サンマ漁の深刻な不振がメディアで報じられている。秋サンマ漁は8月上旬に解禁されたが、26日まで近海ものの水揚げは“ほぼゼロ”だった。20日に大型船による公海上の漁が解禁され、26日、根室港に戻った大型船団が473トンを水揚げし、ようやくホッと一息ついた格好だ。
サンマは北太平洋に広く生息する回遊魚で、以前までは毎年夏にオホーツク海や北海道東方沖で成長した群れが、9月頃から親潮にのって北海道近海に南下してきた。気候変動や海外需要の高まりなどもあって近年の漁獲量は減少傾向にあるが、今年は特に深刻だ。東海大学海洋学部の山田吉彦教授が解説する。
「今年は北海道近海の水温が例年より3℃から5℃も高い状態が続いているため、サンマの群れが日本に寄りつかないのです。冷凍設備をもつ大型船で2~3昼夜かけて根室から500km以上離れた公海まで出ないと、サンマの群れに出会えなくなっている。
しかも、それで獲れる公海サンマは、日本近海の豊富なプランクトンを食べていないので、小ぶりで脂がのっておらず、市場で高値がつかないのです」
小型船で近海のサンマ漁をしていた漁業者は、すでにほとんどがイワシ漁に転換しているという。
「近海で獲れる脂ののった200グラム以上のサンマは、1尾1000円以上で取引されるようになるでしょう。こういうサンマは高級料亭などに卸され、スーパーなどで目にすることはありません」(山田教授)
毎年秋になればスーパーなどで1尾100円程度で購入できた「脂ののったサンマ」が、もはや庶民の口には入らない高級魚になりつつあるのだ。
大型船での漁は、長距離を移動するためその分の燃料費がかさむ。一方で、魚介類の価格は市場のセリで決まるため、獲れたサンマが小ぶりで安値しかつかなければ、漁業者は赤字になる。赤字が続けば、いずれサンマ漁をやめて別の漁に転換する漁業者が増えるのは道理だろう。問題は、日本近海の海水温の上昇がいつまで続くかだ。
「予測は難しいですが、ここ数年、続いているのは事実です。何年か後に海水温が下がっても、サンマが日本列島から離れた生活に慣れてしまうと、習性が変わって戻ってこない可能性はあります。
期待できるとしたら、台風が北海道まで来て、海の水を攪拌して温度を下げることです。海水温が上昇すると台風も増えますから、これは自然のメカニズムと言えるかもしれません。また、数年から10年おきに発生して漁業や気象に影響を与える『黒潮の大蛇行』が今、起きているのですが、これが元に戻れば、サンマも戻ってくる可能性はあります」(山田教授)
サンマだけではない。イカも高い海水温を嫌って、寄りつかなくなっている。そのせいで、近海マグロも影響を受けているという。
「日本海の海水温も上昇していて、富山県や石川県のイカ漁の漁業者は、北海道の沖合まで北上してイカ漁をするようになっています。今年1月頃は大間のマグロが不漁でしたが、マグロの餌になるサンマやイカが日本の沿岸に近づかなくなったからです」(山田教授)
その一方で、逆のパターンもある。
「シラスが獲れるのは今まで福島県沖あたりが上限とされていましたが、海水温の上昇で、今は仙台沖でも獲れるようになっています。イワシも温かい水を好むため、北海道では豊漁で、それでサンマ漁の漁業者はイワシ漁に転換しているのです」(山田教授)
気候変動が生態系に影響を及ぼすなかで、我々の食生活も変えざるをえなくなる時代がやってきている。とはいえ、秋の味覚の代表だった秋刀魚=サンマがこのまま食卓から消えてしまうのは、なんとも寂しい限りだ。
●取材・文/清水典之(フリーライター)