全国でストーカーによる凶悪事件が後を絶たない。被害を食い止めるため、警察当局が被害者の迅速な保護とともに力を入れているのが加害者へのアプローチだ。10年以上にわたり、ストーカーやドメスティックバイオレンス(DV)関連事案に携わってきたベテラン警察官は、加害者の「孤立」と向き合う重要性を指摘する。
「なぜか夫に居場所がばれている」。ある日、夫のDVから逃れるため、小学生の娘と一時避難していた女性から相談があった。
対応にあたったのは、大阪府警の明道(みょうどう)厚士(こうじ)警部(56)。平成31年4月に発足した府警の人身安全対策室に所属。ストーカーやDVに加え、児童虐待事案の初動対応も担う。その中でも明道警部は、警察庁から「広域技能指導官」に指定された、その道のプロだ。
女性からの聞き取りで、夫がクリスマスプレゼントとして、数点の衣類を娘に送っていたことが分かった。プレゼントの一つであるブーツを金属探知機で調べると、靴底から衛星利用測位システム(GPS)機器が見つかった。
明らかに小さなサイズ…のぞく葛藤
夫に警告したところ、「どうしても娘に会いたかった」と述べた。
娘へのプレゼントと称して居場所を探る-。それだけ聞けば悪質性が高い印象を受けるが、夫には娘を思うがゆえの葛藤もあったという。
夫が送ったブーツは、娘が履くには明らかにサイズが小さかったのだ。
「GPSを仕込んだようなものを娘に履いてほしくなかった」。夫はそう説明した。夫の家には、娘のサイズに合うブーツもあった。「会いに行けたら、GPSのブーツと入れ替えて、きちんとプレゼントしたかった」
明道警部は「加害者本人も悪いことだという自覚はある。気持ちを落ち着かせて、関係の解消を納得させることが重要だ」と話す。
警察庁によると、ストーカー関連の被害相談は令和6年、全国で1万9567件に上った。前年から276件減少したものの、依然高い水準にある。ストーカー規制法違反容疑での摘発は1341件で、前年より260件増加した。
再犯や行為のエスカレートを防ぐため、警察庁は6年3月、ストーカー規制法に基づく禁止命令を受けた加害者全員に連絡を取って近況を把握するとともに、精神的治療の有効性などの紹介を徹底するよう全国の警察に通達を出した。同年の間に1039件の連絡を実施したという。
「孤立が再犯につながる」
大阪府警では医療機関の紹介とともに、事案に応じて治療費を負担する独自の制度も取り入れているほか、加害者と定期的に連絡を取っている。
いかにして被害者への思いを断ち切らせるのか。明道警部は「被害者の日常がどれほど奪われているか」を理解させることが重要だとする。
たとえば通勤・通学ができなくなり、外出そのものにも不安を感じる…。そうした事実を時間をかけて伝える。「動機は『好意』によるケースが多く、当初から危害を加えることが目的である場合は多くない。『相手を大切に思う気持ち』に訴えかけていく」
また明道警部は「孤立が再犯につながる」とも強調する。周囲のサポートで再犯を踏みとどまらせるため、家族や知人と情報を共有することもある。「孤独が自暴自棄にさせる。加害者が再犯を繰り返さない環境作りも課題だ」と話す。警察学校などで若手に講習も行い、自身の経験を伝えている。(鈴木源也)
府警人身安全対策室では24時間体制でストーカー被害の相談に応じている。専用ダイヤルは06・6937・2110。