4月、週刊誌やウェブサイトで、渡辺さんから誘われ、松本さんとの酒席に参加したとする女性の証言を報じた。女性は記事の中で「松本さんとの性的行為に応じられる友人を呼んでほしいと、渡辺さんから言われていた」という趣旨の話をしていた。
渡辺さん側は記事が虚偽・捏造(ねつぞう)で、社会的な評価が低下させられたと主張。記事によってテレビ番組出演の機会が一気に奪われて芸能活動に致命的な影響が出たと主張していた。
これに対して、講談社側は女性への取材に基づいたものだと反論。記事には公益性や公共性もあり、真実だと信じる相当の理由があったとしていた。【安元久美子】
いじめ重大事態、同じ小学校で1年に2件 進級後も同じクラスに
いじめ問題に横たわる、被害者と学校側のすれ違い。被害者が求める調査は、いつ始まるのか――。
いじめにより重大な被害が生じたり、不登校を余儀なくされたりした疑いがある「重大事態」が、京都市の同じ市立小学校で2025年に2件認定された。
京都市教育委員会は1件目について、弁護士らを交えた第三者委員会による初の調査にも乗り出しているが、被害児童の保護者は「何度もうそをつかれてきた」と不信感を隠さない。第三者委のメンバー選考を巡っても保護者側の要望は届かず、2件目についての第三者委の今後は未定だ。
車道に押される、頸椎捻挫などの暴力
1件目は21年から24年にかけて起きた。男児が、複数の同級生から車道に押される、殴るなどの暴力を受けた。
4年生の頃には、同級生から羽交い締めにされ、耳付近を殴られた。外傷性の感音難聴と医師に診断され、適応障害も発症した。現在も後遺症に苦しむ。
2件目は24年から今年にかけ、1件目の被害男児と同級生の男児が、別の同級生から突然殴られるなどの被害を受け、頸椎(けいつい)捻挫や適応障害などに苦しんだ。保護者は加害者と別のクラスにするよう強く要望したが、進級しても同じクラスのままだった。
1件目の保護者は、学校側との約束が守られず、男児に我慢を強いる態度などもあったとして、学校の対応に疑問を抱き続ける。
2件目の保護者は、要望通りにクラス替えがなされなかったことについて、学校から「教員を増やして改善したため」と説明を受けたが納得できていないという。1件目の後に保護者説明会が開かれなかったことも問題視し「その時点できちんと学校が対応していれば防げた」と憤る。「同級生から暴力を受け、学校にはうそをつかれる『二重の苦しみ』だ」と訴える。
いずれの男児も転校を余儀なくされた。保護者側は、いじめ防止対策推進法に規定される重大事態にあたると申し立てし、1件目は3月、2件目は8月に認められた。
市教委は1件目について、第三者委による調査を決定。市教委ではこれまで重大事態となっても第三者委による調査はしておらず、今回は事実認定の難しさや保護者からの要望も受け、初めて実施を決めた。文部科学省が定めるガイドラインに基づき、弁護士会など職能団体からの推薦者で構成する常設の「市いじめ問題調査委員会」の委員5人による調査を行うこととした。
第三者委委員に校長の知人
しかし委員の中に、校長とともに本を出した人物の知人や、市の業務を受けるスクールカウンセラーが含まれていることが判明。保護者は「校長や市教委らに有利な判断を行う恐れがある」として、公平性や中立性が損なわれないかと懸念する。
保護者は被害者側からの推薦者も委員に含めるよう求めたものの、文科省ガイドラインでは被害者側から特定個人の推薦はできないと規定しているため、市教委は委員入れ替えはしない方針を説明した。
委員選考を巡っては市議会でも質問が出たが、市教委は「直接の関係がなく、第三者性を損なうものではない。ガイドラインに沿っているため問題はないと認識している」と答弁した。市教委は、職能団体からの推薦者1人を新たに追加することを提案しているが、保護者の了承は得られていない。
それぞれの保護者は第三者委の透明性や中立性を求め9月と11月、市議会に陳情書を提出した。保護者側は「(市教委は)『被害者に寄り添う』とは説明するが、口ばかり。こちらの要望はこれまで何一つ受け入れられていない」といい、第三者委メンバーの選考を巡っても平行線をたどっている。【日高沙妃】
事実に反する中国の主張受け入れられず、しっかり反論していく=官房長官
Ami Miyazaki
[東京 25日 ロイター] – 木原稔官房長官は25日午前の会見で、中国の国連大使が国連事務総長宛ての書簡を送るなど最近の一連の中国側の動きについて「事実に反する中国側の主張は受け入れられず、日本政府としてしっかりと反論、発信していく必要がある」と述べた。
官房長官によると、在日中国大使館のSNS上の発信に対し外務省から事実関係についてしかるべく発信を行い、グテレス国連事務総長への書簡については、山崎和之国連大使から事務総長に対し日本側の立場を説明する書簡を発出したという。
トランプ米大統領と中国の習近平国家主席が24日に電話会談を行い、習主席が台湾の中国への復帰が戦後の国際秩序の重要な要素だと中国の原則的な立場を強調したことについて、官房長官は「中国側の発表について逐一コメントすることは控える」とした上で、「日本としては、引き続き同盟国たる米国との強固な信頼関係のもと、中国に対してその立場にふさわしい責任を果たしていくように働きかけをしていく」と語った。
中国の傅聡国連大使は21日、グテレス国連事務総長に書簡を送り、高市早苗首相の台湾有事を巡る発言に関して、日本が台湾問題への「武力介入」を脅していると主張し、自国を守ると表明した。在日中国大使館は21日、国連憲章の「旧敵国条項」に触れ、中国が国連の許可を要することなく軍事行動をとる権利を有する、などとする発信を行った。