公立小学校教員の2019年度採用の試験の倍率が全国で2・8倍(前年度比0・4ポイント減)と、1991年度と並んで過去最低だったことが23日、文部科学省が発表した調査結果で明らかになった。組織で人材の質を維持するのに必要とされる倍率は3倍とされ、「危険水域」を割った。70年代前半に生まれた団塊ジュニア世代の小学校入学に備えて80年代に大量採用した教員が退職を迎えて採用数が増えたことに加え、多忙な職場環境が敬遠され志望者が減少傾向にあることが要因とみられる。
文科省によると、小学校教員の採用試験の倍率が過去最高だったのは公務員が人気だった就職氷河期の00年度で12・5倍。このときの採用者数は過去最低の3683人で、受験者は4万6156人だった。その後、団塊の世代の大量退職に伴って採用者数は増加傾向となった。19年度の採用者数は1万7029人と00年度の5倍に膨らんだが、受験者数は4万7661人と00年度とほぼ同じだった。
都道府県・政令市別でみると、地域差があり、最低の新潟県が1・2倍なのに対し、最高の兵庫県は6・1倍。文科省担当者は「採用者数を中長期的に安定させている自治体は倍率が高い。子どもの数、退職教員数に応じて場当たり的な採用を続けてきた自治体は倍率が低い」と説明する。低倍率の自治体については「質の高い人材を採用できない可能性がある」として改善を求める方針だ。
教員採用試験の倍率は中学校が5・7倍(前年度比1・1ポイント減)、高校は6・9倍(同0・8ポイント減)だった。中高は専科教員で、教育学部だけでなく、さまざまな学部の学生が受験しやすいことが小学校に比べて高い一因とされる。
教員の多忙解消策の一環で、勤務時間を年単位で調整する変形労働時間制の導入を柱とする改正教職員給与特別措置法(給特法)が12月に成立し、早ければ21年度から導入されるが、教員からは実効性に疑問の声も出ている。【水戸健一】
名古屋大大学院の内田良准教授(教育学)の話
学校が「ブラック職場」だとして敬遠した学生は私の周りにもいる。ただし、今回は2018年度に受験した学生の採用倍率だ。この1、2年で教員養成学部に入った学生はシビアに学校の現状を見ている。長時間労働を問題視する声の高まりを受け、今後、倍率がさらに低下する懸念もある。受験数減に歯止めをかけるため、働き方改革の推進が急務だ。
小学校教員の採用倍率
<倍率の低い都道府県・政令市>
新潟県1・2
福岡県1・3
佐賀県1・6
北海道・札幌市1・7
北九州市1・7
<倍率の高い都道府県・政令市>
兵庫県6・1
高知県5・8
相模原市5・8
群馬県5・5
三重県5・0
※北海道と札幌市は合同で採用
※東京都、大阪府、熊本県、堺市は全学校種の倍率のため除いた