大坂正明被告の初公判が開かれた25日、東京地裁周辺には公判開始の1時間半ほど前から支援者らが集まり、裁判所職員や公安関係者が警戒するなどものものしい空気が漂った。中核派に危害を加えられる恐れがあるとして、殺人事件であるにもかかわらず、裁判員裁判の対象から除外された異例の審理。発生から半世紀が経過して物証が乏しい中で、対立する証言や過去の供述調書から犯行事実を認定せざるを得ないため、裁判所は難しい判断を迫られそうだ。
持論展開5分超
300人超が傍聴券を求めて行列を作るなど、公判前から異様な雰囲気となった25日の東京地裁。午前10時に始まった初公判で、大坂被告はジャージーの上にジャンパーを重ね着した姿で出廷した。
被告は罪状認否で、メモを手に、渋谷暴動は沖縄返還に伴う協定に関する闘争の一環だったとした上で「沖縄は今、再び戦争の最前線に立たされようとしている。返還協定に反対した私を裁くことは不当だ」などと5分以上にわたって持論を繰り広げた。
公判では冒頭、高橋康明裁判長が「大きな声や拍手は審理の妨げになる」と注意をしたものの、午後には傍聴人の男性が公判中に「大坂さん頑張って」などと大声を出して手を振り、裁判長が「今度やったら退廷を命じます」と警告する一幕もあった。
「群馬部隊」証言は
大坂被告の公判は来年3月までの間に計22回の期日が指定されている。今月26日の第2回公判以降は、事件で負傷した機動隊員や当時のデモ参加者など、検察側・弁護側の双方あわせて約30人の証人尋問が実施される見込みだ。
最大の争点は大坂被告が警察官殺害の現場にいたかどうか。検察側の立証の核は、群馬県内の大学や高専に所属する学生らから構成されていたデモ参加者、通称「群馬部隊」の証言だ。
犯行当時、未成年だった者もいた群馬部隊は警察官殺害に直接関与したとされ、過去の共犯者の確定判決では、その供述調書が主要な証拠になっている。
事件当日の大坂被告については、複数の点で食い違いがあるものの、被告が警察官殺害の現場に居合わせ、「殺せ、殺せ」と怒号を上げていたことなどが事実認定されている。
これに対し、弁護側は千葉工業大の学生だった大坂被告と群馬部隊の学生らには面識がなかったとしている。初公判では、被告は警察車両追跡のためにデモ隊から一時離脱しており、殺害現場を走り抜けたのは事件後で、放火された派出所があったことすら知らなかったと主張。客観的な証拠は何もないとし、「あまりにも常識から外れた異常な裁判が開始されようとしている」と訴えた。
弁護側は今後、被告を現場で「目撃していない」とする証人の尋問を予定している。(村嶋和樹、宇都木渉)