猟友会への手当、クマ被害相次ぎ引き上げる動き…自治体ごとに差・一律化求める声

クマによる人身被害が相次ぐ中、市町村がクマの捕獲にあたる猟友会に支払う手当の金額を引き上げる動きが広がっている。9月からは市街地での発砲を認める「緊急銃猟」制度も始まるなど、負担の増えるハンターの支援強化が狙いだが、自治体ごとに支給ルールや金額に差があり、ハンターからは一律化を求める声も上がっている。
「捕獲できたのは本当に良かったと思う。ただ、今後も冬眠を前に体が大きくなったクマが人里に現れることも考えられるので、猟友会の負担も大きくなる」。今月、秋田県湯沢市で男性を襲った後に民家に6日間とどまったクマの捕獲にあたった雄勝猟友会事務局長の鹿角(かづの)良栄さん(75)は話す。
猟友会に所属するハンターはクマによる人や農作物への被害が出た際に、猟銃やわなで捕獲を試みる。会員の大半は別に仕事を持ち、市町村の要請で出動する。活動に対する手当は、時給制や日当制、捕獲した頭数に応じて支払うなど、まちまちで金額も異なる。
今年4月以降のクマによる人身被害は100人を超え、過去最悪ペースで発生。「緊急銃猟」も仙台市や富山市、札幌市などで計8件行われた。ただ、市街地での発砲には、高い射撃技術が求められる。危険も伴い、過去にはクマに反撃されたハンターが負傷する事故も起きている。
こうした中、負担に見合った手当を支給すべきだとして金額を引き上げる動きが広がる。北海道美瑛町は国の交付金などを活用し、昨年度まで時給1500円、捕獲1頭につき報奨金2万円だった手当を、7月に時給4000円、1頭6万円とした。町の担当者は「ヒグマの駆除は危険を伴うが、エゾシカと6000円しか変わらず、見直しを議論してきた」と説明する。
長野県飯山市でも市議会9月定例会に猟友会の出動時の日当を5700円から1万円に2倍近く引き上げる条例の改正案が提出され、可決された。市内でもクマによる人身被害が発生しており、活動時の危険性などを考慮したという。
富山県射水市は今年度、1頭5万円の報奨金を新設。市内でのクマの捕獲実績はないが、市の担当者は「今やどこに出てもおかしくない。出没時に備えたかった」と話す。
新潟県新発田市は緊急銃猟を行った場合、5000円の日当を8000円に増額することを決めた。緊急銃猟はより危険性が高いと判断したという。岩手県でも北上市や大船渡市など7市町で同様の対応を検討している。
輸入品が多い銃弾や燃料費の高騰もハンターの負担になっており、長野県小布施町では年1回支給している1万6000円の弾丸代を、来年度以降、増額することを検討しているという。
一方で、手当の引き上げに苦慮する自治体もある。市内4猟友会に有害鳥獣の駆除を委託している埼玉県秩父市。クマの出没増加に伴って委託料の値上げを求める声があるが、市の担当者は「増加するサル被害対策用の報奨金を廃止するなどしないと、財源確保は難しい」と打ち明ける。
国は緊急銃猟制度では、猟友会に市町村域を超えて対応してもらうことを念頭に置いているが、同じ県内でも活動場所によって手当がバラバラなのが現状だ。報酬額が低すぎるとしてヒグマ駆除への協力要請を猟友会が辞退したことを受けて、昨年7月に金額を引き上げた北海道奈井江町のような例もある。
大日本猟友会(東京)の佐々木洋平会長は「出動するハンターは等しく命を張っている。国の補助金などを活用し、せめて県単位では手当の金額を一律化してほしい」と話している。
◆猟友会=狩猟免許を持つ人たちでつくる民間団体。全国組織の「大日本猟友会」傘下に、県や市町村単位などの支部がある。狩猟事故防止のための啓発活動のほか、自治体の依頼で有害鳥獣の駆除を行う。会員数は10万561人(2024年度現在)。