宮城県が、選挙期間中に広まる情報の真偽を検証する「ファクトチェック」を、県として実施できないか検討に入った。村井嘉浩知事の指示によるもので、デマに基づく投票を防ぐ狙いだが、行政機関が取り組むことには、表現の自由や独立性の観点から批判的な見方もある。(東北総局 岡田俊一、地方部 柿井秀太郎)
村井氏は10月26日投開票の知事選で、県政史上最多となる6選を果たした。ただ、選挙期間中、「メガソーラーの推進」などといった事実と異なる情報がSNS上で拡散し、「売国奴」「落とせ」など攻撃的な投稿が寄せられ、街頭演説でもヤジを飛ばされた。村井氏を支援した県議が脅迫の被害を訴える事態もあった。選挙後、村井氏は「(虚偽情報の)拡散を止めるすべを作らないと、民主主義が崩壊する可能性がある」と危機感を抱いたという。
検討しているのは、県などに相談窓口を設置し、中立的な立場で投稿内容の真偽や事実関係を調べる仕組み。県職員が関係機関や弁護士と調整を進めており、村井氏は11月5日の定例記者会見で「行政権の乱用ではないかとの声はある」と前置きした上で、「公平中立にやらなければならない。独立性をしっかり担保することは重要だ」と述べた。実現が難しい場合、国に導入を求める考えもあるという。
ファクトチェックを巡っては、公明党がAI(人工知能)のソフトを活用し、東京都議選や参院選を前に、党に関するSNS情報を自動収集し、真偽を確かめる取り組みを6月に始めた。
国民民主党は、参院選時の特設サイトに「政策ファクトチェック」のコーナーを設け、SNS上で流れる「増税する」「外国人参政権を支持している」といった情報を否定した。
自民党は9月にまとめた参院選の総括報告書に「平時からファクトチェックを行い、反証・訂正情報を公式サイトやSNSで発信する体制を整備する」と盛り込んだ。
こうした動きに、否定的な見解もある。米国を拠点に活動する「国際ファクトチェックネットワーク」(IFCN)は、ファクトチェックに非党派性、公正性、透明性などを求める。
総務省が2023年に設置した有識者会議は「ファクトチェックとは本来、ジャーナリズムの価値観に基づいて検証するものだ」と指摘。昨秋に公表された報告書で、ファクトチェックを実施する主体は、政府や公的機関からの独立性が確保されるべきだと記した。
桜美林大の平和博教授(メディア論)はファクトチェックには非党派性が求められると強調し、「行政など権力が『ファクトチェック』を掲げ、情報の選別を行えば、表現の自由を侵害するリスクがある。正確な情報を周知する『広報活動』にとどめるべきだ」と話している。
◆ファクトチェック=情報の真偽について、官公庁の統計など公開されているデータを基に客観的に検証し、公表する活動。主な対象は政治家の発言やインターネット上の投稿で、マスメディアや民間の非営利団体などが実施している。