中国軍機による航空自衛隊機へのレーダー照射から半月が過ぎた。中国による訓練開始の事前通報や照射の危険性を巡って日中双方は応酬を続けており、主張は平行線をたどっている。
防衛省によると、沖縄本島南東の公海上空で6日、中国空母「遼寧」を発艦した戦闘機から、警戒中の自衛隊機が2回にわたってレーダー照射を受けた。
中国軍は、設定した訓練区域に自衛隊機が進入したとの主張で、同日に訓練開始を自衛隊に無線で通告していたとする音声を公開し、自らを正当化している。
これに対し日本は、訓練の緯度・経度情報などを示す「ノータム」と呼ばれる航空情報や、船舶への航行警報などを中国側が事前に出さなかったことを問題視している。自衛隊は訓練の際に事前通報しており、民間の船舶や航空機に注意を呼びかけるのが通例だ。
国際法上、事前通報は必須ではないが、島田和久・元防衛次官は「今回の訓練場所は日本の領域に近く、中国の『通告』では必要な事前通報とは言えない。中国はノータムなどを出すべきだった」と指摘する。その上で「仮に事前通報があっても照射していい理由にはならない」と批判する。
小泉防衛相が事案発生を発表したのは、直後の7日未明だ。さらに9日朝の記者会見で中国による事前通報がなかったと述べたが、中国は同日午後になってから音声を公開した。小泉氏がこの間、現場での音声のやりとりについて報告を受けていたかどうかは不明だが、自衛隊幹部は中国側の発表のタイミングから「中国は日本が間違っていると印象づけ、論点をすり替えようとしている」と憤る。
日本はそもそも、中国が自衛隊機に約30分に及ぶ断続的なレーダー照射を行ったことが今回の問題の本質だとみている。
中国は「飛行訓練中に『捜索レーダー』を作動させるのは、各国の通常動作」などと主張している。射撃の準備段階として目標を捕捉する火器管制目的の照射であれば危険性が高いが、中国は同目的だったかどうかは明らかにしていない。
日本は「戦闘機のレーダーは火器管制の用途でも使われる。長時間の照射は衝突に至りかねない危険な行為だ」と反論している。
日中関係が緊迫していた2013年にも、中国のフリゲート艦が海自の護衛艦に火器管制レーダーを照射する事案があった。今回も、中国が軍事力で相手を威圧、挑発する常套(じょうとう)手段の一環とみられ、今後も同様の事態が起こりかねない。
大阪学院大の真山全教授(国際法)は「公海上の演習での衝突を防ぐためのルールや関係構築が重要だ」と話している。