カンボジアでの臓器移植をあっせんして違法に金銭を得た疑いで、東京都内の団体が警視庁に摘発された。団体を通じて現地に渡り、移植手術を受けた女性は帰国後、必要な医療を受けられない状態に一時陥った。診察した医師が取材に応じ、違法性が疑われる移植手術に潜むリスクを訴えた。(立原朱音、木村誠)
「やましいことをしたのだから責められるのではないかと、緊張した様子だった」。女性を診察した医師は、昨年初めて病院を訪ねてきたときの女性の様子をそう振り返った。
捜査関係者や医師によると、女性は数年間、腎不全を患っていた。一般社団法人「国際医療相談室」(東京)に相談し、カンボジアで腎臓の生体移植手術を受けた。
7日に臓器移植法違反(有償あっせん)容疑で逮捕された職業不詳の菊池仁達(ひろみち)容疑者(66)(横浜市都筑区)は、2023年2月に同法違反(無許可あっせん)容疑で逮捕されるまで約20年間、運営するNPO法人「難病患者支援の会」(解散)などを通じて移植希望者を海外の病院に案内してきた。警視庁は、保釈後の菊池容疑者が移植希望者を募る窓口として相談室を使っていたとみる。
移植手術を受けた患者は、他人の臓器を拒絶する体内の反応を抑えるため免疫抑制剤の定期的な投与が必要で、通院先の確保は欠かせない。相談室のウェブサイトでは、患者が帰国した後も「私たちが責任を持って診療の場までお繋(つな)ぎします」と記していた。
だが、女性が紹介された病院に移植専門医はおらず、その後、3か所の医療機関で臓器売買を疑われて診療を断られた。4か所目となったこの医師が「診察は行うが、警察に通報する」と語ると、ほっとした表情を見せたという。
女性は手術前、臓器を提供したドナー本人に会う機会もあったとされる。「臓器売買に当たる可能性は考えなかったのか」と医師に問われると、「手数料は団体に払った。ドナーには渡っていないと思った」と釈明した。
医師によると、臓器売買への関与を避けるため、違法性が疑われる海外移植手術を受けた患者の診察を拒む医療機関は多い。診察が受けられたとしても、移植時の診療記録が残っていないケースがほとんどのため、十分な医療を受けられない恐れもある。
あっせんを受けた患者の中には移植後、体調が一時的に悪化した人もいた。海外での違法な移植手術についてこの医師は、「自ら手術を受ける国や病院、医師を選べないリスクもある。健康を取り戻せたとしても、罪悪感を持ち続けるのではないか」と語った。
カンボジア有数の規模
逮捕容疑となった東京都内の70歳代男性への移植手術が行われたとされるカンボジアの「プレアケットメリア病院」は、プノンペン中心部にある。国防省傘下の病院で、20以上の診療科がある地域医療の中核的存在だ。
設立はフランス植民地時代の19世紀後半。病床数は1000床超と国内有数の規模を誇る。心疾患で月に1度通院するという女性(73)は、「施設は年々拡充され、医師も親切で信頼できる」と話す。
だが、AP通信などによると、インドネシアで2023年、腎臓の売却を希望する100人超をカンボジアに送り込んだとして仲介者らが逮捕された事件があり、その際に移植手術の場所とされたのが同院だった。
カンボジアでは16年、商業目的での臓器移植を禁止する法律が成立した。違反した場合は最大20年の禁錮刑が科される。ただ、違法な臓器売買は続いていると指摘される。現地で人身売買問題の対応にあたるNGOの代表は取材に、「臓器売買を行う外国のグループが国内で活動している」と話す。
読売新聞は同院に対し、日本人を含む臓器移植希望者への手術実績などについて5月下旬に質問状を送付したが、今月7日時点で回答はない。(プノンペン 竹内駿平)
「違法と無縁」団体が主張
国際医療相談室はウェブサイトで、「海外の公的・認定病院と連携し、透明性の高い情報提供を行っています」と説明。営利を目的とせず、日本の法制度を尊重して「違法行為とは無縁の支援体制」をとっているとし、不透明な費用は一切ないと主張していた。