「餃子の王将」社長射殺、検察側と弁護側が真っ向対立…田中被告「ぬれぎぬを承服できない」

2013年に「餃子(ギョーザ)の王将」を展開する王将フードサービスの社長だった大東(おおひがし)隆行さん(当時72歳)を射殺したとして、殺人罪などに問われた特定危険指定暴力団・工藤会系組幹部、田中幸雄被告(59)の初公判が26日、京都地裁(西川篤志裁判長)であり、田中被告は「私は決して犯人ではありません」と無罪を主張した。被告が殺害したことを示す直接証拠はなく、検察側は今後、30人超の証人尋問を行い、有罪を立証していく方針。
田中被告は午後1時30分頃、紺のスーツに白のシャツ姿で出廷。罪状認否で、西川裁判長を真っすぐ見つめながら、「私は決して犯人ではありません。『決して』が付きます」と強調し、「任侠(にんきょう)道を志す者として、ぬれぎぬの一つや二つは甘んじて受け入れます。しかし、センセーショナルな事件までぬれぎぬを着せられるのは承服できるものではありません」と無実を訴えた。
直後、検察官席側から「何が無罪やねん。うちの大切なお父さんを殺したんや」と女性の泣き叫ぶような声が上がった。被害者参加制度を利用した遺族とみられ、周りは遮蔽(しゃへい)板で覆われていた。法廷は騒然となり、一時休廷となった。
起訴状では、田中被告は氏名不詳者らと共謀し、13年12月19日午前5時46分頃、京都市山科区の王将本社前の駐車場で、大東さんの腹や胸を拳銃で撃ち、殺害したとしている。
検察側は冒頭陳述で、被告は事件当日、王将本社の別館東側の通路でたばこ2本を吸いながら待ち伏せし、出勤した大東さんに至近距離から4発発砲した後にバイクのカブで逃走したと主張した。
現場近くで押収された吸い殻2本に付着していた唾液のDNA型が被告と完全一致。カブは現場から1・4キロ離れたマンション駐輪場付近で発見され、ハンドルからは、銃撃した際に残る「射撃残渣(ざんさ)」が検出されたと指摘した。
駐輪場近くからはミニバイクも発見されており、2台は事件の約2か月前に京都府内で盗まれたものだった。ミニバイクが盗まれた現場周辺の防犯カメラには、被告が幼なじみから借りていた軽乗用車が映っていたという。検察側は、被告の携帯電話に「警戒を解いてはならない。息を潜めて行動しろ」などというメモが残っていたことも明らかにした。ただ、被告が大東さんを殺害した動機や、暴力団の組織的関与については言及がなかった。
一方、弁護側は、検察側の状況証拠について「いずれも決め手ではない」と反論。事件当日、被告が福岡県にいた可能性があることを、今後、証人尋問で立証するとした。
約20分間にわたった検察側の冒頭陳述に対し、弁護側は約2分間だった。今後の公判も、検察側の証人30人超に対し、弁護側は1人で、審理は検察側の立証が中心となる。
殺人罪は裁判員裁判の対象だが、裁判員の安全への配慮から今回は裁判官のみで審理される。公判は全12回で、来年6月に結審し、判決は10月16日に言い渡される予定。
状況証拠による有罪立証を巡っては、10年の最高裁判決が「被告が犯人でなければ合理的に説明ができない事実関係が含まれていることが必要」との基準を示した。今回の事件も、被告が殺害したことを直接示す証拠はなく、検察が状況証拠でどの程度立証できるかが焦点となる。
初公判後、王将フードサービスは「事案の全容解明を願い、裁判の経過を見守りたい。大東前社長の冥福(めいふく)を心よりお祈りし、遺志を受け継ぎ、社員一同社業にまい進していく」とのコメントを出した。
京都府警、組織的犯行の見立て

複数の捜査関係者によると、大東さんと田中被告の接点は確認されておらず、京都府警は、田中被告が何者かに指示を受けた組織的犯行とみている。王将フードサービスの第三者委員会は2016年3月、反社会的勢力との関係を調査した報告書を公表。反社との関係は確認されなかった一方、同社が05年頃までの10年間に特定の企業グループ側と不適切な取引を繰り返し、約170億円が回収不能になったと指摘した。大東さんは取引の解消に取り組んでいたという。