自民党は9日、東京都内で党大会を開き、石破首相(党総裁)が6月の都議選や夏の参院選に向けた決意を示した。11月に結党70年を迎える節目の年ながら、党は少数与党、党員減少、党勢低迷の「三重苦」に直面し、首相の政権運営には批判の声が公然と上がり始めている。(鷹尾洋樹、岡田遼介)
「国民一人ひとりに最も近い政党でありたい。もう一度その原点に立ち返りたい」
首相は約24分間の演説で、プロンプター(原稿映写機)を使わず、約1600人の国会議員や地方議員らを前にそう訴えた。都議選や参院選に向けては、「私も先頭に立ち、必ず勝ち抜く」と語気を強めた。
大会では、「令和版政治改革大綱」の策定などを明記した運動方針を採択。森山幹事長は結党70年に合わせ、党の「国家ビジョン」を策定すると発表した。全員で「参院選に勝つぞ」と気勢を上げ、森山氏は終了後、「心を一つに参院選を頑張っていこうという気持ちになれたのではないか」と記者団に語った。
もっとも、自民を取り巻く環境は厳しい。昨秋の衆院選で少数与党に転落したことで「石破カラー」は封印され、2025年度予算案の修正では、高校授業料の無償化など野党の主張を次々とのまされた。
自民内からは「主導権を持たない少数与党の悲哀だ」(中堅)との声が漏れるが、内閣支持率は40%前後と「低位安定」が続き、現状を打破する道筋は見えていない。首相は選択的夫婦別姓制度の導入に肯定的とされ、そうしたリベラル色が「保守層離れを招いている」との指摘も出ている。
党員も減少しており、24年末は102万8662人と、前年比6万2413人減。減少は2年連続で、派閥の政治資金問題などが影響したとみられる。
こうした苦境に追い打ちをかけたのが、医療費が高額になった場合に患者の負担を抑える「高額療養費制度」の見直しを巡る政府・与党の迷走だ。
昨年の総裁選に出馬した小林鷹之・元経済安全保障相は大会後、「政策の意思決定が二転三転している。丁寧なプロセスを踏まないと国民の理解はなかなか得られない」と首相に注文をつけた。首相は10日の参院予算委員会で「検討プロセスは丁寧さが十分ではなかった。私の責任だ」と反省の弁を語った。低姿勢で党内の反発を和らげたい考えだが、反転攻勢の糸口は見いだせていない。
首相は元来、党内基盤が脆弱(ぜいじゃく)だ。現在は、首相と距離を置く勢力も党内の混乱を避ける観点から静観する向きが多いが、「政権浮揚が図れなければ、予算案成立後は『石破降ろし』の動きが顕在化してくる可能性がある」(ベテラン)との見方も出ている。
自民党大会の首相演説 要旨
石破首相(自民党総裁)が9日の党大会で行った演説の要旨は次の通り。
【都議選、参院選】
私も先頭に立ち、必ず勝ち抜くべく、我が身を滅して総力を尽くす。
【党の立て直し】
野党の3年3か月の間、自民党はどうあるべきか徹底的に話し合った。あの時の謙虚さを取り戻したい。
【戦後80年】
歴史に謙虚に学び、日本の平和は尊い犠牲の上にあることに思いをいたしたい。我が国の安全保障環境はかつてなく厳しい。米国との同盟関係をさらに強化することは当然のことだ。
【地方創生】
この国を担うのは地方だ。人口減少に歯止めをかけ、もう一度日本を素晴らしい国として生まれ変わらせる。それが自民党の使命だ。