なぜ日本の若者は「自民党が大好き」なのか…「安倍元首相暗殺」でみえた“ネトウヨ急増”のワケ【元国連職員が解説】

ここ数年、自民党の支持層は「ネトウヨ」と呼ばれる人々や保守派が多いと考えられてきました。しかし、安倍元首相の暗殺事件を機に「自民党が若者に人気である」という事実が浮かび上がってきたと、元国連職員の谷本真由美氏はいいます。なぜでしょうか。本記事で詳しくみていきましょう。
なぜ日本では若者に自民党が大人気なのか?
安倍さん暗殺のニュース映像を見ていて驚いたことがあります。それは従来、自民党の支持者だったと言われているような感じの人々があまり見当たらないことでした。
ここ数年メディアやネットで言われてきた最近の自民党支持者というのは見るからにオタク系の人で、中年以上の男性や高齢者が多いというこれまでの自民党支持者像とは大きく異なります。
またそういった人々を研究した書籍の中に『ネットと愛国』という本があります。これはフリーライターの安田浩一さんが、在特会(在日特権を許さない市民の会)で外国人排斥運動に関わる人々について丹念な取材をおこなった作品で、当時の「ネトウヨ」の姿を描き出す貴重な資料です。
この本の中に登場する人々は無職だとか非正規雇用の男性がかなり多く、女性も若干はいるのですが主流ではありません。しかしながらこのような人々を差別的な視点や批判的な目で見るのではなく、保守になるのには厳しい生活環境があったり、仕事も必ずしもうまくいかなかったりといろいろな理由があることを描き出しています。
登場する一般の人々の多くは地方在住で豊かとはいえない生活です。要介護の親を抱えた人もいます。生真面目な人々が多く、たいへん真面目な気持ちで保守活動や排外活動をやっている。そして政治的には自民党を支持しているのです。
この本が出た少しあとに出版された『ネット右翼とは何か』(樋口直人ほか著)もおもしろい本です。ネトウヨの人々についてさらに切り込んだ研究をされています。
この本で描かれるネトウヨの人々は中年以上で安定した仕事や資産があり、金銭的に豊かな自営業者や公務員、大企業の社員などで、その多くは自民党支持者です。アメリカやイギリスの保守系有権者のプロファイルも社会学者や政治学者の研究ではこの本に登場する人々とほぼ同じなので、このような批判は的を射たものでしょう。
ところが今回の安倍さんのお見送りや献花でわかるように、どうも安倍さんや自民党の支援者の少なからぬ人が、いわゆる「サイレントマジョリティーだった」ということが真相のようです。
テレビに映る姿や、実際に現場へ取材に行った方のお話を総合すると、献花会場に来ていた人々は、『ネットと愛国』の中年非正規雇用男性とも、『ネット右翼とは何か』の裕福な自営業者とも、まったく異なるのです。
来ている男性もきちっとした服装の若いサラリーマン風の人が多かったようです。また高校生や大学生もかなりいたとのこと。しかも制服を着崩しているのではなく、きちっとした学生さんが多いのです。有名校の生徒も少なくありません。これはこれまでメディアが伝えてきた自民党の支持者や近年の保守化する人々というのとはかなり違うようですね。
海外の若者は左翼系政党を支持する傾向
私はこのような実態を知ってたいへん驚かされました。従来であれば左翼政党を支持していたような人々が現在では自民党の大きな支援者であり、また若い人々は革新系政党ではなく自民党を支持している人が多いのです。
若い人の多くは、とにかく自民党が好きなのです。これは何を示唆するのでしょうか──。
若い人ほど現実に起きていることにかなり敏感で、特に子どもの頃に東日本大震災などを経験したことが、かなり影響があるのではないのかと思われます。ロシアや中国の脅威を恐れて安全保障政策を重要視しており、そして自分たちの置かれた社会が急激に変化してしまうことを避けたいという人が多いのです。
かつて若者のほとんどが「安保反対!」と叫んでいた時とは隔世の感があります。これはアメリカやヨーロッパでは、若い人は革新系の政党を支持することが多いのに比べると興味深いことです。
欧米でも最近流行っている「ブラック・ライブズ・マター」という運動や、かなり過激な環境運動、LGBTQの問題に熱心なのも若い人々です。ようするに若い人は左翼系の団体や政党を支持することが多いのです。
格差が大きくなっており、階級が固定されてきているアメリカやヨーロッパの実態を考えると、若い人がこういった左翼系の政党を支持するのは大いに納得できることであります。
ところが日本の場合は現状維持を最優先し、大企業に有利な政策をおこなう自民党を支持しているのであり、そのほうが自分たちの生活にとっては有利であると考えているのでしょう。
谷本 真由美
公認情報システム監査人(CISA)