暗号資産(仮想通貨)の代表例であるビットコインの評価は、これまで二転三転してきた。
生みの親と言われる正体不明の人物、サトシ・ナカモトのビットコインに関する論文には、「信用に依存しない」「必要なのは信用ではなく暗号化された証明」「第三者機関を通さない」といった表現がしばしば登場する。
ビットコインが最初にマイニングされたときのジェネシスブロックにも、「The Times 03/Jan/2009 Chancellor on brink of second bailout for banks」(財務大臣の2度目の銀行救済が間近 タイムズ紙 2009年1月3日)とサトシは書き込んでおり、中央銀行に依存する現在の金融の状況を皮肉っている。
サトシは国家のような中央集権ではなく、非中央集権を志向していたようで、これがプライバシーを重視する暗号関係者の共感を得た。そんな生い立ちから、銀行などを介さずに世界中どこへでも、プライバシーを保ったままで送金できる革命的テクノロジーだと、ビットコインは目されてきた。
ところが、誕生から複数回に渡って大規模な価格の暴騰が起きる。直近では、2017年に価格が1年で20倍にも上昇し、翌18年には暴落した。これだけ価格が変動すると、送金や決済などには使いにくい。価格が上がるかもしれないものを渡したくはないし、価格が下がるかもしれないものは受け取りたくないからだ。
当初ビットコインは、クリプト・カレンシー(暗号通貨)と呼ばれてきたが、こんな経緯から、通貨のように決済に使うのは難しいという見方が一般的になってきている。名前も、クリプト・アセット(暗号資産)という呼び方に変わってきた。
価格の上下はあっても、価値を維持し、保存する役割を担うことが資産の役割。そしてこのとき、しばしばビットコインの比較対象とされるのが「金」(ゴールド)だ。金が埋蔵量に上限があるように、ビットコインはアルゴリズム的に採掘上限が定められている。さらに、価値を保証する発行体がないというのも、ビットコインと金の共通点として挙げられる。
しかし、果たしてビットコインはデジタル版の「金」になり得るのか。マネックス証券のチーフアナリスト、大槻奈那氏に聞いた。
ビットコインとゴールドはどこが似ていて、どこが違う?
――ビットコインはデジタル・ゴールドだともいわれる。似ている点と違う点をどう捉えたらいいのか。
ゴールドは価値を蓄積できる。ゴールドを持っていることで、自分がどこに行っても、価値を一定程度は貯蔵できるものだ。金自体は利息も配当も生まないが、自分が働いて得たものを一時的に保管するツールにはなり得る。同じ意味で、ビットコインは金との類似性が比較的高いと思う。
ただしビットコインが本当に価値を安心して蓄えておくためには、価格が過度に下落しないこと、またハッキングなどの事故が起こらないことが重要だ。完全にこの問題を解決するのは難しい。この完璧ではないことを取って、ビットコインなんて……という人もいる。ただし金も同じで価格は上下するし、盗まれないかといったらそんなことはない。
「金には利用価値がある」という人もいる。アクセサリーにもなるし、機械の部品にもなる。ここが、ビットコインとの大きな違いだ。そのため、ビットコインが何らかの形で「使える」というニュースが出ると、価値が見直されて価格が上がる。ビットコインがさまざまな店舗で利用できるようになれば、金と類似の役割を果たせるようになるだろう。
金は重くて持ち運びにくいが、暗号資産は重量に制約されない。だから皮肉なことに、盗難が起きたときには金額のケタが違ってしまう。功罪あるが、物理的なモノを運ばなければいけないものに対して、移動が容易だという特徴もある。
――ビットコインと金の値動きは、連動しているようにも、していないようにも見える。
ちょっと前まで、金とビットコインの相関が高かった。19年の9月までを見ると、ビットコインと金の相関が高く、つまり株とは逆相関となっていた。そのため、金もビットコインも、株式(NYダウ平均)のヘッジ手段として考えられるかもしれない。
ビットコインをヘッジに使う人が増えるほど、株と逆相関になっていく。そのカギは機関投資家だ。ヘッジしなければいけない一番の人たちは機関投資家だからだ。
フィデリティが行った機関投資家への調査によると、暗号資産を保有したいと思っている人が一定いる。株が下がりそうなときに、これまでは金がヘッジの1つの手段だったが、別の手段としてビットコイン、あるいは暗号資産が注目されている。
金とビットコインは値動きの方向性は似ているが、ビットコインのほうが変動率が高いので、少ない額でヘッジできるかもしれない。
国の格付けに連動するビットコイン
――機関投資家がビットコインなどの暗号資産を、どう評価するかがカギということだった。米国では、機関投資家が暗号資産に目を向け始めているようだが、各国の状況はどうか。
米国では、機関投資家といってもファミリーオフィスが多いという話もある。日本では機関投資家の保有はほぼゼロ。欧州もこれからだ。米国以外では、他の要因でビットコインへの流入がある。
よくいわれるように、新興国からの資金の逃避先としてビットコインが選ばれている。価値を保存する方法として、自国の通貨よりもビットコインのほうが勝っているという国もあるからだ。
国の格付けと、国民の暗号資産への許容率の関係を見ると、見事な相関が見られる。格付けが低いトルコでは暗号資産への許容率が高く、格付けのより高いオーストラリアでは共立が低い。日本で調査すると、だいたい3割くらいが「今後、暗号資産は地位を増すと思う」と感じている。日本の格付けはA+くらいなので、日本もちょうどこのグラフに当てはまる。
ここから先、安定している国でも、財政がおかしくなって国の格付けが下がっていくと、トルコのような暗号資産の許容率に近づいていく可能性がある。国の信用力に応じて、ビットコインや暗号資産の需要が高まる可能性があるわけだ。
――ビットコインの適切な価格はどうやって決まると見ているのか。
ファンダメンタルズ分析でさまざまな資産を見た場合、株の価格については企業が生み出す収益で判断するが、ビットコインの価値はファンダメンタルズ分析では極めて難しい。どちらかというと、個人が投資するので価値が生まれている。
金などのコモディティと比較した場合、価値は利用されるかどうかにかかっている。取引所の口座数とビットコインの価格は、相応の相関がある。ユーザー数が拡大することが、市場の期待に直結しやすい。
18年に行われたケンブリッジの調査によると、当時の仮想通貨の口座数は1億少々くらい。当社が、日本の個人ユーザーに「Libraが利用できるようになったら使うか」とアンケートを取ったら、17%くらいが使うと答えた。Facebookの27億人のユーザーのうち17%が使うとしたら、4.5億人くらいになる。この人たちが即、ビットコインを使うわけではないが、暗号資産のマーケットにそれだけの口座が増えたら、現在の5倍くらいになる。ものすごくインパクトが大きい。
Libraのようなステーブルコインを持っていても何も生まない。運用するために、価格変動のあるビットコインなどに流入するという期待が生じてもおかしくない。
――マイニングにかかる電力などの採掘コストが、ビットコインの価格の論拠だという意見もある。また、2020年に見込まれるマイニング報酬の半減期が、価格上昇を後押しするという見方もある。
金については、採掘コストで考えている人はマーケットにいない。さまざまな製品についても、コストベースアプローチの見方もあるが、できあがった製品がどれだけ使えるかのほうが重要だ。
採掘コストは、頭の片隅には置かれる要素の1つだとは思う。しかし市場の商品は、みんなが上がると思えば価格は上がる。半減期の到来についても、同じようなものだ。
ビットコインは新たな資産クラスになり得るのか
――暗号資産は新たな資産クラスだという人と、資産には当たらないという人がいる。現時点ではどう見ているか。
伝統的な資産だけが価値があるものではない。例えばデリバティブも、当初はリアルな資産に対して、マネーゲームとして取引されているだけだといわれた。しかし取引が成り立つことで、資産として扱われ始めてきた。
外国通貨の取引についても、その国に行ってその通貨を使う人がやっているわけではない。ビットコインの取引も、ほかの株式などのヘッジツールであると捉えるなら、デリバティブと一緒だ。手に取れて、形が見えることは必須ではない。
マーケットが確立してくれば、自然と価値が定まってくるだろう。ビットコインETFも、承認は望み薄にはなってきたが、広い投資家層に訴求するきっかけになる。
――日本で再び暗号資産に注目が集まるのだろうか
日本は仮想通貨バブルの崩壊で痛い目にあっている。個人だけでなく、機関投資家もレピュテーション上、投資ができない。これが変わるには時間がかかる。米国でも、そこまで暗号資産がいいと思われているわけではないが、日本ほど悪い印象は広がっていない。
マウントゴックス事件のときも、マーケットが過去の痛みを忘れるのに3年くらいかかっている。それを見ると、この春の暗号資産の価格上昇は早すぎだ。
米国の機関投資家がポートフォリオを開示したときに、暗号資産が入っていて、パフォーマンスが高ければ、日本の機関投資家も負けないために暗号資産を組み入れることになる。実績として示されれば流れは変わってくる。
――「ビットコインはデジタル・ゴールドだ」ということに対しての、納得感はどのくらいか。
60%くらい。まだ完全に納得できていないところはある。(量子コンピューターが実用化されると暗号資産の基礎である暗号を解けてしまうかもしれないという)量子コンピューター問題しかり、ハッキングしかり。今後、暗号資産に技術的に大きな問題が出てくる可能性を考えると、そこはゴールドとは違う。
ゴールドはオールドファッションだからこそ、技術にやられることはない。原始的だからこそ安心できる。逆に、ビットコインはまだ開発途上だ。
ただし経済は、紙と金属のお金から変わりつつある。それを象徴するもの、夢として登場したのが暗号資産だ。価値の保存と決済手段として、一定程度は代替される可能性がある。
――ビットコインも2009年の誕生から11年目に入る。この年月をどう評価するか。
実績は重要だ。クレジットカードも、1950年代にできたときは10年経っても信用力がなかった。暗号資産は、新しい形の金融手段としてはこれからだ。昔は株式だって怪しいものとして禁止されたことがある。ビットコインが10年で数十兆円の価値にまでなっているのは、成熟のスピードが相当早いといえる。