「人間、クズはクズのまま変われないと思う」少年院出所直後に21歳女性を包丁で殺害…被害者遺族からの“悲痛な本音”を知った加害者一族の“まさかの対応”とは

2023年12月1日、刑務所や少年院を通じて犯罪被害者、遺族の思いを担当刑務官、加害者に伝えられる「心情等伝達制度」が始まった。希望すれば加害者からの返答を書面で受け取ることもできる同制度。実際に利用した犯罪被害者の切実な声とは――。
ここでは、犯罪被害当事者、被害者遺族を長年にわたって取材する藤井誠二氏による『 「殺された側」から「殺した側」へ、こころを伝えるということ 』(光文社新書)の一部を抜粋。21歳の娘を少年院出所直後の15歳少年に殺された遺族の体験を紹介する。(全4回の1回目/ 続きを読む )
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少年院を出たばかりの15歳の少年に
2024年8月、福岡市内のある法律事務所。会議室のテーブルを挟んで、筆者の目の前に固まったように座る、小柄な女性。マスクをしているが、視線は前方の一点を凝視したままだ。
山本直子(仮名)、年齢は50代。彼女は4年前、当時21歳の娘を、少年院を出たばかりの当時15歳の少年に殺された。加害者は、福岡市内のショッピングモール内でたまたま出くわした被害者に、包丁を持って襲いかかり、首などに突き立てた。殺人罪などで懲役10年以上15年以下の不定期刑が確定し、服役中である。私見だが、あまりにも短い刑期だ。
テーブルの上に置かれた数枚の用紙。見出しに「心情等伝達結果通知書」とある。日付は令和6(2024)年7月19日。書類に目を通すと愕然とした。「いったいなんだ、これは。加害者は何を言っているんだ……」と、私は心の中でつぶやいた。
山本は心情等伝達制度を利用して、加害者である元少年の返答を受け取ったのだった。彼女は録取の際に、加害者への激しい怒りを刑務官に託していた。
「娘の写真をたくさん持っていったので、その写真を見せながら、うちの娘がどういう子だったのかとか、そういう話から始めました。そのあとに加害者の少年が憎いという話をしていったんですが、具体的にどういう話をしたのか、覚えていません。娘には夢がいっぱいあったんだとか、そういうことをいろいろと話して、それをすべて壊したことについて、加害者はどう考えているのか、裁判後の心境の変化はあるのか等を聞いた(刑務官に加害者への心や質問を伝えた)と記憶しています」
被害者担当刑務官にはのべ数時間、話し続けた。加害者は遠方の刑務所に収監されているので、被害者担当刑務官以外にも数人がプリンターまで持って訪れてきて、山本の言葉を丁寧に聴き取り、何度も入力と出力を繰り返した。
場所は山本の希望もあり、例外的に弁護士事務所の一室を提供するかたちとなった。出来上がった「心情等伝達書」には多くの山本のこころが盛り込まれた。山本が加害者にぶつけたい、ありったけの言葉が並んだ。聴取には山本の代理人弁護士が立ち会った。
「クズはクズのまま」
以下、まずは山本が刑務官に述べ、「心情等録取書」に記された言葉を記していきたい。
〈 やるせない、許せない気持ち。いったいどうしてくれるのか。憎い。夢や希望を奪われた。悔しい。娘の夢は「やりたいノート」(筆者註:渡米したいという夢や手に入れたい品物が記されたノート)に記し、その一つは私のような会社員になることだった。早い時期に働き始めて、夢のために転職してそれを叶える準備を進めていたところでの事件だった。私は、これからも喧嘩はしただろうけど、会話をしながら娘と生きていきたかった。娘の祖母は「孫(申出人の娘)の顔が見たい」と言っていた。

加害者からの謝罪はパフォーマンスにしか見えず、信用できない。謝罪をされても、許さないし、憎しみが倍加するが、それでも加害者は本心から謝罪すべきではないか〉
ここで遺族は「謝罪」という言葉を使っているが、それは刑事裁判の中で弁護人から「被害者の家族に謝罪の言葉は?」と問われると、「自分が生活を壊してしまったと思います」と加害者は答えたものの、「ごめんなさい、の言葉はある?」と重ねて聞かれると、「とくにないです」と答えるだけで、謝罪の言葉を口にしなかったことを指している。
〈 どうして娘はこんな事件に巻き込まれなければならなかったのか。事件当日に娘が出掛けることを引き止められなかったのかと後悔している。加害者は常軌を逸していると思う。(公判に参加して)胸がえぐられる思いがあった。あんなことをして、しかも謝罪もせずに、よく生きてられますよね。加害者が生きていることが悔しいし、歯がゆい。加害者は一生苦しんで辛い思いをすればいい。幸せになる権利はない。加害者もその家族も呪ってやりたい気持ち。(公判での)「クズはクズのまま」という供述を聞いて、「ふざけているな」と思った〉
「クズはクズのまま」という加害者の発言は、公判中に山本の代理人弁護士から「あなたがこの事件と向き合っているとは思えない」と説諭され、自身の更生について問われたときに出たものである。「人間、クズはクズのまま変われないと思う」「(更生は)できないと思う」と発言したのである。加害少年は刑事弁護人との意思の疎通ができていなかった、いや、加害者にそのつもりがなかったことが私には想像できた。
「心情等録取書」に記された、遺族である山本の言葉は続く。
〈 加害者に「私の気持ちが届かないのでは」と不安。一生、十字架を背負って生きてほしい。加害者は、今のままでは世の中に戻ってきてはいけない人だと思う。娘を加害者のような人間に性の対象として見られたのかと思うと気持ちが悪い。加害者も親との関係も通常ではないと思う。親が親なら子も子だと感じた。加害者には死んでもらいたいくらいの憎しみを抱いている。(加害者が)生きていることが税金の無駄遣いだと思うくらい怒っている。世の中にいらない命があるとすれば、それは加害者とその母親の命だと思うくらいの怒りを抱いている〉
山本は加害者の母親に対して、親の監督義務を問う損害賠償請求訴訟を起こしていた。少年の母親は、「息子を監督する義務に違反していない」と、自らに責任はないと主張し、争う姿勢を見せている。
〈 【判決は…】「娘に抵抗されたとき、どのように思ったか」「娘はどんな表情をしていて、どのような気持ちだったと思うか」「必ず答えてほしい」…少年院出所直後に殺人を犯した少年(15)が被害者遺族の思いに返した“驚愕の言葉”とは 〉へ続く
(藤井 誠二/Webオリジナル(外部転載))

きょうは次第に雪おさまる ただ寒気の影響で全国的に師走並みの寒さに 東京など広く今シーズン一番の冷え込み

強い寒気の影響で、きのうから北日本を中心に大雪となっているところがあります。青森の酸ケ湯では、午前5時現在の積雪が114センチとなっています。また、きのうの夜には長野、きょうの未明には福島から初雪の便りが届きました。
雪のピークは過ぎつつありますが、このあとお昼にかけて、しばらくは北陸や東北の山沿いを中心に雪が残りそうです。午後になると次第に雪はやみ、山陰など日本海側にかかっていた雨雲も抜けていく見込み。天気は回復に向かうでしょう。
一方、太平洋側は朝から晴れて、日中は日差しがたっぷり降り注ぐところが多くなりそうです。そのため、朝から晴れて放射冷却が効く太平洋側を中心に、冷え込みが強まり、今シーズン一番の寒さとなっている所が多くなっています。また、雪が降った地域では、路面の凍結に注意が必要です。
平地に雪を降らせる目安の寒気は、きょう次第に抜けていきますが、山に雪を降らせる目安の寒気は日本列島に居座り続けます。関東地方など、一日を通してすっぽりと寒気に覆われますので、日中もあまり気温が上がりません。
【きょうの各地の予想最高気温】 札幌 :4℃ 釧路 :5℃ 青森 :5℃ 盛岡 :6℃ 仙台 :10℃ 新潟 :10℃ 長野 :9℃ 金沢 :11℃ 名古屋:14℃ 東京 :14℃ 大阪 :13℃ 岡山 :13℃ 広島 :14℃ 松江 :12℃ 高知 :15℃ 福岡 :14℃ 鹿児島:14℃ 那覇 :22℃
全国的に12月並みの寒さのところが多いでしょう。暖かくしてお過ごしください。
季節先取りの寒さは一旦あすまで。あすは次第に寒気が抜けていくため、あす以降は平年並みか平年より気温の高いところが多くなるでしょう。また、北日本の日本海側や北陸などでは雪や雨の降る日がありますが、それ以外は来週にかけて晴れ間の出る日が続きそうです。空気の乾燥も進みますので、火の取り扱いなどにお気をつけください。

〈コメ最高値〉「農協の吊り上げは異常だった」米業者が明かす価格暴騰と失速の真相「政府も進次郎前大臣も問題だった」

農林水産省が11月14日に発表した全国のスーパーで販売されたコメの5キロあたりの平均価格は4316円。今年5月につけた4285円の最高値を半年ぶりに更新し、過去最高値となった。例年ならこの時期、消費者が手に取るはずの新米はそれより優に1000円以上高い。ブランド米の新米ともなれば、5キロで6000円台も珍しくない。他の食品価格も軒並み高騰する中で、一般消費者がスーパーで選ぶのは古米だろう。「令和の米騒動」から「令和の百姓一揆」、備蓄米放出を経てなお先行きの見えないコメ問題について、集荷業者に意見を聞いた。
(画像)「できるかな?」鈴木大臣の地元の山形県で“けん玉10個”チャレンジする6年前の進次郎前「コメ」大臣
「農協さんがこんなに何度も吊り上げるなんて初めてでした」
証言してくれたのは、千葉県山武郡横芝光町の株式会社向後米穀の向後雅秀代表。同社は地元の農家からコメを仕入れてスーパーや量販店などに新米を卸しており、コメの動向分析には最適のウォッチャーだ。まず、最近のコメ価格の動きについて聞いた。
「価格が下がる方向ではありますが、急に大幅には下がらないでしょう。下がるにしても5キロで100円200円程度かなと思っています。ここにきて新米がだぶついてきた感はあるのですが、8月や9月にはまだどこの小売も『あるだけほしい』という状況が続いていて、価格も上向きだと考えられていました。
新米が出ると、1発目の出荷の勢いがそのまま続くか、もしくは一服して落ちつく場合に分かれますが、今年は後者ですね。また、令和のコメ騒動という異常事態だった時よりは新米の動きが鈍いのはありますね。私のところはおかげさまで毎年、精米量が増えているので、新しい農家さんと折衝して集荷量を増やしていますが、昨年は新米の収穫前に在庫がなくなりましたからね」
今年の集荷状況はどう推移したのか。
「田植えの時期から農家さんのところに色々な買いが入ってきていたので『これはまずいぞ』と思っていました。実際、8月の集荷の時期はだいぶ苦戦しましたよ。農協さんが60キロあたりの買い取り金額を決めてから、うちらはそれに負けないよう300円とか500円とか高く買うという世界なんです。
今年最初、農協さんは29800円でスタートして、ウチらは30000円~30300円で仕入れていました。それから農協さんが2000円上げてきて、ウチらも同額追随し、さらに農協さんが価格をあげて、最終的に個人の農家から仕入れるのは34000円くらいまで吊り上がりましたね。農協さんがこんなに何度も吊り上げるなんて初めてでした」
「小泉前農水大臣も問題だったとは思いますよ」
例年、農協と“仁義なき戦い”を繰り広げてきた業者にとっても、最近までの過熱感は異常だった。
「ウチらが回っている農家さんも『これまで聞いたこともないような業者さんが売ってくれと頭を下げに来た』と言っていました。農協さんとは毎年バチバチの勝負をしてますが、今年はライバルが増えたような過熱感がありましたね。
それから値崩れが起こるんじゃないかという空気が漂いだしたのは、ここ1か月くらいのことです。ただ、仕入れ価格もありますから今のところウチは価格を崩すつもりはありません。次の仕入れ価格が下がっていれば、当然売値も落ちますけどね。農家さんは『こんな年はもうねえだろ』って鼻息荒かったですね。ベースは向後米穀ですが、ウチも関連で農業生産法人を持っていてコメの生産が1200俵くらいあるんで、高ければそっちはありがたいんですけどね」
それが一転、コメ余りにシフトしていった。スーパーなど小売店の状況はどう変わったのか。
「コメが『動かねえなあ。こりゃおかしいな』って思ったのは10月半ばから後半くらいです。量販店やスーパーから注文が来なくなったんですよ。備蓄米もあるし、外米(外国産米)も入ってくる。そもそもふたつ選択肢があるからそのぶん新米は動かなくなりますよね。
この状況が続けば、例えばですが『ウチも3%泣くから量販さんも3%泣いて特売しようよ』みたいな話になっていくんだと思いますよ。まだこの流れにはなっていませんが、来年の1月、2月ごろにはそうなっている可能性はありますね。
業者間でもコメが思ったよりさばけずに、『このままじゃコメが余る』と危機感を訴えるような話も多いです。今回のコメの高騰で損失を一番被るのはウチらみたいな集荷業者兼卸しをやっているところですから。定期的に一定数はけてくれるといいんですけど例年より遅い感じがしますから不安はありますよね。
たしかにコメの価格が倍になると家計に響くだろうし、令和の米騒動からの高騰は、世間一般の感覚の値上がり想定ラインをはるかに超えちゃってますから、やっぱり手出しづらいのもわからなくないです」
はたして「令和の米騒動」による米価の高騰は向後米穀や業界にとって吉と出たのか。
「今年もけっこう利益が出せて設備も色々新しくできるのかなって、そんなスタンスではいたんですけどね。ただ10月の半ばからコメが動かず少し変わってきました。コメ騒動での利益に関して言えば、ウチも新規で値段は上げさせてもらって利益は出ていました。米穀業界はみんな過去最高益プラス最高売り上げに達していると思いますね。
これがね、5年後にこのレベルならいいんですよ。ただ1年で一気にいってバブルになってしまったので、かえって今は読めない状況になっていますね。これはどこが悪いというわけではないと思いますが、出し惜しみした政府も問題だったでしょうし、逆にコントロールせずに一気に出した小泉前農水大臣も問題だったとは思いますよ。
今の鈴木大臣に関しては農水官僚出身なので冷静に状況を見ているなと感じています。ここで少し価格を抑える形にはなるかもしれませんが、5年後の農家さんのことを考えればそちらの方がいいと思いますね」
「まだ上がる」「関東の農協での過熱は異常でした」
短期的な収益にはつながっても、計画を狂わすような急激な変化をもたらす「騒動」は、長期的にはマイナスのようだ。
「収益は出るけどコメ騒動のようなことは望みません。計画も立てられないし。コメ騒動を受けた今年の新米で、特に関東の農協での過熱は異常でしたよ。まだ上がる、まだ上がるってこのまま(概算金)6万円とか行くんじゃねえかってそんな空気でしたから。過熱すると読めなくなるので逆に難しいですよね。最終的には外米と、今より安くなる古米のどっちにするかって状況になると思いますよ。
スーパーとか量販店さんにもよりますけど、備蓄米を大量に買ったところは新米が動かなくても売り上げは確保できると思いますよ。きついのは個人の米屋さんだと思います。備蓄米には最低購入量があったから個人の米屋さんだと買えなかったでしょう。そういった米屋さんは高いコメを買わないとやっていけなかったわけですから、値下げして乗り切るレベルじゃなくて廃業という話になっているところも多いと思います。
農家さんも今年に関しては良かったとしても、来年この状況になることはほぼありえないので、先行きをどう見るか難しいでしょうね。今までコメが安すぎたのは事実ですが、騒動という形で一気に高騰するのではなく徐々に上がっていってほしかったですね」
生産者、集荷業者、小売店、消費者。全てが小さな幸せを実感できるような政策を実行できない限り、高市政権誕生で延命した自民党政権の行く末は暗い。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

8年もめた「静岡リニア問題」解決の絶好のチャンスが到来…JR東海が「ボタンの掛け違い」を解消する唯一の方法

JR東海は11月21日から来年1月31日にかけて、静岡県島田市を皮切りに、大井川流域の8市2町でリニア中央新幹線のトンネル工事に関する住民説明会を開催する。
大井川の水を守るための取り組みについて、JR東海の担当者がパネルや映像で紹介しながら、住民らの個々の疑問に答える形式で開かれる。ことし3、4月に開催した初の説明会に続いて2度目となる。
説明会は、県とJRの間に残された「対話を要する事項」28項目のうち、水資源に関連する6項目すべてが6月までに了解されたことに伴うものだ。かたちの上では大井川の水資源問題がすべて解決してから初めて開催されることになる。
静岡県は川勝平太前知事の時代から、工事中、工事後に流出する湧水の「全量戻し」を求めてきた。
これに対して、JR東海は毎秒2トンの県外流出については導水路を設置、ポンプアップすることで「全量戻し」を表明した。
県境付近の工事中の県外流出についても、川勝知事は水一滴の県外流出も許可しないと強い姿勢で臨んでいた。
県境付近の工事では、山梨県側から始まる掘削が静岡県側の先進坑とつながる約10カ月間に最大500万トンの湧水が山梨県側へ流出するとJR東海は試算しており、JRはこの対応策を示すよう県から求められていた。
2022年になって、JR東海は東京電力リニューアブルパワーの協力を得て、山梨県側への流出量と同量を大井川の東電・田代ダムで取水抑制を行ってもらい、大井川の流量を確保すると表明した。
県専門部会は、田代ダムで取水抑制できない状態が続いた場合の対応、渇水期を避けた施工の対応などを求め、ようやく田代ダム取水抑制案についてJR東海の説明を了承したのだ。
これで、静岡県が求めていた「全量戻し」すべてが解決したことになり、南アルプストンネル静岡工区着工への道筋がはっきりと見えた。
しかし、根本的な問題が解決されないまま残っている。
それは、地域住民への誠意ある説明だ。
JR東海は「静岡工区工事の着手ができていない」ことを理由に、品川―名古屋間の2027年開業を断念、開業は「2027年以降」と発表していた。
10月29日、リニア中央新幹線の品川―名古屋間の総工費が当初の5.5兆円の2倍となる11兆円に膨れ上がる見通しを発表した際、工事費4兆円の負担増に対する新たな借り入れ約2.4兆円の数字を算出するために、「2035年」という開業時期を示した。
しかし、この「2035年」は単なる仮置きだと強調した。
実際には、未着工の南アルプストンネル静岡工区の工事は10年以上かかるとしているから、開業は「2035年以降」になることは間違いない。それで仮置きとしたのだろうが、そこに至る事実関係をちゃんと説明していない。
と言うのは、今回の工事費4兆円増の報道で新聞、テレビ等は「静岡県の反対がJR東海に2027年開業を断念させた」との主張を繰り返した。
筆者は反リニアに徹するようになった川勝前知事の「妨害行為」を批判してきたが、そもそもの火種をつくったJR東海にも責任があると言わざるを得ない。
静岡工区の着手ができていないのだから、リニア開業が遅れているのは事実だが、そもそも当初から川勝前知事が静岡工区の着工に反対したわけではない。それなのに、「静岡県の反対がリニア開業を遅らせた」ことが事実のように伝えられることで、流域の住民らの強い反発につながるのは間違いない。
もともとJR東海と大井川流域の住民の間には信頼関係は全くなかった。それがようやく、JR東海が住民の理解を深める場を持ち、不安の解消に努めようとする姿勢に転じた。
静岡工区の着手が遅れている本当の理由について、JR東海は住民らに丁寧に説明すべきである。
流域住民の理解と同意が得られなければ、静岡県は静岡工区の着手を許可しない方針である。今回の地元説明会で、住民らの根本的な疑問にどのように答えるのか、JR東海が誠実に対応しなければ、それこそ静岡工区の着手に再び、暗雲が立ち込める恐れは消えていない。
静岡工区の着工が遅れたのは、JR東海と静岡県とのボタンの掛け違いからである。それをはっきりとさせなければならない。
川勝前知事の「突然、土足で踏み込んできて、『トンネル掘るぞ』と来た感じ」という言葉が当時の状況を象徴している。
JR東海は「国家プロジェクト」に位置づけされるリニア計画を静岡県にそのまま認めてもらえるものと思い込んでいた。
だから、2017年11月に建設企業体と静岡工区の工事契約を結び、2026年11月末に工事完了というぎりぎりの予定を組んだ。もし静岡県が何らかの注文をつければ、2027年開業に間に合わなくなるのは目に見えていた。
当時は「9年間」の工期で完了すると考えていた。しかし、難工事となった南アルプストンネル山梨工区、長野工区では大幅な遅れとなり、現在では静岡工区の工事も両工区と同様に着手から「15年程度」掛かると見られている。
つまり、たとえ2017年11月に静岡工区の着工ができていたとしても、「2027年開業」などムリだったわけだ。「2027年開業」が断念された理由の一つは、JR東海があまりにも甘い見通しで計画を立てたことにあった。
その上、大井川の水環境問題がこじれてたのは、JR東海が流域の理解を求める対応をきちんと取らなかったからである。川勝前知事の「リニア妨害」はその結果論でしかない。
リニア計画が本格化した2014年、JR東海は静岡工区の入り口にある静岡市井川地区で第1回の事業説明会を開催した。それからさらに2回、井川地区で説明会を開き、井川地区と静岡市内を結ぶ「140億円トンネル」の地域振興策を示して、静岡市の行政手続きを円滑にするという合意書を結び、工事用道路となる市道東俣林道の優先的な使用許可などを得た。
静岡市では複数回の説明会を開催した一方で、JR東海は大井川の流域市町では一度も説明会を開催しなかった。また2017年夏の段階でも、当時の川勝知事との話し合いの場さえなかったのである。
南アルプスのトンネル工事で、大井川の湧水が毎秒2トン減少し静岡県の水環境に大きな影響が出ることがわかっていた。
それに対して、JR東海は毎秒1.3トンを導水路トンネルの設置で回復し、残りの0.7トンは必要に応じてポンプアップで導水路トンネルに戻す方策を示し、大井川の中下流域への影響はないとする立場を強調した。
この方策しか示さなかったことで、川勝前知事は2017年10月10日の会見で、「あたかも水は一部戻してやるから、ともかく工事をさせろという態度に、私の堪忍袋の緒が切れました」とJR東海への不満を爆発させてしまった。
川勝前知事はJR東海の対応に「明確な抗議」を行い、「湧水全量戻し」を前提に、「(問題解決には)誠意を示すことが大事」と厳しく述べた。
ところが、知事の「誠意を示すこと」発言にJR東海は何らの対応を示すこともなく、大井川流域の住民への理解を求める説明会を開催することもなかった。
川勝前知事はリニア工事の着工に反対したわけではなく、JR東海に「全量戻し」を求めていたに過ぎない。それなのにJR東海は全く反応しなかったのだ。
流域市町の不信感が募る中、翌年2018年10月末になって、金子慎社長(当時)が毎秒2トンの全量戻しを表明、「話が進まないので、利水者の理解を得たいと方向転換した。問題を解決しようした中で出てきた方策」と説明した。
問題解決の中で「全量戻し」を選択したと金子社長は述べたが、単に「全量戻し」を表明しただけに過ぎなかった。
その後、県専門部会でどのように「全量戻し」を行うのか、具体的な方策等が話し合われるが、JR東海は「全量戻すことで流域の不安は解消されたのでは。なぜ、知事がごねているのかわからない」などと不満をあらわにした。
JR東海は大井川流域の住民の理解を求める姿勢が欠如していた。
決定的だったのは、金子前社長が第1回の国の有識者会議で、静岡県を批判してしまったことである。
金子前社長は「南アルプスの環境が重要だからといって、あまりにも高い要求を課して、それが達成できなければ中央新幹線の着工を認めないのは法律の趣旨に反する。静岡県の対応を含めて(国は)適切に対処してもらいたい」などと述べた。
この発言が紛糾を巻き起こし、結局、金子前社長は発言を撤回することになるが、JR東海の「本音」がどこにあるのかはっきりとしてしまい、それまで以上に流域市町の強い反発と不信を呼んだのである。
金子前社長の言った「法律」とは全国新幹線鉄道整備法(全幹法)である。
全幹法の趣旨とは、「国民経済の発展、国民生活領域の拡大、地域の振興に資すること」である。
金子前社長はじめJR東海は、リニア中央新幹線が全幹法による国家プロジェクトであるという認識の下で、地域との交渉に当たっていた。だから、リニア沿線は建設に協力すべきという姿勢が強かったのだ。
またJR東海は、神奈川、山梨、長野、岐阜の中間駅について、当初は地元負担での建設を想定していたが、その費用3300億円をすべて自社で負担することを表明した。
全幹法の目的の1つが、「地域振興に資すること」であり、各県ともリニア新駅が「地域振興」につながるとして、民間のJR東海を全面的に支援している。
最も難しいとされる用地交渉はJR東海ではなく、各県の自治体職員が担当している。用地交渉がまとまらない場合、強制的に取得、使用する手続きを定めた土地収用法を使うことができる。
リニア沿線地域では地域振興のために住民らの犠牲と負担を強いるケースが続いている。
一方、静岡県はリニア沿線と言っても、南アルプス約10.7キロをトンネルで貫通するだけであり、「地域振興に資すること」は全くない。逆に南アルプスの自然環境や大井川の河川環境への悪影響だけははっきりとしている。
だから、川勝知事は「デメリットはあっても、メリットはない」として、JR東海に「誠意を示せ」と求めた。
それに対して、JR東海は川勝前知事の「誠意を示せ」に何ら対応をしなかった。
幸か不幸か、大井川流域では今のところ何らの地域振興策の提供もないのだから、流域住民は今回の説明会で、忌憚(きたん)なくさまざまな疑問を投げ掛けることができる。
そこで「JR東海が2027年開業を断念したのは、静岡県が反対したからではない」ことだけははっきりとさせておいたほうがいい。
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(ジャーナリスト 小林 一哉)

諸説あった松本城天守の創建は1596~97年頃、柱に使われた木材の年輪調査し判明…市は公式見解切り替えへ

長野県松本市は、これまで諸説あった国宝・松本城天守の創建時期が、科学調査によって安土桃山時代の末期にあたる1596~97年頃と判明したと発表した。専門家が、柱などに使われた樹木の年輪パターンから伐採年を割り出す「年輪年代法」で導き出した。
調査は市から委託された奈良文化財研究所の光谷拓実名誉研究員と名古屋工業大の麓和善名誉教授(建築史)が2022~24年度に実施。城の柱や梁(はり)を調べた。
天守の創建時期について市はこれまで1593~94年頃を公式見解としてきた。調査の結果、天守の1、3、4階の柱に使われたヒノキが1596年に伐採されたものと判明。最上6階の柱の伐採年も同時期とわかった。石垣も含めた創建時期は、1594~97年頃だという。
松本城は、天守と月見櫓(やぐら)、辰巳附(たつみつけ)櫓、渡(わたり)櫓、乾小(いぬいこ)天守の5棟から成る。月見櫓も梁に使われたツガの伐採年が1626年とわかり、こちらも「3代将軍徳川家光を迎えるため1630年代に増築された」としてきた市の見解と異なる結果になった。麓名誉教授は「創建年代がはっきりしたことで、文化財としての価値は高くなった」と話す。
臥雲 ( がうん ) 義尚市長は「科学的な論拠が示された。総合的な検討の上で市の公式見解を切り替える」としている。

高市首相が招いた「対中損失」に終わり見えず…インバウンド消費1.8兆円減だけでは済まされない

高市首相が軽はずみに振り上げた“拳”が日本経済に影を落とし始めている。中国政府による日本への渡航自粛の呼びかけは、台湾有事が集団的自衛権を行使できる「存立危機事態になり得る」とした高市答弁への対抗措置だ。中国からの訪日観光客が大幅に減れば、経済損失の試算額は年間約1.8兆円に上る。互いに引けない日中関係の冷え込みは長期化必至で、日本経済のダメージは雪だるま式に膨らみかねない。
◇ ◇ ◇
「安いニッポン」を求め、今年の訪日外国人数は9月時点で累計3165万500人となり、過去最速で3000万人を突破。うち中国からは前年比42.7%増の748万7200人で、全体の約4分の1を占める。
旺盛なインバウンド需要に頼る日本経済の足元を見た対抗措置だが、中国政府の訪日自粛要請は初めてではない。2012年にも日本の尖閣諸島国有化への報復として同様に呼びかけ、団体旅行のキャンセルが急増。中国からの訪日客は1年間で25.1%減少した。
野村総研エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は、当時と同じ規模で今回も訪日客が減った場合、インバウンド消費の減少額は向こう1年間で1兆7900億円と試算。実質GDPを0.29%押し下げるという。内閣府の試算だと、日本経済の潜在成長率は前年同期比プラス0.6%(今年4~6月期)で、その半分近くを削る効果を持つことになる。
「今の中国人観光客は自国の経済停滞を経て、コロナ禍前の高級品“爆買い”から“身の丈消費”へと打って変わり、訪日時の消費額は減少傾向にある」とは、東京財団政策研究所・主席研究員の柯隆氏だ。こう続ける。
「訪日リピーターも多く、中国政府に安全面のリスクを警告されても彼らは日本の治安の良さを実感しています。政府にニラまれるのを恐れ、中国の旅行会社による団体旅行の販売中止は相次ぎそうですが、12年当時ほど訪日客は減らないとみています」
パンダはもう来ない
日本政府関係者は中国の報復措置が過熱し、レアアースの輸出規制への発展を危ぶんでいるが、柯氏は「日本メーカーの多くは過去に輸出規制された反動からレアアースのリサイクル技術を手に入れています。また、中国の対米レアアース輸出の規制強化が、米中間の合意で1年延期となり、いざとなれば米国経由で調達可能です」と指摘する。
その上で柯氏が最も警戒する中国側の報復措置は「中国を訪れる日本人の短期滞在ビザ(査証)の免除停止」だ。

「片思いの相手」の妻を殺し26年逃亡…「子育てしながらバリバリ働いている」とウソをついた容疑者(69)の心の闇

1999年11月13日に起きた、高羽奈美子さん(当時32歳)が刺殺された「名古屋主婦殺人事件」。その容疑者・安福久美子(現69)は、26年もの間、自分に捜査の手が伸びてこなかったことを訝しく思いながら、ひっそりと身を潜め、世間づきあいもほとんどせず、怯えて暮らしていたのであろう。
もし、2010年に刑事訴訟法が改正されなかったら、殺人事件の時効である15年をとうに過ぎ、天下晴れてお天道様の下を歩けたのにと、悔やんだこともあったかもしれない。
事件を起こす約5カ月前、安福容疑者が被害者の夫・高羽悟氏(現69)と高校テニス部の同窓会で会わなかったら、「昔のみじめな思い出」も次第に薄れ、結婚して子供も生まれ、平凡だがささやかな生活で満足していたはずだった。
だが、あの日の出会いが、安福の心の底で“熾火”のように燃え残っていた「恨みと未練」の情念の炎に、再び火を付けてしまったのであろう。
では、安福がそれまで抱えてきた「恨みと未練」とは何だったのだろうか?
「愛知県豊橋市内にある昔ながらの喫茶店で、ひと組の若い男女が向かい合って座っていた。高度経済成長も終わりを迎えた1975年のことだ。
男は私立大学の学生で、女は受験浪人中の身だった。
『やっぱり君の気持ちには応えられないよ』
男がそう告げると、女は突然号泣し始めた。店内の他の客から見れば、その様子はよくある男女の痴話喧嘩のようにも見えたかもしれない。だが、男は困惑しつつ内心こう思っていた。
『大学まで勝手に押しかけて来て、なんで泣かれなきゃいけないんだよ……』」(『週刊文春』11月13日号)
男は高羽悟氏、女性は高校時代の同級生で同じテニス部だった安福久美子である。
※編集部註:初出時に年代の表記に誤りがありました。当該箇所は修正しております。11月19日14時30分追記
『週刊新潮』(11月13日号)は安福のストーカーまがい行為を詳しく報じている。
「高校卒業後、悟さんは愛知県豊橋市内の大学に進学するが、思わぬ形で安福容疑者と再会することになる。
『私は大学に入ってもテニスを続けていたのですが、ある日、大学のテニスコートに彼女が現われ、何時間も私を待っていたことがありました。(中略)“こういうことをされると困るんだ”と言うと、彼女が突然泣き出して困り果てました』(悟さん)
安福容疑者も県内の別の大学に通い、テニス部に入っていたというが、
『待ち伏せをされた日以外にも、テニスの大会で、彼女が友達を連れて私を応援していたことがありました。まさか犯人だなんて思わなかったので、好意を寄せられていたことを警察には話していませんでした』(悟さん)
社会人になってから接点は途絶えたが、事件の5カ月前、高校ソフトテニス部の同窓会が開かれた。
『高校近くの店でランチを取った後、皆で懐かしのテニスコートまで歩きました。その途中、彼女が私のそばにやって来て、“私、いまは結婚して、仕事もバリバリやって、家事もしてるから大変なの”と話しかけてきたのです。学生時代の暗い印象とは打って変わり、とても明るい様子だったので、驚くと同時に安心したのを覚えています』(同)」
しかし、安福の日常はとても“バリバリ仕事をしている”とは見えなかったようである。
「安福容疑者が犯行時に住んでいたマンションは、西区のアパートから直線距離にして約10キロ。同マンション住人が言うには、『控え目な印象の女性でした。周囲とは、エレベーターで会えばあいさつを交わす程度の交流しか持っていなかったと思います。覚えているのは、同年代の旦那と子供2人の4人家族だったということです』
一家がこのマンションから約450メートルの距離にある一軒家へと移り住んだのは約10年前。近隣住民は、『ここは旦那さんの実家です。引っ越し時にあいさつに来た旦那さんが“町内会の会費などについてはすべて自分を通してください”と言って、以降、会の組長仕事なども主に一人でこなしていました。ニュースを見て、奥さんがまるで人目を避けるように暮らしていた理由が分かったような気がしました』」(=『週刊新潮』)
最初は彼に対する純粋な愛情だった。しかし、相手からの拒絶により、“可愛さ余って憎さが百倍”というアンビバレントな感情を抱いて悶々としていたが、この久々の邂逅の後、安福は「心の奥にしまい込んでいた情動が一気に噴き出したのではないか」(精神科医の片田珠美氏=『週刊新潮』)
高羽悟氏は、「なぜ、彼女が自分の住所を知っていたのかわからない」といっているようだが、情動に突き動かされていた安福容疑者が元同級生の住所を探り出すのはたやすいことだったに違いない。
私は、もちろん、この事件の捜査の全容を知る立場にはないが、当時の新聞を読み返しながら、安福容疑者のターゲットはあくまでも高羽悟氏で、夫人の奈美子さん(当時32歳)ではなかったと推測している。それは事件が起きた曜日にあった。
事件が起きた日の翌日の中日新聞(1999年11月14日付)はこう報じていた。
「捜査本部は、奈美子さんが扉を開けるなりいきなり犯人に鋭利な刃物で首を刺されたとみている。同じ部屋のイスには2歳1カ月になる長男が座っていたが、けがはなかった」
残された血痕からB型の女。現場から約500メートルにわたって血痕が残され、目撃証言などから40代~50代と絞り込んだ。
安福は、奈美子さんともみ合ううちに手をケガしたようで、現場から血を流して相当な距離を歩いていたため、目撃者も多くいたのであろう。当時の犯人の似顔絵は安福の特徴をよく捉えているように思う。
ここまで犯人像がわかっているのに、なぜ、26年もの気が遠くなるような時間がかかったのだろう。
その理由を一言でいえば、愛知県警と西署は、犯人は妻の奈美子さんの交友関係にあると絞り込み過ぎて、高羽悟氏の交友関係にほとんど目を向けようとしなったからだ。
『サンデー毎日』(11月23日号)で悟氏は、こう話している。
事件当初から、警察は高校のテニス部の名簿を押収していたが、悟氏は、「26年間(警察から=筆者注)聞かれたこともないから、彼女はシロだとしか思っていなかった」
テニス部の名簿には当然だが、安福の顔写真も載っていたはずである。だが、信じがたいことに警察はその名簿を25年もの間、手つかずに放置してきたようなのだ。
だが、事件があったこの年の11月13日は「土曜日」であった。
当時も多くのサラリーマンは週休2日で、土曜日は家にいる確率が高かったはずである。偶然、その日、高羽悟氏は出社していて不在だったが、そこまで安福容疑者が下調べしていたとは思えない。
もし、犯人が妻の奈美子さんを狙っていたのなら、夫が不在の確率の高い平日の昼間を選ぶのではないだろうか。
しかし、県警も西署も、事件は妻の奈美子さんを狙った犯行だと先入観を持ちすぎたため、悟氏側の「過去」を調べることをおざなりにしてしまったようである。
捜査員を延べ10万人以上、事情聴取したのは5000人以上に上るといわれるが、初動捜査で決定的なミスを犯していたのだから、カネと時間ばかりが“浪費”されたといわれても致し方なかろう。
やはり、警察の捜査に不信感のようなものを抱いていた悟氏は、自らが事件解決に向けて動き続けた。
事件が起きた家からは移り住んだが、転居後も惨劇の舞台となった部屋をそのまま保存し続けた。家賃は2200万円を超えたという。
「『(犯人に=筆者注)絶対に枕を高くしては寝させないぞ』という思いで毎年、命日や警察の300万円の懸賞金の更新の2月6日にはチラシ配りやマスコミ出演でプレッシャーをかけ続けた」(=『サンデー毎日』)
同じ中で悟氏は、こう警察不信を覗かせている。
「警察がビラを作ったのは事件から10年後。普通は3~4年目には作りませんかと言ってくるそうです。(中略)『もっとやってよ』って言うべきでしたね。
想像もしてなかったけど安福久美子のことも言っておけばよかった。警察は同級生やテニス部からもかなり聴取したようです。
警察は私に『大学に来ていたことなどをマスコミに話さないでください』とか言いながら、安福容疑者の供述内容などを私は報道で知り、警察は教えてくれないので苦情を言いましたよ。まあ、事件当時も血痕がB型だなんて全部報道で知りましたからね」
オブラートに包んだ表現ではあるが、警察の捜査のやり方や秘密主義に、相当な怒りを持っているように、私には思える。
悟氏の警察以上とも思える事件解明への貢献は、それまで時効が15年だった刑事訴訟法を改正させる運動「宙(そら)の会(犯罪被害者団体)」を続けてきたことである。
「宙の会」は2009年2月に設立された。「被害者は宙のかなたに逝ってしまったが、宙を通じてつながっている」という願いを込めてつけた。設立メンバーには16の殺人事件の遺族が名を連ね、悟氏も熱心に国に働きかけてきた。
ついに、その努力が実ったのである。
「2010年4月27日。殺人事件などの公訴時効を廃止する刑事訴訟法の改正案が可決され、約130年続いた制度が変わった。これにより、1995年4月28日以降に起きた未解決事件は、現在も捜査が続いている」(朝日新聞デジタル2025年7月14日)
もし、そのまま時効制度が続いていれば、10年前にこの事件は未解決事件として処理され、被害者家族と加害者以外には忘れられていたかもしれないのだ。
被害者の夫の「犯人を捕まえずにはおかない」という不屈の執念に比べて、警察側のお粗末な捜査が細々と続いてきたようだが、転機は、昨年、担当の刑事が代わったことだったという。
「実は、事件が解決に向けて一気に動いた要因の一つには、昨年四月、担当刑事が代わったことがあった。
再び悟さんが語る。『坊主頭で少し強面の、新しい刑事さんがやって来て、「私がいる間に絶対に犯人を捕まえます」と宣言したんです』」(=『週刊文春』)
「そして遂に今年の夏頃、安福に行きついたのだ。
『テニス部の名簿を刑事さんから見せられたのもちょうどその頃でした』(同前=悟さん、筆者註)
県警は安福の事情聴取を繰り返し、DNAの提出を求めた。「当初は拒否していたが、10月30日に提出に応じ、数時間後に西署に出頭。現場のDNA型と一致したため、逮捕に至った」(=『週刊文春』)
捜査員が代わらなければ、まだ細々と捜査は続けられていたのだろう。
最大の疑問は、どの新聞、週刊誌報道を読んでも、事件の起きた当初から、被害者の夫である悟氏から警察は、「あなたが狙われた可能性もあるから、これまでの人生で、女性とトラブったことはありませんでしたか? どんな些細な事でも構いません。思い出してください」と聞いていないのはなぜなのか?
もし聞いていれば、悟氏は、高校の同級生で同じテニス部だった安福久美子との間で起こった「過去」を話していたはずである。
それは『サンデー毎日』の悟氏のこの言葉からも窺い知れる。
悟氏は、2024年4月に代わった担当刑事から、今年10月31日に西署へ呼ばれ、「今夜犯人を逮捕します」と告げられたという。
「誰ですか?」と聞くと、「悟さんの関係者です」といわれ、即座に「高校の同級生。軟式テニス部」とピンと来たそうだ。
普通、こうした長期にわたる捜査で、ようやく犯人を突き止めた時などは、「警察、執念の捜査実る!」のような大見出しが躍るものだが、私が知る限り、警察のお手柄だと報じたところはないようだ。
警察といえど人間の集団である。間違いも犯せば判断ミスもある。しかし、この事件は、土曜日の昼に起こったのである。夫の悟氏も在宅していた可能性が高かったはずである。妻に危害を加えようとしたのかもしれないが、夫のほうも被害者になったかもしれないのだ。
捜査員たちに尋ねてみたい。なぜ、妻の関係者ばかりに重点を置いて捜査したのかと。
朝日新聞デジタル(11月13日 5時00分)にこんな記事が出ていた。
「愛知県警の元捜査員は捜査が難航した背景をこう指摘する。『当初の捜査は、被害者の周辺に重点が置かれ、高羽悟さんの周辺の捜査は十分ではなかった。灯台下暗しだった』」
コールドケース(未解決事件)はまだまだ多くある。この事件で、昨年4月に新しく配属された「特命捜査係」の警部捜査員のように、今一度事件を全く違う角度から見つめなおし、一つでも二つでも解決していくことが、捜査する側には求められているはずだ。
安福容疑者は、10月30日に逮捕されたが、その前の8月頃から数回にわたって愛知県警に事情聴取されていたという。
「その際、DNAの任意提出を求めたものの拒否された。しかし逮捕前日、安福は一転してDNA提出に応じ、その日の夜に捜査本部のある県警西署に自ら出頭しました。逮捕後の取り調べで“8月に警察が来て捕まってしまうことを覚悟した。家族に迷惑をかけられず、毎日不安だった。奈美子さんに申し訳ないと思っている”などと供述しています」(全国紙デスク=『週刊新潮』)
逮捕後、安福は容疑を認め、取り調べにも応じていたが、新聞報道によると、その後黙秘に転じているという。
悟氏はこういっている。
「犯人が分からないときは、『透明人間』みたいに思っていましたけど、いざそれが分かってみると……。犯行現場を思い出すと、『あの子が、ああいうことができるのかな』と思ってしまって、なかなか繋がらないんですよね』
そして、こう続けた。
『凶行に走る理由が僕ら夫婦にありましたか。奈美子を殺すほど僕があなたにひどいことをしましたか。彼女にはこう聞きたいです』」(=『週刊文春』)
26年前に起きた事件について、安福容疑者の刑事責任能力の有無や程度などを判断するために「鑑定留置」が始まったようだ。
事件当時の精神状態を専門の医師が調べ、地検が刑事責任能力の有無を判断するためだ。安福容疑者の心の闇の解明は始まったばかりである。
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(ジャーナリスト 元木 昌彦)

10階から高校に陶器投げる=殺人未遂容疑、女逮捕―大阪府警

マンション10階から隣の高校の授業中の生徒に向け陶器などを投げたとして、大阪府警淀川署は19日までに、殺人未遂容疑で、大阪市淀川区の無職の女(46)を逮捕した。「生徒を黙らせてやろうと思い投げた」と容疑を認めているという。
逮捕容疑は18日午前9時35分ごろ、自宅マンションのベランダから隣接する府立高のテニスコートにいた女子生徒に向け、貯金箱とみられる陶器やスプレー缶を投げ殺害しようとした疑い。
同署によると、テニスコートにいた授業中の生徒ら約20人にけがはなかったが、女子生徒の約2メートル離れた場所に落下したという。女は事件直前、学校に「生徒の声がうるさい」と電話をかけていたといい、同署は経緯を調べる。 [時事通信社]

【小型機墜落】航空事故調査官2人を派遣 警察と消防は3人の遺体を収容へ 福岡

福岡県八女市の山中で18日、小型機が墜落し、3人の遺体が見つかった事故で、国は19日午後、調査官を派遣し、事故原因の調査を始める予定です。
■中村安里アナウンサー
「八女市星野村です。いま警察と消防が星野支所を出発しました。これから事故現場へと向かいます。」
19日午前、八女市星野支所に集まった警察と消防およそ60人が墜落現場へ向かいました。
この事故は18日、八女市星野村の山中に小型機が墜落したもので、現場からは性別不明の3人の遺体が見つかりました。
大阪航空局八尾空港事務所によりますと、マツノタイジさん、ツジタイゾウさん、オカモトアキラさんの3人が乗っていたとみられています。
警察と消防は19日のうちに、遺体の収容を完了させるとしています。
また、国の運輸安全委員会は19日午後、航空事故調査官2人を派遣し、小型機が飛び立った佐賀空港の関係者の聞き取りを行う予定です。

交差点で直進のバイクと右折しようとしていた軽乗用車が衝突 バイクの男子中学生2人が死亡 大阪・守口市

軽乗用車と衝突し、バイクに乗っていた中学生2人が死亡しました。

11月19日午前0時過ぎ、大阪府守口市の交差点で、右折しようとしていた軽乗用車と直進してきたバイクが衝突しました。

バイクには兵庫県内に住む14歳の男子中学生2人が乗っていて、病院で死亡が確認されました。

警察は車を運転していた東大阪市の会社員・池田翼容疑者(26)を過失運転傷害の疑いで現行犯逮捕。池田容疑者は容疑を認めているということです。