愛知県豊田市の取水施設「明治用水頭首工(とうしゅこう)」で大規模な漏水が発生し、同県は18日、自動車関連企業など131事業所に工業用水を供給する安城浄水場(同県安城市)に水が送れなくなったと明らかにした。この影響で、各事業所への工業用水の供給ができなくなる可能性が出ている。取水施設を所管する東海農政局は同日、施設の川底に穴が開いていたことで漏水が起きたと説明した。取水施設では農業用水も供給しているが、豊田市や岡崎市など8市約4500ヘクタールの農地では17日から供給が停止。同農政局は工業用水の安定供給を優先する方針。
同農政局によると、取水施設では、矢作川を水門でせき止めて水位を上昇させ、水路を通じて安城浄水場へ工業用水を送っている。施設の上流と下流部の川底にそれぞれ穴が見つかったといい、二つの穴を結ぶ水の通り道が施設構造物の下にできた可能性があるとしている。漏水は15日に確認し、16日に砕石で穴を埋めようとしたが穴は拡大。17日未明に大規模な漏水が発生して水位が下がり、同午後6時ごろから取水口から水をくみ取ることができなくなったという。
安城浄水場では必要な水量が確保できず、18日午前4時45分ごろ施設からの取水ができなくなった。同浄水場は西三河地区9市3町(岡崎市の一部▽豊田市の一部▽西尾市の一部▽半田市▽碧南市▽刈谷市▽安城市▽高浜市▽みよし市▽東浦町▽武豊町▽幸田町)の131事業所に工業用水を供給している。周辺にはトヨタ自動車などの自動車関連企業が集積している。記者会見した同農政局の小林勝利局長は「これほど急激に水が抜けることを想定していなかった。対応が後手に回り申し訳ない」と陳謝した。
同農政局はポンプを使って川から水をくみ上げる応急措置をとっている。同局によると、工業用水に必要な量は毎秒3立方メートル。19日にもポンプ42台を稼働させ、同2・72立方メートルを確保できるめどが立ったという。
漏水が起きた取水施設を巡っては2021年12月にも小規模な漏水が発生していた。石で穴を塞いだが、若干の水量の漏水が続いていたという。今回の漏水との因果関係は不明だが、同局は「結果として今回の事態になったことは厳粛に受けとめたい」としている。【酒井志帆、加藤沙波、藤顕一郎】
完成は58年「大規模修繕の時期だった」
明治用水土地改良区のホームページによると、大規模な漏水が発生した取水施設「明治用水頭首工」(愛知県豊田市)は1958年に完成し、70~80年代に改修が終わった。今回の大規模漏水について、水道工学が専門の名古屋大減災連携研究センターの平山修久准教授は「施設として大規模な修繕をする年齢にきていた」と指摘する。
取水施設を巡っては2021年12月にも小規模な漏水が確認されたことが判明している。今回の漏水との因果関係は不明だが、東海農政局の担当者は18日の記者会見で「常に使用している施設で完全に水を抜いて確認したり、工事したりすることができず、応急的な対応をして様子を見ていた」と説明した。
平山准教授は「水利権もあって、国、県、企業など関係者が多岐にわたり、重要な施設だからこそ水を止めることは難しい。そういうこともあって、維持管理が後回しになってきたのではないか」と指摘。「水を止めて修繕をすれば多額の費用もかかるし企業にとっては経済損失が出る」とする一方、「維持管理のためには、地域や企業の理解、国の支援も必要で、施設をどう支えるのかという仕組みを考え直す必要がある」と話す。【田中理知】
農業関係者、不安と戸惑い
大規模漏水の影響で農業用水の供給がストップした農業関係者からは不安や戸惑いの声が漏れた。
愛知県中央に位置する安城市を中心とする地域は日本のデンマークと呼ばれ、明治用水の恩恵を受け、豊富な農産物の産地として知られる。管轄する愛知県安城市の「JAあいち中央」の稲垣豊久・農畜産課長によると、今はまさに田植え作業の最盛期。管内約1000軒の農家には、田植え前に田に水を入れて土を砕く「代かき」作業中の人もいれば、田植えを間近に控えていた人も多いといい、「一番水が欲しい時に来ないので本当に困っている」と頭を抱える。
田植えができなければ苗が成長してしまい、逆に強行しても水がなければ枯れてしまう。稲垣課長は「とにかく今後どうなるかを早急に伝えてほしい。見通しが立たないと生産者への対策指示ができない」と語気を強める。
同JA営農部会長で稲作農家の神谷力(ちから)さん(61)らが管理する田んぼでも18日が田植えの予定だったが、できなくなった。神谷さんは「水田だから水を蓄える機能はあるが、このままなら1週間で干上がってしまう」と懸念を示し、「今の状況はまさに『災害』。早く水をあげないと今後のスケジュールがずれて死活問題だし、この状態が続けば今年の収穫もゼロになってしまう」と一刻も早い供給を求めた。【町田結子、渡辺隆文】
地元住民「初めて川底見た」
大規模な漏水が発生した取水施設「明治用水頭首工」(愛知県豊田市)を訪れると、川底が見えるほど矢作川の水量が減っていた。せきの上流側の水位が低くなり、普段は川底にある昔のせきもむき出しに。上流部では水が左岸側に向かって流れ、川底へと吸い込まれていた。
取水施設の現場では作業員らが川から水をくみ上げるため仮設ポンプを設置。川の中にはクレーン車でショベルカーが運ばれ、水をくみ上げやすいように川底の砂を整理していた。
近くに住む女性は「いつもより水の高さが5~6メートルは低い。昨日よりもさらに減っており、初めて川底を見た」と驚いた様子。矢作川漁業協同組合の河川監視員の男性(80)は「15日午前10時ごろ、喫茶店の帰りにいつものように川を見て回ると水が噴き出しており、様子がおかしいと思い漁協に連絡した。子どもの頃から住んでいるが、こんなに水が少ないのは初めて。アユ漁にも影響が出るだろう」と話した。男性会社員は「うち(の会社も)も水を使っているので困る。早く直してほしい」と語り、会社に状況を説明していた。【川瀬慎一朗】