山口組分裂抗争が最終局面 若頭出所で7代目の禅譲あるか

日本最大の暴力団、山口組の分裂は、ヤクザ社会にどのような変化をもたらしたのか。六代目山口組から神戸山口組が分裂して4年、その間に神戸山口組から任侠山口組が再分裂し、いまや3つの山口組が並存している。それにより、山口組以外の組織にも大きな地殻変動が起きていた。溝口敦氏(ジャーナリスト)と鈴木智彦氏(フリーライター)のヤクザ取材エキスパート2人が読み解く。
【写真】任侠山口組の織田組長
◆「禅譲の密約があると思う」
鈴木:しばらく静かだった山口組抗争ですが、8月21日に六代目山口組の中核団体である弘道会系組員が神戸市内の関連施設前で銃撃されたことで再び燃え上がった印象です。組員は身体に3発も被弾しながら、一命は取り留めたようですが。
溝口:神戸山口組の中核団体である山健組の関与が取り沙汰されていますが、山健組の中田浩司組長は兵庫県警の問い合わせに対し、「うちじゃないと思う。どこがやったか分からない」と答えたそうです。暴力団社会では誰もその通りには受け取りませんが。
鈴木:山健組ではこの4月、ナンバー2の與則和(あたえのりかず)若頭が弘道会系組員に襲撃され、臀部を包丁で突き刺された。その報復と見るのがセオリーということですね。
溝口:もっとも、今回襲撃されたのは末端組員です。弘道会は山健組の若頭を刺し、以前には神戸山口組のもう一つの主力団体である池田組の若頭も弘道会系組員によって射殺されている(2016年5月)。それと比較すると、報復としては弱い。
鈴木:とはいえ、特に任侠山口組が再分裂して以降、劣勢にあった神戸山口組、中でも山健組がちょっと盛り返した空気になっているのは事実です。対する弘道会は非常にピリピリしている。
ヤクザは「やられたらやり返す」が鉄則だから、弘道会としては山健組に報復するしかないし、かなり上の幹部が狙われるのではないでしょうか。もともとこの山口組抗争は、かつて主流派だった山健組が現主流派の弘道会支配から逃れるために分裂して起きたことですし。
溝口:しかしながら、実際に抗争するのは難しいのではないか。10月には天皇陛下の即位の礼があります。天皇を重んじるヤクザがその間に抗争することはあり得ないため、やるなら9月中ということになる。しかし今、弘道会がやり返せば、飛んで火に入る夏の虫とばかりに警察から「組織的犯行」とみなされ幹部まで逮捕される可能性が高い。そこまでのリスクを負えるでしょうか。
鈴木:一方で、同じく10月には山口組分裂の最大のキーマンと言うべき六代目山口組・高山清司若頭が出所してきます。高山若頭の出身母体である弘道会のトラブルを出所する前に解決しておかないと、高山若頭が出てきたときに今まで何もしなかったのかって処分されるんじゃないかと親・弘道会の直参組織はみなビビっている。それほど高山若頭は恐れられていますから。
溝口:そもそも高山の恐怖支配こそが、神戸山口組が出て行った最大の理由ですからね。そして神戸の幹部にしても、「高山が収監されたから反旗を翻したのか」と聞くと、「その通りだ」とはっきり言っていた。鬼のいぬ間に出て行ったということです。
鈴木:六代目山口組は司忍組長と高山清司若頭がともに弘道会出身ですが、これは異例中の異例でした。これまでは山口組組長とナンバー2の若頭の出身母体は別の組織から出すのが慣例だったので、これが火種になったんですよね。
溝口:執行部に入るのは1つの組から1人と決まっていましたからね。
鈴木:他の組が怒るのは当然で、要するに、若頭というのは次期組長と目されるわけですから、「弘道会が続けて2回もやるんじゃねえよ」ってことです。
溝口:私は、高山と司の間で、「出所したら山口組の七代目は高山に譲る」という密約が結ばれていると思う。というのも、高山は恐喝容疑で逮捕され最高裁まで上告したのに、途中で取り下げて収監されましたから。
鈴木:すでに73歳と高齢なので、早めに刑務所に行ったほうが出所してからの現役生活を長くできると考えたのかもしれません。
●みぞぐち・あつし/1942年、東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業。ノンフィクション作家。『食肉の帝王』で2004年に講談社ノンフィクション賞を受賞。主な著書に『暴力団』『山口組三国志 織田絆誠という男』『さらば! サラリーマン』など。
●すずき・ともひこ/1966年、北海道生まれ。日本大学芸術学部写真学科除籍。ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーに。主な著書に『潜入ルポ ヤクザの修羅場』『ヤクザと原発』『サカナとヤクザ』など。
※週刊ポスト2019年9月20・27日号